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9 - 第9話 マザコン

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2025年09月24日

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靜子は、高島屋の食品売り場で会計を済ませると、孝次郎にメッセージを送った。帰宅時間が遅れる理由を丁寧に説明し、謝罪をひとこと添えると、既読が付いただけで着信はなくなった。

混雑する店内で、夕飯の惣菜をせっせとエコバッグに詰めながら、不機嫌な夫の顔を想像する。

靜子は、胃がチクチクと痛むのを感じて、気分を切り替えようと高樹のことを想いながら、唇にそっと手をあてた。


やさしくて、それでいて情熱的なキス。

互いの冷たい鼻頭が擦れ合う感覚と、耳元をくすぐる息づかい。

繊細な指先。

筋肉質な体格とは裏腹の、寝癖のついた髪の毛。


靜子は、それ以上考えるのをやめた。

火照る身体が虚しくなるだけで、これからのことを想像すると尚更辛くなるからだ。




自宅に戻ると、リビングにも書斎にも孝次郎の姿はなく、


「またか…」


と、云う思いで靜子はベッドルームに向かった。

火曜日の19時。

区役所勤めの孝次郎が、日中ひっきりなしに電話をしてきた理由が、靜子にはわかっていた。

案の定、わざとらしい咳が聞こえる。

靜子は、ベッドルームの扉をノックして中に入ると、上半身裸でシーツに包まる孝次郎の姿にうんざりした。

サイドテーブルには、体温計とスポーツドリンクが、これ見よがしに置かれてある。

靜子は、孝次郎の行い全てが嫌いだった。


「ただいま、体調悪いの?」


靜子の問いに、ふてくされた口調で孝次郎が言った。


「…何度も電話したのに、見てわからないかな、朝から熱が出て動けなかったんだよ」

「だったら服くらい着ないと…」

「いや、熱のせいで暑いんだ」

「暑いの?寒気はないの?」

「暑いんだよ、ほら、触ってみてよ」

「それより体温計で計ってみたら?」

「いや、計ったよ、触ってよ、暑いんだ」

「わかったわよ…」


靜子は渋々と、孝次郎の首元に手を当てた。

本音は、身体に触れるのも嫌だった。

孝次郎は、靜子の身体をぐいっと引き寄せて、キスを求める顔をして、


「淋しかった、不安だった、あんなに電話したのに…」

「仕事だもん、仕方ないわよ」

「そうだけどさ、俺のこと心配じゃなかったの?」

「…」

「身体が熱いんだ…」

「冷たいもの持ってくるわ…」

「いいよ、しようよ」

「ダメよ」

「いいからさ、しようよ」

「ダメだったら、身体を休めたほうがいいわよ…」


靜子は、強引に孝次郎の腕を解いて言った。


「食欲はあるの?」

「ないよ…」

「何か食べたの?」

「食べてない」

「雑炊作るから、それまで寝てなよ」

「いらない…」

「だけど何か口にしないと…」


靜子がそう言いかけた瞬間、孝次郎は大声で叫んだ。


「いらないったら!藍子さんが後で来てくれるからいらない!」








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