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白山小梅
12
#借金
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* * * *
チェックインを済ませてエレベーターに乗り込んだ六人だったが、話はすぐに七香と昴の話題になった。
「ねぇねぇ、あの人って誰? ちょっと年上だよね」
「俺たちより大人な感じがしたよな。なんかあのオーラにビビったもん」
このサークル内で唯一のカップルである|楓《かえで》と涼太が顔を見合わせて話し始める。
あれから五年、つまり昴は二十六歳になったのだろう。頭の中で先ほど会った時の昴の姿を思い出し、自分が知っている彼との違いを感じた。
「そうだねぇ。年上だよ」
「しかもめちゃくちゃカッコよかったよ! 私が推してる"RainMan"のカッキーに似てなかった⁈ 私はミッチー推しだからときめくわけじゃないけど、顔は良かった!」
アイドルの推し活に生活の全てを捧げている羅南が興奮気味に言った。それに対して、七香は大きく頷いた。
「顔はねぇ」
「でもあんな派手な女を連れてるんだよ。なんかチャラい感じがしたなぁ」
「わかる。島波とはタイプがだいぶ違う気がしたよ」
昴に対して良い印象を抱かなかったのだろう。翔子が眉間に皺を寄せながら吐き捨てると、それに松倉も賛同するように頷いた。
昴の隣にいるのは早紀だとずっと思っていたから、今日の光景には納得出来ない自分もいる。
もう別れたのだろうか、それとも今日の人たちはただの友達かーーでも友達があんなふうに腕にしがみついたりする? 自分ならしない。何故か胃がムカムカし、苛立ちを感じる。昴を平気で傷つける早紀にあんなに腹を立てたが、昴が心から愛している人だからと失恋を認めたのにーー。
「確かにタイプは違うよねぇ」
「でも俺、ああいうクールな男に憧れるかも」
「高田はすぐに熱くなるからねー! 冷静になった方がいい時が多々あるし」
「そ、それは温泉サークルなんだし! 熱くなるのはいいことじゃないか!」
「ほーら、また熱くなった」
エレベーターの中で笑いが起こったころ、全員が宿泊する三階に到着する。
部屋は男女で分かれてニ部屋とってあったが、同じフロアの両端で離れていたため、エレベーターを降りてすぐに別行動になった。
「じゃあ時間が時間だし、一回温泉に入ってから、夕食の時間に集合しようか」
「そうだね、それまでは自由時間ってことで」
「了解」
高田の提案に皆が頷くと、男女はそれぞれ分かれた方向へと歩き出した。
「あっ、ここだね」
部屋の鍵を開けて中に入ると、畳敷きの広い和室が現れる。そしてその奥の障子を開けた楓が感嘆の声を漏らした。
「うわぁ、川と緑が素敵過ぎる!」
「どれどれ……おぉ、すごくきれい」
荷物を置いてから全員が窓辺によると、疲れを癒すように椅子に腰を下ろした。
「みんなお疲れ様。今日は楽しかった?」
「うん、なかなか楽しかったよー。ブルーベリー狩りでしょ、それから美術館とか神社にも行ったし。七香は? 結婚式はどうだった?」
「うん、久しぶりにいろんな人に会えたから楽しかった」
「……ところで、さっきの人ってどういう関係?」
「昔の知り合いってだけ。バイト先で知り合ったけど、それっきりだったんだよね。まさかこんな所で会うとは思わなかったけど」
「それって恋愛要素は絡んでるの?」
羅南に聞かれ、七香はしばらく黙ってから苦笑した。
「んー、まぁ昔はちょっとね。今はないよ、もう懲りたし」
「うわっ、松倉にライバル出現じゃない」
「それはないよ。だって七香、元々松倉に興味ないし」
「あはは、それもそうか! でも松倉がちょっと気の毒だねぇ」
「まぁ恋ってそんなものじゃない。好きな人が自分を好きなだなんて、ある意味奇跡に近いからね」
「それなら楓は奇跡の産物だ」
「あーあ、私にも奇跡が起きないかなぁ」
自分のことなのに全く実感がないのは、やはり七香が松倉を微塵にも意識していないからだと自覚していた。それよりも七香の心をざわつかせるのは、危険だとわかっていても昴の方だった。
あぁ、なんだか気分が良くないーー窓からぼんやりと外を眺めていると、川と緑が美しく輝く光景が目に入る。そういえばあのペンションの周りもこんな感じだった。そう思うと、なぜか心臓が高鳴り始めた。
「みんなすぐに温泉に行く?」
「ん? いや、もう少しゆっくりしてからにしようかな」
「同感。ってか、どうして?」
「下の景色がきれいだから、少し写真を撮ってきてもいい?」
「別にいいよ。そうだなぁ、一時間後くらいには温泉に行きたいな」
「分かった。それまでに帰ってくるね」
七香は頷くと、カバンからカメラを取り出し、部屋から飛び出した。