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第96話:シマエナガによる桜の場所取り戦術〜空挺部隊の陣地構築と、完璧なブルーシート〜
俺——アキヤがまるごと買い上げた、北海道十勝地方の限界集落の奥深く。
樹齢千年とも言われる巨大な『エゾヤマザクラ』の真下。完璧に敷かれた特大ブルーシートの上で、俺たちは特製のお花見弁当を開いていた。
「わぁぁ……! 下から見上げると、桜の天井みたいです!」
小春ちゃんが、桜の花びらを両手で受け止めながら、空を見上げて歓声を上げている。
春の優しい風が吹くたびに、視界を埋め尽くすほどの美しい桜吹雪が舞い散る、まさに絶景だ。
だが、ジンバルにセットされたスマホの向こうで、三百万人のリスナーたちが今なおチャット欄で熱狂しているのは、この桜の美しさだけが理由ではない。
実は先ほど、この特等席(陣地)を構築する際、我が軍の精鋭たちによる完璧な作戦行動があったのだ——。
* * *
時計の針を、数十分前に戻そう。
俺たちがこの千年桜の下に到着し、ヒグマの背中に括り付けられていたピクニック用品を下ろして、お花見の必須アイテムである『特大ブルーシート』を手にした時のことだ。
「小春ちゃん。桜が美しいのは同感だが、まずは『陣地構築』が最優先だ。野外における兵站拠点の設営は、作戦(お花見)の成否を分ける最も重要なミッションだからな」
「とはいえ、この山の斜面は木の根や石が多く、平坦な場所が限られている。さらに、ヒグマの巨体(数百キロ)が乗っても沈み込まず、かつ桜が最も美しく見えるベストアングルを割り出すのは、至難の業だ」
俺が地形の測量とロジスティクス的計算を始めようとした、その時だった。
『ミャウ(私が指示を出すわ)』
俺の足元を歩いていた神獣シロが、桜の木の根元にある切り株にヒョイッと飛び乗る。春の陽光を浴びて神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――をキラリと輝かせると、上空に向かって短く、しかし絶対的な威厳を持って鳴いた。
――ジュルルッ!!
その号令に応えるように、桜の枝の間に隠れていた『空軍』が動き出した。
十羽のシマエナガたちが、真っ白な雪の妖精のようなフワフワの体を弾ませながら、一斉に上空へと飛び立ったのだ。
「おっ、シマエナガさんたち! どこへ行くんですか?」
小春ちゃんが首を傾げる中、シマエナガ部隊は桜の木の下の空間を縦横無尽に飛び回り始めた。
彼らは上空から地形をスキャンするようにホバリングを繰り返し、やがて『ある一点』の上空でピタリと静止した。
そして、十羽が完璧な四角形(スクエア)のフォーメーションを組み、空中でホバリングしながら「ここだ!」と言わんばかりに鳴き声を上げた。
「ジュルッ!(アルファ・チーム、最適な平坦地をロックオン!)」
「ジュルルッ!(風向き、日照条件、桜の落下軌道、すべて計算完了!)」
「……バカな。鳥が上空から地形を測量し、最高の『お花見スポット』をマーキングしたというのか!?」
俺が驚愕していると、今度は地上部隊が動き出した。
『コンッ!』
『キュゥ!』
俺の足元で待機していたキタキツネの兄弟、コン吉とコン次郎が、俺の手にあった特大ブルーシートの端を器用に咥え、シマエナガたちがホバリングしている真下へと猛ダッシュしたのだ。
「あっ、こら! まだ地面の石を退けてないぞ!」
俺が止めようとするより早く、我が限界集落の『重装甲部隊』が動いた。
ドスゥゥゥン、ドスゥゥゥン。
荷物を下ろして身軽になった巨大ヒグマが、のしのしと前に進み出る。
ヒグマは、シマエナガが指定した四角形のエリア内を歩き回り、邪魔な石や木の枝を巨大な前足でヒョイヒョイと払い除け、さらには自らの体重でデコボコした地面を平らに『整地』してしまったのだ。
ヒグマの整地が終わった瞬間、コン吉とコン次郎がブルーシートを引っ張り、見事な八の字を描きながらシートを広げていく。
シマエナガ部隊は空から急降下し、シートの四隅に落ちていた手頃な石を小さな足で掴んで落とし、風で飛ばないように『ペグダウン(固定)』を完了させた。
空のシマエナガによる制空権確保と測量。
ヒグマの圧倒的質量による整地。
キツネの機動力を活かしたシート展開。
時間にして、わずか数十秒。
千年桜が最も美しく見え、地面は平らで柔らかく、桜吹雪が最高の角度で舞い落ちる『究極のお花見陣地』が、シワ一つなく完璧に完成したのである。
『うおおおおおおおお!!!!!』
『なんだこのもふもふ建設会社はwwww』
『完璧な練度!! 自衛隊の施設科も真っ青の陣地構築速度だぞ!!』
『シマエナガが空から測量して、キツネがシート敷くとか童話でもやらんわww』
『ヒグマのロードローラー(整地)の安心感ヤバい』
