ハピィ「髪は墨で染めたのは、わかりやした。その瞳は?」
クリウス「元々の金色の目は抉り抜いて…確か、今の白い目は買ったんだ。」
ハピィ「抉り抜いたのは、その売人から言われて?」
クリウス「そうだね。盲目になったら流石に困ったものだけど、そうはならなかったね。」
ハピィ「義眼の技術は高度すぎて、出来るとこが限られてる…拠点はドガール国か…?御協力感謝しますぜぇ。拠点を潰せねぇことにはお話にならないからな。」
ルスベスタン「あ、こんなとこに。」
ハピィ「おお、どうした?」
ルスベスタン「アリィさん達が出立するんですよ。挨拶しなくていいんですか?」
ハピィ「いや…一時は確かに、師弟みたいな関係を結んだが、そこまで関わりは深くないからな。」
ルスベスタン「何言ってるんですか。ただ、挨拶するんじゃなくて、商会の名を売り込むんですよ。トスク国にも進出してましたよね?」
ハピィ「おっそうだねぇい。優秀な後輩が居ると助かるぜぃ。」
ルスベスタン「クリウスさんはどうします?」
クリウス「俺はいいよ。うちの子たちに嫉妬されるからね。」
ルスベスタン「じゃあ行きますよ。」
ハピィ「俺ちゃんは愛くるしいちびなんだから、運んでくれよぅ。」
ルスベスタン「おじさん、体が筋肉質で重たいので、嫌です。」
ハピィ「ちぇっ。」
アリィ「…ずっとここに留まる訳にはいかない。追っ手が来てるとも限らない。でもいいの?友達がいるんでしょ?」
ノア「友達というか…最後に挨拶くらいはしたいけど大丈夫だよ。お互いの無事が分かったんだ。それだけでも、お釣りがくる。それに…ボクにはやりたいことがある。この国では出来ないことを、ね。」
ジーク「なら、いいが…。」
アリィ「……。」
(本当はジークにも、もう離れて平和に暮らして欲しい。でも、追っ手がいるのは、私だけじゃない。ジークもだ。)
そうやって、また都合の良い言い訳を作る。本当は私が離れたくないだけだ。
ジーク「不安なんてないって言ったら、嘘になるが…上手くやるよ。留まれないのは分かってるだろ?」
アリィ「…ジークがそう言うなら…。」
私の考えた言い訳をジークは口にする。
アリィ(妙に私に優しいから困る。)
ジハード「良かった。間に合ったんだな。」
ノア「ジハード!まさか間に合うなんて、思わなかったよ。片付け下手だし。」
ジハード「…ローズが食い散らかしたり、元に戻さなかったベッドをメイキングしただけだ。間に合う。…衣食住の保証を得た。何故、行こうとする?」
ノア「…戻るんだ。故郷に。」
ジハード「…それは…俺に止める権利はないな。オケアノスやヒュディに叱られる。だが…」
ノア「一度は成功させてるんだよ?」
ジハード「…ノア、なんでもできる訳じゃないんだ。」
ノア「違う。ひとつ間違えてるよ。できるできないじゃない。ボクはやる。思いどおりになるのは好きじゃないんだ。分かってるよ、心配してくれてるんだって。でも、ジハードだって好き勝手やって一国を荒らしたんだから、ボクだってやってもいいでしょ?いつまでも子供扱いしないで。 」
ジハード「子供扱いはしないようにできるかは、分からないが…そうだ、俺に言う権利は無い。悪かった。」
アリィ「…本当にいいの?」
ノア「うん。」
アリィが聞いても、ノアの意志は変わらない。
ジハード「…困ったら頼ってくれ。俺は必ずここにいる。」
ノア「うん、ありがとう。」
ノアは、ジハードを抱きしめる。
ノア「大好き。」
ジハード「…本当に変わらないな。ノアは。」
ノア「ジハードは言ってくれないの?」
ジハード「言わなくても分かるだろう。嫌ったりする者がいるものか。」
ルスベスタン「御三方、お待たせいたしました。少し、準備に手間取りまして。」
ハピィ「よう。嬢ちゃん達もう行くんだって?なら、ハートル商会を贔屓にしてくれよ。トスク国にも拠点があってね。うちは大分他より安いぜぇ?情報は高く買うし。」
アリィ「覚えとくよ。」
ルスベスタン「さて…目的地の確認ですがトスク国の櫻雨町町でしたよね?」
ジーク「確かそんな名前だ。一応、あそこはここと同じ言語を使うが、文字だけは違うせいで、読むのには自信が無い。」
ルスベスタン「文字が読めたんですか…!?」
ジーク「ああそうか。貴族でもないのに、文字が読めるのは珍しいよな。色々あって。」
ノア「流石にまとめすぎじゃない?」
