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白露は唇を噛んで沈黙を貫いている。その顔に以前のような明るさはなかった。
だけど恐怖は湧かない。彼は、親友だから。
……十年前、自分が傷つけた親友だ。
「ずっと謝りたかった。でもどんなに捜してもお前の居場所が分からなくて、次第に忘れていった。あんな酷いことを言ったのに」
人を傷つけたことを忘れた。それこそが一番大きな罪だ。
「ごめん。俺はお前と同じ同性愛者だったんだ。そんでお前のことが好きだった」
迷いながらも告げた言葉。瞬間、白露の眉が動いた。怒りなのか呆れなのか分からない、震えた声を上げる。
「好きだった? はっ! ……嘘つき。冗談で言ったときと同じだろ? 十年経ってもまだ俺をからかうわけ?」
彼の瞳が波紋を広げたかのように揺れる。
声も指も、この世界すらも、まるで地震が起きてるかのように揺れていた。
「俺の顔なんて忘れてたじゃないか! 俺はずっと秦城のことを想ってたのに……!」
そして、彼はもう認めていた。自分が、十年前の“親友”だということを。全て認めた上で、胸の内をさらけだす。
「勝手に告白して、勝手に傷ついて、……俺はここに閉じこもった。だからまた気まずい関係になるより、何も知らなかった頃に戻ってやり直そうと思ったんだよ!」
反響はしない。それでも悲痛な声が突き刺さる。
彼の後悔の言葉は何ものにも変え難い呪縛の言葉に聞こえた。
「秦城が好きだったよ。たった数ヶ月なのに、人生で一番楽しい時間だった。それが一瞬でなくなった……迷いまくってした告白だったけど、……あのとき、交差点で撥ねられて死んどけばよかった」
「馬鹿言うな。それに死ぬべきは俺だよ。それこそ、ここに来るときに……お前は俺を助ける必要なんてなかったんだ。でも、助けてくれたから」
清心は強く言い返した後、前に進んで彼の手をとった。
しっかり掴んで離さない。払われても決して逃がさないように、強い力で押さえ込んでいた。
「許してくれとは言わないし、言えない。でも俺はお前と、この先もずっと一緒にいたい。お前と生きたい。だから帰ろう。……匡」
名前を呼んだ。彼の本当の名前は、前から何度も呼んでいた。
なのに思い出さなかった、自分をこれでもかというほど殴ってやりたい。
清心はポケットから取り出したスマホを彼に見せつけるように翳した。
「現実のお前は、今倒れて病院にいる。だから早く帰って目を覚まそう」