三百万人のリスナーたちがこの圧倒的なお花見展開に狂喜乱舞し、世界中のVIPたちの財布が、満開の桜のように見事に咲き誇った。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”A miracle of logistics! Master, I will hire this fluffy construction squad to build my next palace!“(兵站の奇跡だ! 主よ、私の次の宮殿を建設するために、このもふもふ建設部隊を雇おう!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”Unbelievable efficiency! The ROI of this animal coordination is infinite!“(信じられない効率だ! この動物たちの連携の投資利益率は無限大だな!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト×10連発)=”Akiya! Have them set up my next movie set! They are faster than Hollywood crews!“(アキヤ! 彼らに私の次の映画のセットを組ませて! ハリウッドのスタッフより早いわ!)』
極彩色のMeTubeギフトの嵐が、桜吹雪と共に画面を覆い尽くしていく。
* * *
――そして、現在に話を戻す。
「お兄さん! シロちゃんたち、本当にすごかったです!! あっという間にブルーシート敷いてくれましたよ!」
小春ちゃんが、シワ一つない完璧なブルーシートの上で、先ほどの興奮冷めやらぬ様子で歓喜の声を上げている。
ブルーシートの上では、大仕事を終えたヒグマがどっしりと横たわり、コン吉とコン次郎がそのお腹にダイブして遊び始めている。
シロは一番見晴らしの良い特等席(ヒグマの頭の上)で、満足げに喉を鳴らしていた。
世界中の人間が、この限界集落の動物たちの有能さと奇跡の連携に、今もなお感嘆の声を漏らしている。
だが。
俺は特製弁当を片手に、元・社畜としての『どんな奇跡にも動じない鋼のポーカーフェイス』でカメラに向き直った。
「……世界中の皆さま。動物たちの完璧な陣地構築に感動しているところ大変申し訳ありませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『桜の下でも絶対にブレない男!!』
『主の限界言い訳タイム・お花見陣地構築編ww』
『さあ、この完璧すぎる練度をどうやって論破する気だww』
俺は、キリッとした真顔で、舞い散る花びらを払いながら淀みない口調で言い放った。
「これは軍事的な陣地構築でも何でもありません。鳥類は本能的に上昇気流を捉えやすい開けた空間に集まる習性があり、シマエナガの群れが上空で滞空(ホバリング)していただけです。そしてヒグマは、冬眠明けの習性で寝床を作るために地面をならし、キツネたちはブルーシートの色を『水たまり』と勘違いして遊び半分で引っ張ったに過ぎません。ええ、ただの野生動物の帰巣本能と、偶発的な習性の連鎖反応ですね」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、空になった水筒のカバーで、俺の背中に渾身のツッコミを見舞った。
「帰巣本能で四隅に重りの石を落とす鳥がどこにいるんですか!! しかもどう見たって、シロちゃんの『あそこに敷きなさい』っていう命令で、みんな完璧に役割分担して最高の場所を確保してくれたんでしょうが!! お花見の場所取りくらい、素直に彼らの有能さを認めなさいよ!!」
『小春ちゃんのキレキレ水筒カバースマッシュ炸裂www』
『上昇気流を捉える(完璧な測量)』
『水たまりと勘違い(シワのないシート展開)』
『適応力バグおじさん、ついに完璧な設営をただの習性で片付けるww』
『言い訳のせいで桜の情緒が台無しだよww 最高!!』
俺の理不尽極まりない生態学的な言い訳と、小春ちゃんの容赦ない物理ツッコミに、三百万人の視聴者たちは桜の美しさを忘れ、大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(さぁ、お弁当の続きにしましょう)』
シロがヒグマの頭の上で小さく鳴き、前足でシートの上をトントンと叩いた。
「……まぁ、理由はどうあれ。最高の陣地(ロケーション)で飯が食えるなら、それが一番だ」
俺は苦笑いしながら、再び玄米と大豆パティの弁当箱に向き直った。
春の優しい風が吹き抜け、薄紅色の花びらが俺たちの周りをひらひらと舞い踊る。
世界中のVIPが億単位の金を出しても決して手に入らない、神獣と動物たちが作り上げた究極のお花見会場。
俺が全財産を投じて守り抜いたこの山の奥で、限界集落の最高にバグった温かい日常は、千年桜の美しさと共に、永遠の春を刻み続けるのだった。
コメント
1件
わあ……めちゃくちゃ面白かったです!シマエナガが空中から測量して、キツネがシート敷いて、ヒグマが整地するって、まさにもふもふ建設会社ですね🤭💕 小春ちゃんの水筒カバーツッコミも最高でしたし、それに対するアキヤさんの「帰巣本能で四隅に石を落とす鳥がいるか」って言い訳がもう……大好きです(笑) 千年桜の下で繰り広げられる、このほっこりとカオスが同居する感じ、ゆうきさんにしか書けないなって思いました。次の話も楽しみにしてます!
ゆうき あきや
3,596
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#心理描写重視