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「あの、すみません。ちょっとご相談したいことがあるのですが……」

「うん、なに?」

「こんなこと言うのアレなんですけど、私いま、経済的に不安を抱えている身でして……」

「……?」

「なので、もちろん弁償はします! けれど! 分割にしていただけませんでしょうか!」

「……は?」

「お願いします!!」

「……分割って……あっ、もしかして君、無職? ……じゃなく家事手伝いみたいな感じ?」

 

一瞬、訝しげな表情を浮かべたあと、男の人は、ストレートではあるけれど気遣いを含んだ言い方で、私に問いかけた。

ニートに見えるかもしれないが、決して花嫁修業に勤しんでいるお嬢様には見えないであろう私に対して瞬時に見せたこの気遣いに、ほんの少し心がほぐれる。

 

「あ、いえ、そういうわけじゃないんですけど、実はしばらく休業することになりまして……」

「休業……ってことは、自営業?」

「はい、そんな感じです」

 

心がほぐれたと言えど、自分の職業を今この状況で明かす気にはなれなかった。

元来の、他人に対して壁を作ってしまう性格のせいもあるけれど、『作家』を名乗るのことがどこか気恥ずかしいのだ。

だからいつも、職業を記入しないといけない書類には大抵『自営業』、もしくはギリギリ譲歩して『ライター』と記載していた。

今も、もし突っ込んで聞かれたら、『ライター』を名乗るつもりだった。

けれど男の人はそれ以上聞いてくることはせず、「そっか」と言って肩を竦めるだけだった。

 

「……とりあえず、少し落ち着いたらとバイトでもと思っていたのですが、早く弁償に取りかからないといけないですので早急に探します。ですので、本当に申し訳ないんですが分割に……」

「いやー、それはナシだな」

「……え?」

「だって、分割なんてめんどくさいじゃん」

「いやでも……」

 

一括はなんとしても回避したい。

そう思いながら、なんとかお願いできないかと頼もうとする私を、男の人は値踏みするように爪先から頭のてっぺんまで見つめ、呟いた。

 

「……うん、悪くはないかな。好みかどうかは別にして」

「?」

「君だって、毎月ちまちま返していくの面倒でしょ」

「でもそんな方法なんて……」

「ないと思うでしょ? でもあるんだよねぇ~。その方法、オレ今、思いついちゃった」

 

男の人はくりっとした目を三日月のようににっこりと細め、私の顎をすくい上げた。

 

「っ!? きゃあっ!」

 

ドンッ!

 

「おわっ!!」

 

突然の接触に、思わず男の人を思い切り突き飛ばす。

するとその反動で、私の身体が思い切り車にあたった。

 

ゴンッ!

 

(ひいっ!? またっ!?!?)

 

新たに車をへこませてしまっただろうかと、焦りつつ車を撫でてみる。

 

(……とりあえず、大丈夫っぽい?)

 

ほっとしたのも束の間、男の人がお腹を押さえてうずくまっていた。

 

「いたたたた……」

「あっ! す、すみません! 思わず驚いて、つい……。大丈夫ですか!?」

「くっ……さすが人間クラッシャー……胸骨折れたかも……」

「いや絶対そこまでじゃないですよね? っていうか、あなたが今押さえているところ、おへそですけど」

「え? ……あっ、ホントだ。ははっ、すぐバレちゃったか」

 

男の人は悪びれることなく立ち上がり、肩をすくめた。

 

「それにしても、あれぐらいのことで驚いて突き飛ばすだなんて、男慣れしてないんだね。可愛いのに」

「男慣れと可愛いは関係ないと思います。それに、年季の入ったジャージを着たすっぴん女に可愛いとか、あからさますぎるお世辞は結構ですから」

「いや、本心。オレ、すっぴんの女の子見慣れてるし。ま、外ではなかなか経験ないけど」

「そ、それって……」

 

(女性経験豊富だって意味だよね……?)

 

恋愛経験ゼロの私でも、それくらいわかる。

この人は堂々と、自分が女好きだって言っているのだ。

 

(ん? ということは……?)

 

そんな男の人が考える『チャラにする方法』なんて、ひとつしか思い浮かばない。

そのことに気づいた瞬間、私は首を大きく横に振った。

 

「む、無理です!!」

「え?」

「私、そういうこと、好きでもなんでもない人とできないですから!!」

 

経験ないですから、と間違って口を滑らせなかった自分を心の中で褒めながら、鼻息荒く叫ぶ。

男の人はきょとんとした顔で私をしばらく見つめたあと──

 

「ふっ……は、はははははは!」

「い、いや、冗談でもなんでもないですから!!」

「あ、ああ、うん……ふふ、うん、そうだよね、うんわかってるよ。……君、本当に面白いね」

 

ひとしきり笑ったあと、男の人は目にたまった涙を拭った。

 

「いやー、マジで面白いわ、うん。そういう気はまったくなかったけれど、そっちでもいいかもって思っちゃった」

「いや思わないでください!!」

「あはは、残念。でも、君のそういう面白い……じゃなく、真面目なところ、オレが思ったとおりだったよ。あの人にはちょうどいいかも」

「……あの人?」

 

唐突に出てきた新しい登場人物に、私は首をかしげた。

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