テラーノベル
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2話目もよろしくおねがいします!
スタートヽ(*^ω^*)ノ
レトルトはいつだって誰かに囲まれていた。
サークルでも、学食でも。
明るくて、優しくて、柔らかく誰にでも分け隔てなく笑う。
「レトルト先輩ー!」
「また今度一緒に飲みに行きましょう!」
自然とそんな声が集まる。
人気者で、お人よし。
だからこそ、キヨの存在は埋もれてしまう。
同じ教室にいても、同じ空間で息をしていても――レトルトの世界に、自分はいない。
(……どうやって近づけばいいんだろ)
伝わってくる感情は、確かにあたたかい。
けれどそれは「誰かと話して楽しい」という感覚ばかりで。
自分に向けられたものじゃないと、知るたびに胸が痛んだ。
近づきたいのに近づけない。
自分の存在を知って欲しい。
キヨの心の中はいつもレトルトのことでいっぱいだった。
人形を握りしめる夜、キヨは小さく呟いた。
「はぁ……俺、どうすりゃいいんだよ。せっかくレトさんの気持ち分かったのに、これじゃ全然意味ないじゃん….」
ある夜。
手のひらに収めた小さな人形から、じんわりとした感情が流れ込んできた。
(……あれ?)
胸の奥が、甘く疼くような――これは、喜びに近い。
けれどそれだけじゃない。切なさ、期待、そして少しの不安。
(……まさか、これって……恋…?)
レトルトが、誰かを好きになっている。
それを知った瞬間、キヨの指先が冷たくなった。
「……うそ、だ。」
喉の奥で、押し殺すように吐き出した。
知らなければよかった。
けれど、人形は容赦なくレトルトの感情を流し込んでくる。
誰かを想って胸を高鳴らせる、その温度がリアルすぎて。
キヨの心は、焼け付くように嫉妬で満たされていった。
(誰だ…? 誰のこと想ってんだよ……クソ)
焦りが止まらなかった。
レトルトの心の中で誰かが特別になっていく。
それを知っているのに、自分は近づくことすらできない。
サークルで笑うレトルト。
教室で冗談を飛ばし、周りを笑わせるレトルト。
その笑顔の裏に、別の「誰か」を想っている――そう考えるだけで、胸がぐちゃぐちゃにかき乱された。
(気づいてよ、レトさん……俺だってここにいるのに)
けれど、レトルトの視線が自分に向くことはない。
キヨの存在は、まだレトルトにとって「ただの同級生」でしかなかった。
キヨは、どうにかして自分の存在を知らせたかった。
サークルでは、わざと大きな声で笑ったり、隣の友人に肩を組んでふざけてみたり。
廊下ですれ違う時は、少しだけ足音を強めに響かせて歩いたりもした。
けれど――レトルトは振り向かない。
明るく、優しく、誰にでも同じように笑みを向けるその人は、キヨの必死さに一切気づくことはなかった。
(……どうして、俺を見てくれないんだよ)
苛立ちと寂しさが胸に渦を巻く。
その夜、キヨは無意識のように机に置いた小さな人形へと手を伸ばしていた。
人形の頭を、そっと撫でる。
――その瞬間。
遠く離れた場所にいるはずのレトルトが、ピクリと肩を震わせた。
レトルトの困惑が、まるで映像のようにキヨの胸に流れ込んでくる。
同時に、撫でる感触が確かに伝わってきて――人形を通じて、ふたりの感覚が繋がっていることを知った。
「……これって」
ぞくり、と背筋を走る快感。
ただ心を覗くだけじゃない。
レトルトの身体にも、触れられる――
禁じられた秘密を見つけてしまった子どものように、キヨは小さく笑った。
(俺だけが……レトさんに触れられる)
募る想いと独占欲が、静かに、しかし確実にキヨの中で膨らみ始めていた。
キヨはレトルトと感覚も繋がっていると知った日から“実験”を繰り返すようになった。
授業終わり、友人たちと談笑するレトルトの背後から――。
自宅のベッドで眠りかけている時に――。
キヨはそっと人形の頬を撫でたり、髪を指で梳いたりする。
すると、遠く離れた場所で小さく身を震わせ、戸惑った感情を浮かべるレトルトの気持ちが伝わってくる。
(……っ、やっぱり繋がってる)
その瞬間のレトルトの反応が可愛くて、もっと試したくなる。
――自分だけが、触れられる。
誰も知らない場所で、レトルトを翻弄できる。
それは甘くて危うい秘密だった。
つづく
コメント
2件
続きが気になり過ぎて死にそうです、、めっさ楽しみにしてます!