テラーノベル
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深夜三時。
五つ星ホテルの全館メンテナンスに伴う、年に一度の「全館停電」が始まった。いつもなら眩いライトが煌めく大シアターも、大理石が美しいロビーも、今夜だけは非常用電源の微かな緑色の誘導灯だけが浮かび上がる、完全な闇に包まれている。ゲストの立ち入らないこの静寂の夜、ホテルのバックヤードでは、ポーターのラウールがアメニティ用の予備のペンライトを台車に積みながら、暗闇の中で瞳をらんらんと輝かせていた。制服を着た彼の脳内は、今夜も100%ガチの腐男子である。
ラウール(全館停電の真っ暗なホテル……。非常用ライトの緑の光……。これ、絶対に普通に業務が割れるわけがない。お兄ちゃんたちのことだから、10分後にはこの暗闇を完璧に悪用して、恋人への『かまってちゃん行動』の檻に変えるに決まってる。……よし、台車の影から観察開始だ!)
ラウールの不穏な予感通り、暗闇に包まれたホテルのあちこちで、職権乱用を極めたお気楽なノロケと事件が幕を開けようとしていた。
ステージの非常用調光器を確認するため、ネイビーのつなぎ姿で狭い機材スペースに入り込んでいたのは、技術スタッフの向井康二だ。ペンライトの明かりだけを頼りに配線を弄っていると、背後からぬっと巨大な影が滑り込んできた。次のステージの衣装である、ビジューが散りばめられた黒いタキシードを纏った看板スター、目黒蓮だ。目黒は出番がないというのに、暗闇の中で康二の細い腰をガシッと掴むと、鉄製アンプの隙間へ強引に押し込めた。
向井「め、めめ!? なんでタキシード着たままこんな暗いとこおんの!」
目黒「康二、暗くてよく見えないから、もっと近くに来て」
目黒の低く、少し掠れた声が至近距離で響く。目黒は康二の両手首を頭の上で優しくホールドし、自身の高級なアメニティの香水を暗闇の中に漂わせた。康二のつなぎから香る素朴なシトラスの匂いと混ざり合う濃厚な空間。目黒が康二の耳元に顔を近づけ、低く囁いた。
目黒「……It’s showtime.」
向井「何がショウタイムや、真っ暗やんか!」
目黒「暗いからいいんだよ。誰も見てないから、俺のことだけ考えて」
目黒はスターのクールな顔を完全に崩した独占欲の笑顔を浮かべ、康二の唇を深く、深く吸い上げた。そのすぐ近く、台車の影に隠れてそのすべてをスマホに書き留めていたラウールが、静かにガッツポーズを決めていた。
ラウール「最高。スターの暗闇監禁ハグ、いただきました!」
一方、暗闇のフロントカウンターでは、フロントマンの深澤辰哉が手元の非常用ランタンの明かりで書類を整理していた。チェックインの業務が完全に止まった瞬間、耳元の業務用インカムから、セキュリティリーダーの岩本照の低い声が響いた。
岩本『フロント、状況はどう? 今、ふっかの顔、暗視モードの防犯カメラ越しに見てる。真っ暗なロビーにぽつんといて、めっちゃ可愛い』
深澤「どこ見てんだよ変態筋肉お化け! 業務無線を私用で使うな!」
耳元を一瞬で真っ赤にした深澤に、岩本はさらに低い声で囁いた。
岩本『冗談。バックヤードの地下リネン室、予備の懐中電灯を取りに行くから。ふっかが大好きな、特別仕様の高級ハーブソープ、新しく入荷したから差し入れするよ。すぐ取りにきて』
深澤が足早に薄暗い地下リネン室に入り、カチャリと内側から鍵を閉めた瞬間、暗闇から現れた濃紺の制服姿の岩本に、後ろから強引に抱きすくめられた。ガシッ、と力強い腕が深澤の細い腰をホールドし、岩本の身体から発せられる熱気が深澤の背中に押し付けられる。
深澤「照、熱いって! 暗闇だからって強く抱きしめすぎ」
岩本「ふっかが冷たいから。……インカム、切るよ?」
岩本が深澤のインカムのスイッチをオフにした瞬間、世界のすべてを遮断して耳元で囁いた。
岩本「……It’s showtime.」
岩本はわざと自分の懐中電灯の光を深澤の顔の横に近づけ、眩しそうに目を細める深澤を愛おしそうに見つめた。
岩本「ここはカメラの完全な死角だから、俺のことだけで頭いっぱいにして」
岩本は深澤の身体を強引に向き直らせると、積まれたタオルの山に押し付け、そのまま深く唇を重ね合わせた。リネン室の配管の影に身を潜めていたラウールが、音もなく涙を流しながら大興奮していた。
ラウール「警備員の暗視カメラ職権乱用ハグ、今夜の日記に永久保存!」
その頃、幾十ものモニターの電源が落ち、誘導灯の緑色の光だけが不気味に揺らめくコントロールルームでは、セキュリティスタッフの佐久間大介が一人で退屈そうに2本の尻尾(※ただの比喩的なかまってちゃん行動です)を揺らしていた。そこへ、カチャリとドアがノックされた。入ってきたのは、トレーにアメニティの高級ミネラルウォーターを乗せたルームサービス担当の阿部亮平だった。
阿部「夜勤、お疲れ様。ルームサービスです」
