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怜は笹岡の肩に手を回す。何度も唇同士で触れ、互いの唇を舌で舐め合う。怜は自分からはまだどうすればいいのかは分からなかったが、それでもそうしてるうち笹岡の事がかわいいと思えて仕方がなかった。笹岡は暫く同じようにキスを繰り返していたが、ふと辞めて、怜から顔を離した。
怜が、笹岡の方を見つめていると、笹岡は目線を逸らし、それから暫く何を言おうか考えている。
「…俺」
「…」
「サワグチってさあ、死ぬほど鈍いんだと思ってたんだけどさ」
「…うん」
「でも案外…ていうか」
「なに」
「結構さ、そうじゃないのかもしんないな。」
「俺も、よく分かんない」
「なんだそれ」
笹岡は怜の顔を見る。
「気持ちよかった?」
笹岡は目線を逸らせたままで呟く。
「うん」
「じゃあまだ、もっとしてくれてもいいよ」
笹岡は怜の身体に手を当てたままで呟いたあと怜の顔を見る。
「……」
そう言われた怜は笹岡の肩を掴んでた手に力を込めると、笹岡が上を向くように横を向いて居た体をベッドへと押し付ける。
驚いている笹岡の顔を見て一瞬、ギクリとしたが、笹岡から言われた事に背中を押されるようにして、もう一度、今度は自分から笹岡の唇に口を重ねる。
「……」
殆ど初めてのキスを、一体どうすればいいのか分からず、怜は笹岡からされたことと同じように唇を重ねた。その後、何となく離れ笹岡の顔を見た後でもう一度、キスをする。怜は笹岡の上から覆い被さるようにして、肩を手で掴んでいる。
「サワグチ」
「ん」
「……でもやっぱり外出…」
「え?」
「もう、5時になるよ。外、行かなくてもいいの」
「…今から?」
「うん。折角、…来たのに。俺も」
「…まじで」
怜は改めて体を起こし、仰向けになったままの笹岡の事を見下ろす。いつの間にか衣服もぐちゃぐちゃになっていて、これから出掛けるという気持ちもすっかり失せて居た。けどそう言われれば確かに、一体何をしに来たのかと問われているみたいな気持ちになる。
「行く?外。」
怜はそう言うと、笹岡は意外にも「うん」と答えて起きあがろうとする。
怜もそれに合わせて体を離し、所在なく頭を掻いている。
「サワグチはさあ、一人で行こうと思ってた時は、どこへ行くつもりだったの?」
「……うーん。美術館とか、神社とかタワーとか…でもバスでの移動もあったから、ぼちぼち回れれば良いかなってくらいだったけど」
「ふうん。じゃあ、そこにしよう。時間、ちょっと見てみる。」
「そこって?美術館?」
「うん。それだったら俺も聞いたことあるし」
怜は笹岡がベッドの上で腰掛けてスマホを操作している姿を見ていたが、ため息をついてベッドの上に突っ伏すようにして横になる。
ぼふっと音がして、怜の体は再びベッドの布団に埋もれる。
笹岡はそれをチラと見るが、気にせずにスマホを操作し続ける。
「他の場所でもいいんだけどさ。ほら、でも8時まで、やってるって。行こうか。」
「……」
「まだ眠いの?サワグチ。
早く準備してよ。」
「いや…ちょっと待って…」
怜はベッドに顔を埋もれさせ、暫し身動きする事なくその場に寝転んでいる。
「おいって」
「お前さ、…」
「何だよ」
「いや、…だからフットワーク軽すぎない?」
「何がだよ。お前が、観光したくて、予定組んでアルバイトして来たんじゃないのかよ」
「………」
確かにそうだった。
笹岡はもうついさっきまで布団の中であった事を丸切り忘れたみたいにして怜の身体を揺り起こそうとしている。
確かにまだ、日は沈んでおらず外は明るい。夕飯を食べるにしても腹も空いて居ない。寝るにしても勿体無い時間だった。
だが…
(普通そんなすぐ動けねーだろ…)
「サワグチ?」
だが、笹岡はそんな事お構いなしに顔を覗き込んで来る。
美術館に着いた二人は入館料を払い、かつては銀行だったという11階建ての物々しい建物の一階の内部を並んで見学しながら通り抜けて行く。
「なんかさあ、千葉ってスケールがデッカいな」
「うん。」
怜は、笹岡の隣で歩きながらチケットを丸めたり伸ばしたりしつつ、目の前に広がっている建物の柱や中世の洋館のような建物を眺めている。
笹岡は怜の姿をちらと見るが、それよりも美術館に単純に感心しているみたいだ。声のトーンが自然と上がっている。
「いやデカすぎ。俺達の町の偉い人なんてとてもこんなもの建てるの思い付かないぜ」
笹岡はそう言って、怜を殆ど放ったらかしにして先を歩き内部を探索して行く。
「ここは、来たことあるの。サワグチは」振り向いた笹岡が言う。
「うん。まああるよ」
「ふうん。家族で?」
「そうだよ。何回か来たかな」
「ふーん、そうなのか。」
いつの間にか笹岡はは怜の隣に来て、「こういうのが好きなんだ」そう呟く。
「まだ、何も見てないけどね。ここから上がって行って色んなもの、見れるようになってるから。色んな展示とか、イベントもやってるよ。11階に、レストランもあるし」
「へえ。そこで食う?夕飯」
「いや…昼に結構なとこで食べたから、時間も微妙だし俺もう適当なもんで良いかなって思ってた」
「ふーん。まあそうだな。じゃあ、上に上がろうか」
そう言って笹岡は怜の方へと手を差し出して来る。
怜はその笑顔を見つめ、やっぱりこいつと居る限り、自分だけこんな不可解な気持ちになるのかも知れないと思っていた。