ジーク「気が向いたらそのうち話す。今は話の腰を折りたくないからな。それで…護衛として付いてくる訳だが…どこまでついてくるんだ?」
ルスベスタン「櫻雨町西門までですね。西門が1番近いので。行動範囲がどこまでか分からないので、割とずっと一緒です。」
アリィ「大変だね。」
ルスベスタン「仕事ですから。貴方達は自分の後ろに隠れて、自分の仕事ぶりを見てください。仕事ぶりを気に入っていただけましたら、是非とも掃除屋アグヌットに依頼を。高くはなりますが、必ずやり遂げてみせます。動物もヒトも悪魔も…はたまた神さえも。」
ジーク「そこまで追い込まれることがないことを願う。」
ルスベスタン「ですね。トスク国は非常に偏見の強い国です。よろしければこちらを被っていただけると幸いです。」
そう言い、ルスベスタンがジークに渡したのは、頭までご丁寧に隠せる羽織だった。
ジーク「良い印象を持たれないってことか…分かった。」
ルスベスタン「すみません。」
ジーク「いや、善意だろ?謝らないでくれ。」
ハピィ「ルスベスタン大丈夫かぁ?また大事なこと忘れたりしないだろうなぁ?」
ルスベスタン「危うい時は確かにありましたけど、大丈夫ですよ。…忘れることが出来ないくらい刺激の強い方がそばに居ますから。」
アリィ「ルスベスタンって、そんなに忘れっぽいの?」
ルスベスタン「はい。歳をとりすぎた影響でしょうかね…。時々本名が思い出せない時があったりします。1人でいた頃は大変でしたが…今は名前を呼んで、思い出させてくれる方々がいるので。仕事は忘れたことはないので、安心してください。」
ノア「ちょっと不安だよね。」
ジハード「そう言うなノア。」
ルスベスタン「では出発いたしましょうか。」
アリィ「はーい。」
ジーク「よろしく頼む。」
ノア「またね、ジハード。」
ジハード「ああ、またいつか。」
ルスベスタンは出発を促すと、アリィ達3人は続く。時の国を背に。
コツコツと誰かの足音が聞こえる。
ローズ「…あら意外。てっきり父上かと思ったわ。」
アロン「ローズ殿下…」
ローズ「父上がまさか面会を許したの?貴方は一応被害者だし、二の舞にならないよう禁じると思うんだけど…。」
アロン「ええ。禁じられていますよ。…ゲティアが行かせてくれたんです。」
ローズ「悪いわねぇ〜。…ゲティアは私の事、恨んでるはずよ。にも関わらずなんてね。」
アロン「ゲティアがローズ殿下を恨んでる…?」
ローズ「そうよ。貴方は知らなかったのね。私が6つの時、王室直属兵団前団長…ゲティアを打ち負かしたの。…部下の教育がよく出来ていたのね。信頼されていて。だからきっと噂にならなかったんでしょう。…血のにじむ様な何十年の夢を私に打ち壊されたのよ。」
アロン「ですがローズ殿下だって…」
ローズ「私は努力なんてしてないわ。最後まで、恨んでる私を気にかけるなんて…変わり者。アレはいつか、誰かを庇って死ぬ。そんな気がするわ。」
アロン「……。」
ローズ「あるいは…気づいてたのかもね。魔法の効きやすさには個人差がある。兵士の中で1番耐性があるゲティア。…それは同時に魔法の被害に会ってきた人々を誰よりも見ている。…私は貴方にただの一度も魔法を使ったことがない。そうする必要がなかったから。」
アロン「魔法ならありましたよ。」
ローズ「あらそう?無自覚にやっちゃったかしら。 」
アロン「叶いもしない恋に堕としてくれたのは、殿下でしょう?」
ローズ「…そうだったわね。そう、叶いはしない。私はクリウス以外の誰かを好きになれたことがない。嫌いもしないけれど、損得感情でしか見れない。」
アロン「存じております。」
ローズ「貴方のことも、好きになりも、嫌いになりもしなかった。」
アロン「存じております。」
アロンはそう寂しげに肯定する。
ローズ「でも。」
アロン「?」
ローズ「気に入ってはいたわ。…多分ね。」
そう言ったローズの顔が、アロンの瞳に映ることは無かった。
アリィ「けほっ。」
ノア「アリィ、風邪?」
ジーク「えっ。」
アリィ「んー、違うと思う。少し何か喉に詰まったというか…。」
ルスベスタン「ジーク君、先程から凄い形相ですが、何かまずいんですか?」
ルスベスタンに返答はせず、ジークはアリィに問いかける。
ジーク「アリィ、本当に風邪じゃないだろうな?お前それで実は風邪だったってことが何度もあっただろ?」