カチッとしたウェイターの制服を着た阿部がトレーを置くと同時に、佐久間は部屋の非常用補助カメラの録画スイッチを「オフ」にした。完全な死角が完成した瞬間、いつもは穏やかな阿部の瞳に、底知れない独占欲の妖気が溢れ出した。阿部は佐久間の細い腰をがっしりと抱き寄せ、巨大なコントロールパネルの機材へと力強く押し付けた。驚く佐久間の耳元で、阿部が低く楽しげに囁いた。
阿部「……It’s showtime.」
阿部はわざと、部屋に唯一残った緊急用の緑色のインジケーターライトの前に佐久間を立たせ、その青白い光に照らされる佐久間の動揺した顔をじっと見つめた。
阿部「佐久間、夜の暗闇の中で僕以外のものを見るのは良くないな。……今度は僕が、佐久間の可愛いところ、1秒も見逃さずに全部監視してあげる」
アメニティの棚の影に隠れていたラウールが、スマホの網膜にそのすべてを焼き付けていた。
ラウール「インテリウェイターの緊急ライト目隠しハグ、極上の栄養素!」
そして、この停電の夜に最も静謐な空気が流れていたのは、最上階のロイヤルスイートルームだった。ディナータイムが完全に終わり、カチッとした白いコックコートを着た天才シェフの渡辺翔太が、調理台に寄りかかって一息ついていた。そこへ、新しいアメニティのタオルの束を抱えたハウスキーピングの宮舘涼太が通りかかった。
宮舘「翔太、今日もいい匂いがするね」
渡辺「うるさい、涼太。仕事しろ」
ツンと返す渡辺だが、宮舘は渡辺のコックコートのポケットに、わざと最上階のマスターキーを滑り込ませて去っていった。深夜、渡辺がその鍵を使って誰もいない真っ暗なスイートルームのドアを開けると、すでに完璧に清掃が終えられた部屋のベッドの横で、宮舘が新しいアメニティを並べて待っていた。宮舘はいつものハウスキーピング用のジャージ姿だが、その佇まいは完璧に凛としている。大真面目な顔のまま、宮舘は渡辺に歩み寄り、その白いコックコートの襟元に触れた。
宮舘「今日もお疲れ様、翔太。頑張ったご褒美をあげなきゃね」
宮舘の大きな手によって、コックコートの白いボタンが一つ、また一つとゆっくり外されていく。宮舘はわざと、清掃用の大きな白いクロス(布)を広げると、それを渡辺の頭の上から、優しく、だけど完全に視界を遮断するようにバサッと被せた。
渡辺「おい涼太!! さっきから俺の頭の上が完全にタオルの結界に包まれてんだけど! 真っ暗で前が見えねぇよ!」
渡辺が、コックコートを肌蹴させられたままツッコミを入れる。宮舘はタオルの両端を握ったまま、それをグイッと自分の方へと引き寄せた。二人の顔の距離はわずか5センチ。完全なる至近距離のホールドだ。
宮舘「前など見えなくていい。我が主。君の視界には、僕だけが映っていればそれでいいんだ」
渡辺「涼太、顔が真面目なのにやってることが完全な動く人間捕獲器だからな!」
宮舘「フッ、光栄だよ。君専用の捕獲器になれるなら、僕はいつでもタオルを広げ続けよう」
宮舘は渡辺の手首を優しく引き寄せ、補充したばかりのアメニティのラベンダーの香りに包まれる中、渡辺をシーツの上へと優しく押し倒した。渡辺は顔を赤くして
渡辺「……ほらよ、バカ」
と、宮舘の胸に頭を預けた。クローゼットの死角に身を潜めていたラウールが、音もなく涙を流しながら大興奮していた。
ラウール「尊すぎて最上階から飛び降りたい! 幼馴染のコックコート捕獲ハグ、永久保存!」
やがて午前四時を回り、ホテルの非常用アラームが一斉に「ピピピピ!」と静かに鳴り響いて、全館の照明がパチッと一斉に元通りに点灯した。眩しさに目を細めながら、正気に戻ったお兄ちゃんたちが、各々の部屋の死角からゾロゾロとロビーへ集まってくる。そして、アメニティの棚の影でスマホを握りしめたまま気絶しかけているポーターのラウールを見つけて、一斉に威圧的な視線を送った。
岩本「ラウール……。お前、停電の暗闇に乗じて、また俺たちのこと隠し撮りしてたな?」
岩本の軽いデコピンと、阿部の笑顔、目黒の視線、宮舘の洗練されたお説教が、一斉にラウールに突き刺さる。
ラウール「ごめんなさい……もう二度と、暗闇の覗き見なんてしません……」
ボロボロになりながらロビーの台車を片付けるラウールを他所に、ホテルにはいつもの平和で洗練された朝の空気が戻っていく。
宮舘「翔太、前髪直してあげる」
渡辺「サンキュー、涼太……」
それぞれの少し不器用で、だけど底なしに深い愛を確かめ合いながら、ホテルの静寂の裏側で、彼らは今日も完璧なホテルマンとしての日常の一歩を踏み出すのだった。
コメント
3件
やば…… いいね❣️
うわあ、めちゃくちゃ面白かったです!「全館停電」という非日常を、各カップルがそれぞれの個性全開で「暗闇を悪用したラブラブタイム」に変えちゃうのが最高でした。特に「It's showtime.」がどのペアにも共通して出てくるのが、なんかもう…尊い。(笑)それにしてもラウール、完全に特等席で観察決めてますね。彼の「永久保存」の度に笑っちゃいました。最後の「もう二度としません」も、絶対またやるんだろうな感がにじみ出てて良かったです。
すのだて⛄️🍙
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