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橘靖竜
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深夜——。
照明を落とした部屋に、モニターの光だけが浮かんでいた。
カーソルは、最後の確認画面の上で静止している。
指先が、わずかに震えた。
——本当に、ここまで来た。
男は深く息を吸い、マウスをクリックした。
画面に「リリースが完了しました」の文字が表示される。
「……やっとできた」
思わず、声が漏れた。
その言葉が誰に向けられたものなのか、自分でも分からなかった。
夜の静寂の中で、新しい何かが世界へと放たれた。
——五年後。
新大阪駅のホームに、朝の空気が流れていた。
発車時刻を告げるアナウンスが、反響する。
歩夢は、東京行きの新幹線を前に立っていた。
上京とともに始まる大学生活に 期待と不安が、
胸の中で同じ重さで揺れている。
振り返ると母は何も言わず、ただ不安そうに息子を見つめている。
「いってくるね。」
妹はスマートフォンから目を離さない。
「……あんた、お兄ちゃんに何か言いなさい」
母が小さく注意すると、妹は画面を見たまま答えた。
「今、Dシェア見てんの! すごい夢流れてきてる!」
その言葉を合図に、列車のドアが開く音がした。
電車に乗り込もうとすると母は歩夢に投げかけた。
「気をつけてね。」
閉まるドアの隙間から手を振った。