TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

(勝った、はずだった)

そう思っていた。


椎名先生は姿を見せなくなり、

教室の空気は、また“私の支配下”に戻ったように見えた。


村瀬も、玲那も、もうこの場所にはいない。

私の声も、言葉も、もう発さなくても空気が拾ってくれる。


(完璧だった)


でも――

何かが、ズレ始めていた。



「ねえ、片倉さんって、昔からあんな感じだったっけ?」

「ちょっと怖いよね。笑わないし、誰ともつるまないし」


放課後、誰かの“無邪気な悪意”が、また空気に紛れていた。


(なんで……? 私は何もしてないのに)


その“何もしなさ”こそが、今の空気にとって“不気味”なのだと、

私は薄々気づいていた。



翌朝。昇降口で、知らない1年生に声をかけられた。


「すみません、3年の片倉先輩ですよね?」


「……そうだけど」


「これ、落とし物……じゃないかもしれませんけど……」


差し出されたのは、一枚の折りたたまれた紙。

中を開くと、手書きの文字でこう書かれていた。

「あなたが奪った空気、いずれあなたを窒息させるよ。」


名前はなかった。筆跡にも覚えがない。


けれど、その“言い回し”だけは、心の奥に引っかかる。


(誰? こんな言葉、使うの……)



放課後、図書室。

久々に姿を現した西園寺が、本のページをめくりながら口を開いた。


「空気って、不思議だよね。

君が勝った瞬間に、もう“負けの準備”は始まってるんだ」


「……何が言いたいの?」


「茅野、玲那、村瀬、椎名……」


彼はページをめくるたびに、名前を並べていった。


「彼らに共通しているのは、“君に近づきすぎた”ってこと。 でも、

もうひとり、“最後まで近づけなかった子”がいたの、覚えてる?


私は喉が詰まったようになった。


「……誰?」


西園寺は目を上げて、言った。


「“茅野”とだけ、ずっと繋がっていた子。

君がその存在を一度も意識しなかった、“空気の端”にいた子」


「……名前を言って」


「……言わない方が面白いと思わない?

だって、もうすぐ向こうから来るよ。

君の名前を、“呼ばずに”ね」



教室に戻ると、机の上にまた紙が置かれていた。


今度は、こう書かれていた。

「茅野瑠海は、今でも笑ってると思う?」

「その笑顔の理由、思い出せる?」


文字が滲んでいた。

それが、涙なのか、雨なのか、わからなかった。


私は思わず周囲を見渡した。

誰もこちらを見ていない。


けれど、“見えない視線”だけが、確かに存在していた。



(空気が変わっている)


(また、“私以外の誰か”が支配しようとしている)


そして、それが“誰か”を、私はまったく見当もつけられずにいた。


『感情を殺した日』

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

35

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