テラーノベル
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千歳の声に振り向くと、黒い一反木綿の格好の千歳が飛びついてきた。胴体に千歳の尻尾を巻き付けられるのを感じる。
千歳は、満面の笑みで言った。
『ただいま!』
ここは家じゃないけど、俺は頬がゆるむのを感じた。
「おかえり。大変だった?」
『そんなでもない。あ、でもフライパンでクッキー焼けるようになった!』
どういうことなの?
「大変だったのは、わたくしと九ですわよ」
深山さんが、疲れた顔で奥から出てきた。
「あ、どうも、今回は本当にありがとうございます。砂糖と蜂蜜、佐和さんから頂いた住所に送らせていただきました」
千歳に巻き付かれたまま、俺は頭を下げた。深山さんは頷いた。
「それは結構。あと、その怨霊、あなたに名前で呼びかけられるようになった以外にも、少し変わってますわよ」
『え、そうなのか?』
千歳は首を傾げた。深山さんは俺を見て言った。
「ちょっと、その怨霊を触ってみなさい」
「え、はい」
俺に抱きつく千歳の腕に、軽く触れる。その腕が、ほのかに温かいことに気づいた。
「あれ、千歳、あったかい……」
そう言えば、これまで千歳に明確な体温を感じなかったことに、俺は今気づいた。
『え、ワシ、あったかくなってるのか?』
千歳は自分の体を見下ろした。深山さんは「まあ、より体がしっかりしたということですわね」と頷いた。
「祠に封印してたときの術式、名前関連以外にも微細に残ってたの、すべて解きましたのよ。より実体ができた霊になってるはずですわ」
へえー。
「そんなのあるんですか」
そう返事しつつ、また千歳をそっと触り直す。やっぱり体温を感じる。
なんだか感慨深く感じてしまって、そのままでいると、千歳に不安げに聞かれた。
『和泉、ワシくっつくと暑いか?』
「いや、全然。そういうんじゃないよ」
全然暑くはないんだけど、そうか、今日から千歳と一緒に寝たら体温を感じるのか。弾力が会って、あったかい相手がくっついてくるのか。え、どうしよう、なんかドキドキしてきたな……。
奥から「仲良くやっとるのう」と九さんが出てきたので、俺はまた「今回はありがとうございます」と頭を下げた。
「あの、九さんにもご助力頂いたということで、何かお礼を……」
『あ、そっか。組紐でもいいか?』
二人で聞くと、九さんは首を横に振った。
「妾にはいらん。まあ、お前たちが仲良くやっておると確認できれば、それで十分じゃ」
九さんは、満足げに笑った。
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コメント
1件
ああ、このエピソード、すごく良かったです……!千歳くんが実体を得て、和泉くんに「あったかい」って気づかせる流れ、もう心臓がぎゅっとなりました。今まで体温を感じなかった存在が、ほんのり温かくなるって、愛おしさが増す瞬間ですよね。そして和泉くんの「一緒に寝たら体温を感じるのか…」のところ、ドキドキしてるのが伝わってきて、こっちまで照れました。九さんと深山さんの温かい見守りも素敵。363話も積み重ねてきた二人の関係が、確かに深まってるのが伝わってきて、読者としてとても幸せな気持ちになりました🌷