アリィ「そう言われても…元気だし、風邪じゃないって嘘ついてるんじゃないからね?」
ジーク「それは分かってるが…」
ルスベスタン「自覚が薄い場合の方ですか?その場合は後から一気に来たりしますね。自分も病弱ですが、見た限り多分大丈夫ですよ。無茶さえしなければ。」
ルスベスタンは一言そう付け加える。
ジーク「ノア、見張れ。」
ノア「はーい。」
アリィ「しっ、信用無さすぎ…。」
ルスベスタン「………。」
ジーク「うわちょ、急に止まるなよ。危ないな…。」
ルスベスタン「ああ、すみません。」
ノア「生返事だ…。」
アリィ「…ねぇ静かにしてた方がいい?」
ルスベスタン「いいえ、今まで通り会話していてください。話題が思いつかなかったら、しりとりでもしていてください。今はとりあえず自分には何も聞かないで下さい。」
ノア「りんご。」
アリィ「あ、しりとりにするの?折角だからジークが、字の読み書きできる話すればいいのに。」
ジーク「そんな大した話じゃないぞ。」
ノア「だってボク気になってフライングしちゃったんだもん。」
ジーク「覗いたのか…お前まじでいつか好奇心で身を滅ぼすぞ。」
ノア「既に1回滅ぼされかけてるよ。」
アリィ「やめてよその笑えないブラックジョーク…というかそんな乱発して大丈夫なの?」
ノア「一人生見るほどじゃなければ、大丈夫だよ。大した消費量じゃない。」
ジーク「俺が文字の読み書きが出来るのは、商人ライセンスが理由だ。」
ルスベスタン「ああ、そういえばアレ、文字の読み書き出来るのは必須でしたね…。懐かしい。」
アリィ「商人ライセンスって取るのかなり難易度高いね…。」
ジーク「まぁその分メリットはデカくて…少し高く売ることも、安く買うことも出来るんだよ。高く売れるのは、信用代。安く買えるのは、お互い頑張りましょうね的なものだ。」
アリィ「そんないいものなんで手放しちゃったの?私と会う前からもう手放してたって言ってたし…」
ジーク「どこかの奴隷商のせいデスネー。アレ持ってると目立つんだよ。」
ノア「大変だね…。」
ジーク「俺は反対したんだけど…父さんに強制的に破棄された…。」
ルスベスタン「うわ散々ですね。よし。」
ルスベスタンはまたも急に立ち止まる。
ルスベスタン「…撒きました。今追ってきたのはヒトだったんですが…御三方、一体誰から恨みを買ったんですか?」
アリィ&ジーク&ノア「心当たりしかない。」
ルスベスタン「貴方達…」
アリィ「にしてもよく撒けたね。特に障害物とかないのに…」
ルスベスタン「相手も気付かれないよう、かなり遠くからでしたから。歩いた痕跡を消しました。周りを見ていたんですが、この周辺肉食型の悪魔の生息している痕跡がありました。ですので、擦り付けます。」
ノア「悪魔が…」
アリィ「ノア…。」
ノア「…大丈夫。本当に肉食なんだね?」
ルスベスタン「はい。見分け方は…ジーク君に聞いた方がいいかと思います。」
ジーク「面倒くさいからって押し付けるなよ…。本業だけども。」
ノア「……。」
ジーク「分かった分かった。まず1番簡単な見分け方は歯だ。これは獣人に見せてもらうと早い。肉食の生き物ってのは大体、肉を引き裂く為に、歯が尖ってる。ベツさんとかそうだな。覚えてるか分かんないが…」
ノア「あー!あの件は全部覚えてる!」
アリィ(…ちゃんと伏せてるし、本当に覚えてそう。)
ジーク「で、草食は歯が平らなんだ。羊の獣人とかもそうだ。…まぁこの辺の草が綺麗に生え揃ってるから、草食という線はないだろうな。 」
アリィ「雑食って言われたらもう直接歯を見るくらいでしか、見分けられないけどね。…雑食も多分生き物が主食じゃないだけ。」
ノア「…そう。教えてくれてありがとう。」
ジーク「どーいたしまして。…何してんだ。」
ジークがルスベスタンを見ると、ルスベスタンは腕から流した血を布を巻いた木の枝に付けていた。
ルスベスタン「1番食いつくのは血ですから。」
ジーク「バカなのかお前は?そんなことしたら、お前に来るだろうが。」
ルスベスタン「何も考え無しにしてる訳じゃないですって。この後、こっちは嗅ぎ取られないよう、鼻を狂わせますので。」
ジーク「それ…持ち歩くのか?」
ルスベスタン「ええ。もう少し歩きますよ。」
アリィ「ちょっと私不安かも…。」
ノア「…多分大丈夫だと思う。」
アリィ「ほんとにぃ…?」
アリィは訝しげに眉をひそめる。
