テラーノベル
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西の鉱山の街――ベルデに暮らす人間は、シオンによって全て殺された。人数としては300人ほどで、街の規模にしては少なすぎるくらいだ。リディアはそこに、シオンとデュラン、そしてジジを含めたドワーフたち6人を派遣した。
「……ひゅぅ。それにしても、誰もいねぇな……」
「はい。ここは廃墟だったようです」
デュランの言葉に、シオンは何事も無いように答えた。それを聞いて、デュランは自分の失言に気が付く。ドワーフの前では、ここは最初から廃墟だった――ということにしていた。何故かと言えば、リディアがそう命じたからだ。
「は、ははは……。こんな立派な街なのに、捨てられちまったのかな……?」
人間の遺体は、既にシオンによって片付けられている。何箇所かに分散されて、今はもう土の中だ。
「リディア様がお待ちです。無駄足を踏まずに、鉱山へ向かいましょう」
「せっかくここまで来たんだから、じっくり見学したいもんだが……。リディア姐さんが待ってるんじゃ、仕方がねぇなぁ……」
ジジはぼやきながらも、辺りを熱心に見ている。ベルデはドワーフの集落よりも広いため、最近建築の仕事をしている彼としては、家の作りにも興味が向いていたのだ。
「そうですね……。あそこの家は、比較的キレイでした。1軒くらいなら、大丈夫かと思います」
「お、シオンは話せるねぇ! それじゃお前ら、早速見に行くぞ!!」
ジジの言葉に、他のドワーフたちも盛り上がる。気が付くと、さっさと走って行ってしまった。
「……はぁ、何も知らずに呑気なことで……。それにしてもシオン、お前がひとりで、この街の連中を全滅させるとはなぁ……」
「リディア様が作った道具のおかげです。僕はただ、ひとりひとり殺していっただけです」
「お前、その歳で……。……はぁ、リディアも無茶をさせるぜ」
「リディア様はお優しい方です。無茶なんてことはありません」
「まぁ……お前が良いなら、良いんだけどよ」
リディアもシオンも、おかしな価値観をしているが――今となっては、デュランもそれを不思議と受け入れていた。何を考えているのか、分からないときがある。しかし普段のふたりを見ていれば、案外そんなおかしいことをやっているわけでもない……ような。
「デュランさんは、ベルデに来たことはあるんですか?」
「子供の頃、近くに住んでいた……ってくらいだな」
「そのときは、どんな街でしたか?」
「人間にとっては、平和そのものだったぜ? 人通りも多かったし……。でも、俺たち猫獣人は――嫌な目で見られたり、奴隷にされたり……とか。まぁ、俺は奴隷にはならなかったけどさ」
「へぇ……。最近の様子とは、ずいぶん違ったんですね」
「……それはそうだろ。変なことを言うなぁ……」
しばらく雑談をしていると、ドワーフたちが建物について語りながら戻ってきた。このあとは鉱山に行く予定のため、早めに切り上げてきたのだ。
「すまん、待たせたな! でも、オルトゥスでの建築にも活かすから!」
「はい、よろしくお願いします。それではみなさん、鉱山に向かいましょう」
シオンの言葉に、全員が頷いた。デュランはそれを見て、小さなリーダーに少しばかりの関心を寄せていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リディアは自分の工房で、1本の試験管を眺めていた。そこには赤黒い液体が入れられており、試験管立てには同様のものが4本ある。シオンが前回、ベルデで手に入れてきた……血液のサンプルだった。
「……はぁ、気色悪い」
リディアは眉間にシワを寄せながら――それに気が付いては鏡を見て、努めて笑顔を作り出す。見たくないものであっても、研究のために、見なければいけないときがある。今がまさに、それなのだ。
「シオンは……問題なく、やっているかしら」
前回のベルデで、問題なく人間を全滅させたと聞いている。しかし少しでも生き残りがいれば、厄介なことになってしまうかもしれない。
「……はぁ。心配性ね、私も」
これからはもっと、大変なことを頼まなければいけない。だからこそ、今のうちに育ってもらわないと困る。自分に何も目的が無いのであれば、シオンと一緒に、静かに暮らすのも悪くないのだが――
「……はぁ。叶わぬ夢、ね」
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そっと窓の外を見てから、リディアは再び試験管に向き直った。優しい空の青色から、毒々しい血の赤色へ。その落差だけで、リディアは一気に疲れてしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リディアは気分転換に外に出ると、何となくドワーフの家に向かった。ドワーフの家……とはいっても、今はデュランと、ベロニカと彼女のアシスタントたちも暮らしている。まだまだ空き地の多いオルトゥスにあって、ここだけ人口が密集しているのだ。
