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ドアがノックもなくゆっくりと開き、LANが入ってくる。
暗がりの中で、
いるまはソファに座っていた。
ー
LAN、…起きてたか
いるま、……
ー
少し間を置いて、いるまが返す
ー
いるま、話があるんだろ?
ー
LANは躊躇なく机に置いていた
一枚の紙を 拾い、手渡す。
それは──実験成功体としての記録と、
なつの覚醒予測データ。
ー
LAN、お前に言うべきか悩んだけど……
これが今の“なつ”の状態だ
いるま、…………
ー
目を細め、書類に目を通すいるま。
ー
いるま、…知ってる。全部じゃないけど、
なんとなく、察してた
LAN、…じゃあ
いるま、だから、…、俺もどうすれば
いいか、わかんねぇんだよ…ッ!!
LAN、はッ?
ー
思わず書類を机に叩きつけ、
怒鳴るような声が響く。
ー
いるま、なつが俺を選べばこさめを
殺すって
LAN、…、まじかよ
いるま、でも、お前らを選べば─
なつを、突き放すことになるんだよ
ー
LANはその怒りを真正面で受け止める。
黙ったまま、少しだけ目を伏せて。
ー
LAN、……だから俺は、最初から
止めようとした。お前に任せたくなかった
でも、お前はもう、“止まれない”とこまで
来てんだろ?
ー
いるまは悔しそうに、苦しそうに、
髪をかきむしる。
ー
いるま、なつを見てると……なにもかも
どうでもよくなるんだよ……
でも、──お前らは、俺の家族みたいな
もんだろ……!
LAN、だから、全部守る方法を──
今から一緒に考えようぜ
いるま、……守れんのかよ、
そんな都合よく……
ー
LANは、ふっと笑う
ー
LAN、そう簡単にはいかねえ。
でも、俺ら“マフィア”だろ?
困難をぶっ壊して前に進むのが、
仕事じゃねえの?
ー
その言葉に、いるまの肩がかすかに
揺れる。
長い沈黙のあと、搾り出すように
口を開いた。
ー
いるま、……なつを、1人にはさせたくねぇ
LAN、そのためにも、冷静になれ。
お前が壊れたら、なつも壊れるぞ
いるま、…わかってる、そんなこと
ー
LANは静かに背を向けて部屋を出て行く。
残されたいるまは、何もない天井を見上げながら、ぽつりと呟く。
ー
いるま、全部、守るって……
ほんと難しいよな……
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
扉の隙間から入るわずかな明かりを
睨みながら、なつは小さく囁いた。
ー
暇72、……もう、待てねぇ。
……ごめんな、 いるま……
ー
そう呟くと、用意していた薬を手に取る
それは、短時間だけ意識を落とす特殊な薬
扉を静かに開け、足音を消して廊下を
抜ける。
そして、“いるま”がいる部屋の扉の前へ──
そっと扉を開けると、いるまは背中を
向けて座っていた。
チャンスは一瞬。
なつはすぐに背後から薬を盛ろうと──
──が、
ガシッ…!
ー
いるま、……甘いな、なつ
ー
次の瞬間、なつの腕をがっちりと掴む
さっきまで“背を向けていた”はずの男が、
もう正面に立っていた。
ー
暇72、ッ!? う、そ、なんで……
いるま、お前、俺が何者か……
忘れてたわけじゃないよな?
ー
不気味な笑顔。
いつもの優しいいるまとは違う。
ー
いるま、俺一応実験成功者で
マフィアの一人な?
ー
なつの目が大きく見開かれる。
本能が訴えてくる。「勝てない」と。
ー
いるま、ご主人様に逆らったら、
どうなるか──教えなきゃな?
ー
──瞬間、なつの身体が壁に
叩きつけられる。
能力の衝撃。
体を直接触れずに動かされる不思議な
感覚。
ー
暇72、、はぇ、っ……? なんで……──
ー
言いかけた瞬間、顎を強引に掴まれた。
ー
いるま、なつ…お前が俺を支配する
なんて、 1万年早いんだよ
俺のもんになりたいって泣いてたの、
誰だったっけ?
暇72、ッ、……♡”
ー
ビクンと震え、抵抗する力すら出ない。
ー
いるま、今度こんなことしたら──
ただじゃ済まねぇからな
ー
囁く声は低く甘く、それでいて支配者の
威厳を持っていた。
ー
暇72、…っ、い、るま……ごめ……
ー
息を吐くように零したその声に
いるまは微かに目を細めたあと、
なつの髪を優しく撫でてやった。
ー
いるま、ほら、震えてる。……俺以外に
触られたいわけじゃねぇんだろ?
ー
なつはその言葉に涙を浮かべ、
力なく頷く。
静まり返った部屋。
でもなつの胸の奥は、どこかザワ
ついていた。
壁にもたれた状態で、まだ呼吸が
落ち着かない。
ー
暇72、(…怖い……けど……)
ー
言葉にならない感情が胸を締めつける。
いるまがぱっと手を離すと
力が抜けたみたいに膝からしゃがみ込む。
ふるえる指先で、
いるまが撫でた髪に触れる。
感触が残ってる。
それだけでまた涙がにじむ。
さっきよりも落ち着いた目で、
ひざをつき、なつと同じ目線になる。
ー
いるま、なつ、お前さ……
ー
ぽつりと声を落とす。
ー
いるま、俺のこと、“好き”だよな?
暇72、──ッ……バカ
ー
泣きそうな顔をして、なつがうつむく。
強がりはもう効かない。
いるまの前では全部、剥がされる。
ー
いるま、……なら、俺だけを見ろ。
他のやつなんか見なくていい
こさめを殺さなくても、俺の隣には立てる
暇72、……俺が任務裏切ったら、
キルやニトくん達にも……
いるま、もう……お前は“俺の”だろ?
ー
強く言い切る。まるで鎖のような言葉。
ー
いるま、もう一度だけ言う。
──“俺のもの”になれ。
ー
なつの肩が震えた。
でも、その目はもう拒絶していない。
ー
暇72、…っ、いるま、だけ……
ー
呟いた声は、誓いに似ていた。
そして──なつの指の指輪が、
一瞬だけ強く光った。
──能力がまた強まった証拠。
ー
いるまら……よし。じゃあ、
証明してやるよ。お前は俺のだって
そう言って、そっとなつの額に口づけを
落とした。