ルスベスタン「この辺でいいですかね。悪魔がこちらに気づきました。」
ジーク「どうするつもりなんだ。」
ルスベスタン「危ないので、3人は離れていてください。」
アリィ「どれくらい?」
ルスベスタン「2、3m…?」
ノア「凄い離すね。」
ルスベスタン「待ちませんからねー。早く離れてくださいよー。」
そう言いながら、ルスベスタンは自身の荷物入れの中から、何かを取り出す。その間にアリィ達はそそくさと離れる。
アリィ「今のところ、特に変化はないけど…」
ノア「…花?」
ルスベスタン「はい、これを今から焼きます。刺激臭というものですね。」
ジーク「火をつけたら、痕跡が残るぞ。」
ルスベスタン「ですね。大丈夫ですよ。間違った痕跡は残し続けましたので。」
そう言いながら、ルスベスタンはマッチに火を付け、花を燃やす。
ルスベスタン「どうしても火打石に比べたら、火力が落ちますけど…持ち歩くのに丁度いいでしょう?」
アリィ「くさい!ツンとくる!」
ノア「持ち歩くって…火傷しない?」
ルスベスタン「防火性のある手袋を付けたので、大丈夫ですよ。因みにこれ、全部貰い物です。 」
ジーク「花に関しては、嫌がらせだろもはや…。」
ルスベスタンは切り傷を付けた左の手に花を持ち、右腕で血の染みた木の枝を遠くに投げる。気の所為か、遠くから木の枝を追うように、何かが折れた音がした。
ジーク「いや気の所為じゃないなこれ。なぁそれ、お前は大丈夫なのか?俺嗅いでて気持ち悪いんだが…」
ルスベスタン「奇遇ですね。自分も気持ち悪いです。ただ、これをすぐ手放す訳にも行かないんですよ。わざわざこうしたのは、近くの水場に行かなくても良くするため。相手も恐らく馬鹿ではないです。必ずここから1番近い水場に行くはずです。匂いを水で落とすと考えて。」
アリィ「匂い苦手なら、自分でやる必要なかったのに…。」
ルスベスタン「初めて試したんです…。」
アリィ「なんだろうこの…実力も確かだし…手は抜いてないんだろうけど…」
ジーク「お前…自分のことになると急にポンコツじゃないか…?」
ルスベスタン「ポンコツとは酷い言い草ですね。悪魔に齧られるのに比べたらずっとマシですよ。凄い痛いんですから。」
ノア「齧られたことあるの!?」
ルスベスタン「はい。2、3回。」
アリィ「なんで生きてるの…?」
ルスベスタン「さぁ…?よし、行きましょうか。ここから遠い方の水場で匂いを落とします。」
ジーク「分かった。でもお前の戦うとこは結局見れないのか。見て実力を判断しろって言ってたのに。」
ルスベスタン「自分が受けた依頼はあくまで、国外を出る者の護衛と、連続失踪事件の犯人の捕縛です。護衛というのは、肉体だけの話じゃないんですよ。」
アリィ「そうなの?」
ルスベスタン「はい。世界には、顔色1つ変えずに、動物を捌けるヒトがいると同時にそれだけで、涙を流してしまうヒトだって居ます。それと同じです。戦闘というのは、する側も、見る側も心の負荷が強いんです。しないに越したことはありません。今は平気でも。それに…アグヌットで自分が誇る強さというのは、筋力とかじゃないですから。 」
ジーク「じゃあなんなんだ?」
ルスベスタン「実行力です。どんな手を使ってでも、成し遂げる。依頼者にかかる最小限を抑えて。それが自分のやり方です。依頼内容に護衛と入ってましたので、こうしてます。」
ノア「やり方ってみんな違うの?」
ルスベスタン「そうですね。確実に掃除したい相手がいたら、タンザでしょうか。ちょっと口下手なとこありますけど、殲滅力は誰よりもあります。外堀からじわじわ埋めて追い込みたいなら、ハピィおじさんですね。めちゃくちゃ怖いですよ。 」
アリィ「うん、ずっと怖い。」
ルスベスタン「でも気さくな方だったでしょう?」
ジーク「味方ならな。敵には回したくないな…。」
ルスベスタン「あれ…?あっそうだ。絶対に失敗したくないならメジェムおじさんがオススメです。有言実行が服きてるみたいな方ですから。 」
ノア「まず依頼しなきゃいけないようなことになることがないよう願うかな。」
ルスベスタン「確かに…。」
アリィ「いいんだそれで…。」
ルスベスタン「まあ、本当にきったない屋敷の掃除とかも承ってるので。是非ともご贔屓に。」
ジーク「分かった分かった。」
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