「おや、リディア姐さん! こんにちは!」
「ズズさん、こんにちは。ここに来ると、いつもズズさんに声を掛けてもらえますね」
「暇ってわけじゃないですよ!?」
「ふふっ、わかっていますよ♪ 今日はジジさんたちがいないでしょ? 寂しくないですか?」
「まぁ、いつもより静かですけど……。本当はワシも行きたかったんですが、ジャンケンで負けちまって……」
「あら……。それでは、次に期待ですね」
リディアは話しながら、辺りに目を移していく。
「そういえば、上水道の工事は終わったんですか?」
「ええ、基本的なところは。あとは家が増えるたびに、引き込み工事をするくらいですね」
「ふむふむ……。ベロニカの家はどうです?」
「今、ゼゼが内装をやっています。ベロニカは身体が大きいし、アシスタントの妖精も飛び回るから……壁はできるだけ取り払っているんです。ある意味、工期が短縮できましてね」
「ああ、そういう面もあるんですか」
そこまで話して、そういえば……とリディアは思い出す。
「ところで、デュランはどうです? 今、ズズさんたちのところに間借りしていると思うのですが」
「ワシたちは問題ないですよ。酒を飲む相手にもなりますし……」
昼間は忙しいのに、夜中までも――とは思ったが、不満が出ていないのであれば、上手くやっているのだろう。
「そうですか。デュランにもそろそろ、家をどうかな……と思ったのですが」
「いやいや! 今、ジジたちが鉱山に行っているでしょう? だから、建築はベロニカの家で終わる予定ですよ!」
「あー……。もしかして、全員で鍛冶をする感じで……?」
「もちろんですとも!」
力強いズズの返事に、リディアは怯んでしまう。ドワーフたちには建築を頼んでいたが、彼らとしては、ずっと鍛冶の方をやりたいのだ。とりあえず――今は何とかなっているなら、デュランの家は後まわしでも良いかな……と、リディアはそう思うことにした。
「次に建てるときは、立派な家ではなくても……部屋を細かく分けた、集合住宅みたいなものでも良いですよね?」
「ああ、簡単なものでいいなら、持ち回りで建てますよ。ドワーフの人数が増えたら、しっかり仕上げていくことにしましょう!」
「そうですね、増員の当てがあるならお願いしたいです。……また、食糧の生産量を上げないと」
「増員については、昔住んでいた集落にゼゼを向かわせますかね。今なら何人かは来てくれると思いますよ。食糧の方は……デュランに頑張ってもらうということで!」
「あはは……」
リディアは笑いながら、心の中でデュランに謝罪した。その後、ベロニカの工房に寄って、彼女とゼゼの仕事を眺めていく。しばらく話をして外に出ると、そこにヘルミナが駆け寄ってきた。
「リディアさん、大変です!!」
「どうしたの? また問題を起こしたの?」
「そんな、トラブルメーカーみたいに言わないでくださいよ!?」
「あら、違ったの?」
「……ひぃん」
ヘルミナは一瞬しょげたが、すぐに気を取り直す。
「そそそ、それよりもすぐに来てください! 森の中で、怪我をして倒れてる人がいるんです!」
「連れてこなかったの?」
「いやぁ……。あまり見ない感じなので、触っていいのかなぁ……と」
「もしかして、虫なの?」
「違いますよ!!」
さすがに緊急のようなので、リディアは走って向かうことにした。ヘルミナに案内されたのは森の外側に近い場所で、その辺りには動物も魔物もいなかった。ただ、そこには――背中に白い翼が生えた、ひとりの少女が倒れていた。
「あら、珍しい。いわゆる天使種族――なんだけど、別に神に仕えているわけでもないわ。私たちと同じ、地上に生きるひとつの種族よ」
「あ、そうなんですね……。それなら、普通に連れて行けば良かったです……」
リディアは持っていた鞄から治癒薬を出して、血の出ている箇所に静かに掛けた。傷口は少しだけ癒えて、少女の顔色も少しだけ良くなる。
「……主には外傷のようね。私の家に連れていくから、ヘルミナも手伝って」
「はい……っ!」
天使種族は、そもそも人口が少ないはず。それに、他の種族の前にはあまり現れないはず。……ヘルミナに背負われる少女の姿を見て、リディアはそんなことを思い出しながら――ついつい、不安になってしまうのだった。
コメント
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読了しました…🥀 シオンが「リディア様はお優しい方です」って言い切るの、逆にその甘やかされ方が胸に刺さるなあ。あの年齢で300人を一人で片付けて、それを当然のように受け入れてる感じが、もう戻れない場所に立ってるんだなって思わせる。 デュランの「子供の頃のベルデ」の話、人間には平和でも獣人には別の顔があったってのが辛い。そして天使種族の少女…新しい展開の予感、すごく気になる。リディアの心配そうな顔が目に浮かびました。 静かな不安がじわじわくる、いい回だった…🌙