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「タカト、火お願いできる?」
クレアさんにお願いされてあなたは竈の薪に火打ち石で火をつける。そう、僕はまだ、この人達に魔法が使えることを教えていない。なぜかは分からない。きっと2人は、僕が魔法を使えると知ったら喜んでくれる。普通なら子供は、魔力回路(魔力が流れる血管のようなもの)が構築されるのが10歳、早くても8歳ほど。貴族であっても、それ以上に早い者はごく少数。歳を重ねるごとに少しずつ回路が開拓されていき、10歳には完全に開くそうだ。だが僕は、同じ年に産まれた赤ちゃんが、物心つく前から魔法を使っていた。魔力枯渇で起こる痛みや嘔吐感は、身体中を駆け巡る回路が無理やりすごい速度で開拓されていく痛みだったらしい。魔力枯渇の本当の症状は嘔吐感だけ、無駄に回路を傷つけただけの諸刃の行為。そのせいでルイスさんのように綺麗に魔法を使えないのだ。
褒められて良いのだろうか。記憶をもって生まれ直して、ただズルをしているだけではないのか。そもそも僕は本当に2人の子供なのだろうか。本当に産まれてくる筈だった子を乗っ取ったんじゃないのか。本当にそうなら、僕は褒められる資格はない。僕も、それを許せないと思うから。だから僕は、10歳になるまでは魔法を使えることを隠そうと思う。あの2人にとっての、普通の子でありたい。普通の子育てをさせてあげたいんだ。
あの件から2ヶ月ほど経ったある日、領主様のウォーカー男爵がアーサーを連れてあなたの家に訪問してきた。もしかしなくても怒られるのでは?息子さんを辱しめた罪で斬首!?と…思っていたのだが–
「申し訳ありません」
–頭を下げた男爵の口から出たのは謝罪の言葉だった。ダンテさんとクレアさんもこの状況に驚いていた。なんせ貴族は、平民よりもステータスが生まれつき高く、それゆえ慢心的な者達が殆どだからだ。(本情報)
「2ヶ月ほど前、私の監督不行き届きで、うちの愚息のアーサーが、あなた達の息子さんにご迷惑をお掛けしたことで、謝罪に来ました。」
アーサーは殴られたのか、頭にでかいたんこぶをこさえて、男爵の横でしゅんとしている。ステータスを改めて見てみたが、【自惚れ】状態が消えていたので、よっぽど叱られたのだろう。普通の子供なら、「なんで!」とか「俺は悪くない!」とか喚き散らすだろうに、根は良い子なのが伺える。
ダンテさんは、とりあえず男爵達を椅子に座らせて、クレアさんはお茶を用意している。実は僕、2人にあの件のことを話していないのだ。話したらきっと、僕は良い子ではなくなってしまうから。
男爵が話をする口を、何度塞ぎたいと思ったか。僕が魔法を使えること、魔法を使ってアーサーを負かしたこと、全て話された。
2人は終始無言で頷くばかり。怒っているのか悲しんでいるのかも分からない顔で男爵の話を聞き終えた。その重い空気を男爵も察したのか、休憩を口実にアーサーと席をはずした。
部屋に残ったのは僕たちだけ。思うところがあるのだろう、静寂が部屋を包む。それを断ち切ったのは、 クレアさんの抱擁だった。
「タカトはやっぱり私達の子だなぁ…」
怒られると思った僕は突然の抱擁とその言葉に体が固まってしまう。嘘をついていた僕に失望するかと、呆れられるかと思ったのに。さらにダンテさんも席から立ち、僕たちを抱き締める。
「あぁ…俺達の子だ…」
その言葉は暖炉の炎のように、少しずつ胸を温めてくれる。恐れていた、この体の本当の持ち主に向けられる愛が、僕に向かってしまうことを。申し訳なかった、2人の本当の子じゃ無いことを。でもそれは間違いだった。
僕はこの人たちの子なんだ。愛されて良いんだ。僕は僕だったんだ。
「強さは俺で、優しさは君似だな」
「ふふ…あなたの女に弱いとこまで似なきゃ良いけど」
気がつくと2人は泣いていて、僕も泣いていた。今まで言えなかった言葉が、息を吐くように出てきてくれる。
「お父さん…お母さん…」
ごめん、似ちゃったみたい。でも良いんだ。父さんに似るのも、母さんに似るのも、僕が2人の子だって証拠だから。
《裏話》
「お前は何のために剣を握る?」
哲学的な質問に、彼は戸惑う。今までそんなこと考えたこと無いからだ。
「強くなるためだけなら、その剣はただ不幸の産物と成り下がる。その事を胸に刻み、何のために剣を握るのか、振るうのかを考えなさい」
今はまだ分からない。でも、今までの自分が間違っていたことだけは彼にも分かっているようだ。これからどうするか、どうなるかは、彼次第。足元の雪を踏みしめて、前を向き直す。
彼の名前はアーサー・イーサン・ウォーカー
後に剣聖と呼ばれる少年だ。