テラーノベル
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言葉はなかった。
名指しもなかった。
だけど、**「誰のことを言っているのか」**は、みんな、わかっていた。
《あの子、怖くない?》
《ずっと誰か見てるよね》
《先生まで消えたの、偶然?》
そんな投稿が、誰の名前も書かれずにSNSに並ぶ。
「片倉」という名前は出てこない。
でも“私”のことだと、わかるように仕組まれていた。
(誰が……こんなこと……)
私は指の震えを押さえながら画面を閉じた。
⸻
登校して最初に気づいたのは、**「声がかからないこと」**だった。
クラスの誰もが、目を逸らす。
いつも無言だった私が無言でいるだけなのに、空気が「異常」扱いを始めていた。
一人になった昼休み。
食堂で座っていると、背後から声が聞こえた。
「さすがにさ、あそこまで全部崩れると……怖いよね」
「しかも、誰にもバレないようにって、怖すぎでしょ」
(……全部、知ってるような言い方)
言葉は背後から投げられ、名指しはされない。
でも、私の心には、直に突き刺さった。
⸻
放課後、私は久しぶりに裏庭のベンチに向かった。
目を閉じて風を受ける。
(ねえ、玲那。
今なら、君の気持ちが少しだけ、わかる気がするよ)
「……ひとりで話してると、やばい人って思われるよ」
静かな声に、はっと目を開けると、西園寺がいた。
いつものように、壁にもたれ、表情の読めない顔でこちらを見ていた。
「見てて面白いよ。
“無言の世界”の中で、君だけが音を探してる」
「……何が言いたいの?」
「君は、最初から“空気”を支配してたんじゃない。
空気に“選ばれて”ただけ。
でもそれは、いつだって“他の誰か”に代わるんだよ」
私は、唇を噛みしめた。
「つまり、今、私が……外されてるってこと?」
「そう。でもね――」
西園寺は静かに笑った。
「面白いのはここからだよ。
君の“声”が消えるとき、誰が“声を持つか”って話」
⸻
帰り道。スマホに1件の通知。
《From:無記名ユーザー》
《玲那って子、ほんとに壊されたのかな? “笑ってた”って噂もあるけど》
その文面は、まるで“試すような”響きだった。
(誰……?)
手が震える。
目の奥が熱くなる。
それでも、私は泣けなかった。
“感情を殺した女”には、泣く資格すら、残っていない。
⸻
夜。自室の壁に飾られた鏡。
その中の私は、誰よりも“無表情”だった。
それが、いちばん怖かった。
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