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「え、ちょっと待って、アメリカ?」
北斗は優吾に訊き返す。
「うん。慎太郎が、大学でアメリカに遺伝子関連の研究所があるっていう論文を見つけてくれてさ。でしかも、俺の会社からニューヨークに取材に行く指令が出て。ちょうどいいタイミングだから行こうと思うんだけど」
ああ、と声を漏らす。
「そういうことか…。いや、急でびっくりしたよ」
ごめんごめん、と笑う。
「じゃあ、行ったら大我くんもなんか思い出せるかもね。もしかしたら辛いかもしれないけど…」
でも優吾は首を振った。「いや、ちょっと紫外線が危ない。大我は歩かせられないから今回は留守番」
「そうか…。でも兄ちゃん英語わかんないだろ? ジェシーも連れてかないと」
「もちろんそのつもり。里帰りも兼ねて」
ジェシーの父はアメリカ人で、実家はアメリカにある。
すごいことになってきたな、と北斗は肩をすくめた。
「え、アメリカ?」
その日の夜、6人で夕食を囲むテーブルで優吾がそのプランについて話した。
北斗は黙々と食べているが、4人は箸を止める。大我の顔色も少し変わった。
「ちょうどいいだろ? だからジェシーも連れて、2人で行こうかなって考えてる」
いいけど、とジェシーはうなずく。
と、「僕も」
大我が口を挟んだ。「僕も行く」
5人は驚いて振り向く。
「でも…、紫外線の問題がある。危ないよ」
樹が言った。それに反論したのは、慎太郎だった。
「だけど、せっかく行きたいって言ってるんならいいじゃん。対策は万全にしてさ」
確かに、彼が希望を口にしたのは初めてだった。
優吾は考えた末に、首を縦に振った。
「わかった。紫外線対策はしっかりすることが条件で。…あんまり旅行とか連れて行ってあげられてないしね」
ありがとう、と大我は微笑んだ。
その後、優吾と樹が並んでお皿洗いをしていると、慎太郎が何やら紙を持ってきた。
「あのさ、これ、人間科学部の教授にもらった遺伝子学の論文のコピーなんだけど…」
どれどれ、と2人は受け取って目を通す。でもすぐにその表情は曇ってしまった。
「むず」
「言葉堅すぎだろ…」
慎太郎は苦笑して、
「その教授によれば、内容は…特別な遺伝子のメカニズムを研究すれば、人間の未知の領域が開けるとか書いてあるらしい」
「…俺にはよくわかんねーけど、要するにやっぱそういう施設はあるってことだね」
樹が言う。
「うん。で、アメリカで極秘で進められてる研究があるって記されてるとも言ってた。詳しいことはわかんないけど」
「…じゃあ、優吾兄ちゃんに任せるしかないな」
「おう。まあ一か八か状態だけど、面目上は俺の仕事だし。ジェシーのお父さんにも顔出したいしな」
よろしくね、と慎太郎は踵を返した。
続く