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「あの赤毛娘の精霊竜だというのか?」
サンフィアはグライスエンドで強制的に帰還させられたこともあり、竜のことを知らされていない。それもあって説明をしたが、理解をするには至らないようだ。
他のエルフたちは竜が害を為す存在でないと知ると、すぐにそれぞれの持ち場や家に戻って行った。納得していないのはサンフィアだけになるが、彼女には時間をかけるしか無さそう。
「そういうわけで、決して畏れる竜では無いから安心して欲しい」
「フン。貴様の所業に貸しを作れたことだ。竜については追求しない」
「は、はは……貸し、ね」
サンフィアに甘えて抱きついたのは言いようのない事実だ。両手による行為は難を逃れたが、思った以上に彼女の情は深く、おれに対する依存が高いことが分かってしまった。この場にルティやシーニャがいなくて助かったが。
「イスティさま、用は済んだの?」
「そういえばここには確か……」
「おい、貴様! その竜は何だ? 何故貴様と親密にしている?」
「ええと、精霊竜アヴィオルは――」
何て説明すればいいのか。
ルティの精霊竜だということは説明してあるが、竜人だということをどういうべきなんだろうな。アヴィオルがこの場で変身すればすぐに分かってくれそうだが――。
しかしおれの行為が未遂に終わったことに腹を立てているのもあって、サンフィアは食い下がってくれそうにない。
「アックくん。われが説明して進ぜよう」
声がした方に振り向くとそこにはウルティモが立っていた。そういえばこの男が問題を起こしていると聞いて、ここに来たんだったな。
「貴様!! ここへは勝手に侵入して来るなと警告したはずだ!」
「それは失礼した。われはエルフを害するつもりは無いのだが。われは、アックくんを待っていたに過ぎぬ。用が済めばここへは立ち入らないことを約束しよう」
サンフィアの反応は無理も無い。グライスエンドからここへ戻されたのは、彼女だけだからだ。戦うことを望んでいた彼女があっさりと否定されたのだから、遺恨は根深いだろう。
アヴィオルに用があるのかと思っていたが、アヴィオルは上空で旋回していて降りて来る気配が無い。そうなるとこの男は、初めからここでおれを待っていたということになる。
「――それで、おれに何か用が?」
「うむ。われは君を行かせる代わりに、ここを守り通すことを誓おうと思っている。無論君の仲間に対し、協力は惜しまない」
「おれがどこに行くって? 言っておくが、ここはまだ再建中だ」
ただでさえ国を留守にしがちな上に、ミルシェにばかり面倒をかけっぱなしだ。ネコ族はともかく、サンフィアたちエルフ族はまだ精神的に不安定過ぎる。他の種族も落ち着いたとは言い難い。
どこかへ行くにしても、フィーサがあの状態ではどうしようもないのでは。
フィーサは眠ったままで、居住区にあるおれの部屋に寝かせたまま。邪気かどうかは不明としても、彼女を置いて行くのは不安がありすぎる。
「再建途中であることは、われも理解している」
「それにグライスエンドから戻って来てまだ間もないんだぞ? しばらく動くつもりは無いんだが?」
ウルティモがいることでただでさえサンフィアの機嫌が悪いのに、この男は何を考えているのか。それに、外への移動に関しては転送魔法が未だに不安定で使い勝手が悪い。
さすがにルティたちも今すぐ外に出るなんて思ってもいないだろうし。
「その意見はもっともなことだ。われとしても、主を留めておきたい。だが、アックくんは守るよりも攻めることに長けている。それを信じて頼みたいのだ」
「攻めるってのは? どこかを攻撃しろって頼みなのか?」
「うむ。まだ猶予があり、今すぐのことでは無いのだが、じきにここへ攻めて来ると見ている」
攻めて来るということは他国が侵略して来るという意味か?
その前に先制攻撃を仕掛けろと言っているように聞こえるが。
「何故そんなことが分かる? ここは滅亡公国として知られているんだぞ? 攻めて来るってことは、イデアベルクを知らないってことになる」
「われは時空魔道士。先に起きることが分かる。それ故、ここにかの国が侵略して来ることを知っているのだ。ザーム共和国という国が力をつけているが、アックくんは存じておらぬか?」
――ザーム共和国といえばあの賢者の国だ。
妙な薬師が率いている国でもあるが。まさかここに来てその国の名前が出て来ようとは。本当だとすれば、ここを守る為に再建を急がなければならない。しかし、再建に関してはおれの出る役目はほとんど無いのが現状だ。
今すぐじゃないらしいが、それを考えればおれから攻めに行くしか無いということか。
「――良く知っている。それはいつの話だ?」