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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第97話:一千万人のオンラインお花見〜国境なき桜吹雪と、超巨大帯域の共犯者たち〜
シマエナガ空挺部隊、キタキツネ陸戦隊、そして最終防衛ラインたる巨大ヒグマ。
我がもふもふ統合軍の完璧な連携によって、シワ一つなく設営された特大ブルーシート。
俺——アキヤは、その中央にどっかりと腰を下ろし、満開の千年桜を見上げていた。
ハラハラと舞い散る薄紅色の花びらが、俺の前に並べられた質素な弁当箱へと落ちる。
今日もブレずに炊き上げた、香ばしい玄米ご飯。そして、こんがりと焼き目のついた大豆パティ。
「うん、桜の香りが微かに移って、いつもの大豆パティが実に風流な味わいになっている」
「もう、お兄さんはどこにいてもそれなんですね。ほら、キツネさんたちも呆れてますよ?」
隣に座る割烹着姿の小春ちゃんが、お花見用に作ってきた卵焼きを頬張りながらクスクスと笑う。
彼女の言う通り、俺の脇腹にぴったりとくっついているコン吉とコン次郎は、お弁当の唐揚げに夢中で俺の玄米など一ミリも見ていなかった。
俺の膝の上では、純白の神獣シロが完全に液状化して『ゴロゴロ……』と心地よいヒーリング波動を放ち、その巨大な背中を俺たちの座椅子代わりにしてくれているヒグマは、「グゥ……」と満足げに鼻息を漏らして目を細めている。
そんな、極上の癒やしに満ちた千年桜の真下。
ジンバルに固定された俺のiPhone miniの画面は、文字通り『大爆発』を起こしていた。
『同時接続者数:10,000,000人』
「……一千万人、か。YAMAHAルーター『NVR700W』の通信帯域を最大開放しておいて正解だったな」
俺が画面を見つめて呟くと、チャット欄はもはや人間の動体視力では視認不可能なほどの超光速でスクロールし始めた。
世界中が、この画面越しに広がる『奇跡の絶景』に完全に魂を奪われていたのだ。
『(英語)=オーマイゴッド……。これが日本の本物の桜なのか……!?』
『(アラビア語)=信じられない。砂漠の国では絶対に見られない、天国の庭園のようだ』
『(フランス語)=あまりの美しさに涙が止まらない。絵画を超えているわ』
『(中国語)=神獣と、キツネと、巨大なクマが一緒に桜を見ている。なんと平和な桃源郷か』
チャット欄を埋め尽くすのは、ありとあらゆる言語、国境、宗教、文化の壁をすべて消し去った、純粋な『感動』の言葉の嵐だった。
ブラック企業で、冷たい蛍光灯の光の下、深夜までただ数字(ノルマ)だけを追いかけていたあの頃。
あの満員電車から見上げていた都会の薄汚れた桜とは、何もかもが違う。
今、俺が守り抜いたこの絶対聖域の山奥で、一千万人の「疲れた大人たち」が、画面を通して同じ桜を見上げ、静かに心を休めているのだ。
当然、世界を牛耳るVIPたちも、この歴史的なオンラインお花見に、最大級の敬意(物理)を払い始めた。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Beautiful…! This cherry tree is the ultimate treasure of mankind! I will charter a luxury cruise for all one million villagers to celebrate!“(美しい……! この桜は人類の究極の宝だ! お祝いに村人全員のために豪華クルーズをチャーターしよう!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”The currency of peace is in full bloom. Money is worthless in front of this blossom. I am healing…“(平和の通貨が満開だ。この桜の前では、金など無価値だな。私は癒やされている……)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト×10連発)=”Akiya! Look at the chat! The whole world is crying with joy right now!“(アキヤ! チャット欄を見て! 今、世界中が喜びで泣いているわ!)』
嵐のように降り注ぐ極彩色のギフトが、千年桜の花吹雪とシンクロして、画面をこの世のものとは思えないほど華やかに彩っていく。
「……すごいです、お兄さん」
小春ちゃんが、膝の上に両手を置き、瞳を潤ませながらスマホの画面を見つめた。
「英語の人も、アラブの人も、みんなが『綺麗だね』って言って、一緒に笑ったり泣いたりしてる……。言葉も国も全然違うのに、お兄さんの配信を通じて、世界中が一つに繋がっているみたいです。これって、本当に、奇跡みたいなことですよね……っ」
小春ちゃんが、感極まったように声を震わせる。
三百万人のリスナー……いや、今や一千万人の共犯者たちが、画面の向こうで彼女の言葉に深く頷き、涙を流していた。
世界中が、この奇跡のオンラインお花見の、最高にエモーショナルなフィナーレを待ち構えている。
だが。
俺は熱いほうじ茶をずずっと啜り、元・社畜としての『一切の感情を排した鋼のポーカーフェイス』でカメラに向き直った。
「……小春ちゃん。そして世界中の一千万人の皆さま。感動の地球規模の平和に熱を浮かされているところ大変申し訳ありませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『一千万人が泣いてるのに、一ミリもブレない男!!』
『主の限界言い訳タイム・一千万人オンラインお花見編ww』
『さあ、この世界平和の奇跡をどうやって物理的に論破する気だww』
俺は、キリッとした真顔で、淀みない口調で言い放った。
「世界が一つの感動で繋がっているというのは、完全な『情報工学的および生理学的』な錯覚です。これは奇跡でも何でもありません。我が家のYAMAHAルーターが、超低遅延なパケット通信によって、映像データを正確に世界中へ『兵站輸送(データデリバリー)』しているだけです。そして皆さまの網膜にある視細胞(光受容体)が、画面のRGB発光ダイオードから放たれる特定の波長(約530ナノメートル前後のピンク光)を感知し、脳の視覚野が『美しい』という定型パターンの電気信号を出力しているに過ぎません。ええ、ただの『高度なICT技術』と、眼球の『物理的な光化学反応』の合わせ技ですね」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、涙を引っ込めて、お弁当の空のプラスチック容器で、俺の背中に渾身のツッコミ・スマッシュを見舞った。
「一千万人の感動を、ただのパケット通信と眼球の電気信号で片付ける人間がどこにいるんですか!! どう見たって、お兄さんの配信と、シロちゃんたちの可愛い姿が、世界中の人の心の壁を壊して、温かい気持ちにしてくれたんでしょうが!! 世界を一つにした奇跡を素直に認めなさいよ!!」
『小春ちゃんのキレキレ空箱スマッシュ炸裂www』
『物理的な光化学反応(一千万人の涙)』
『兵站輸送(YAMAHAルーターの奇跡)』
『適応力バグおじさん、ついに世界平和の感動を情報工学と眼球の構造にすり替えるww』
『言い訳が理不尽すぎて、世界中の涙が一瞬で笑いに変わったわww 最強!!』
俺の理不尽極まりない科学的な限界言い訳と、小春ちゃんの鋭すぎる物理ツッコミに、一千万人の視聴者たちは感動の涙を引っ込め、腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落とされた。
チャット欄には、あらゆる言語の「wwww」や「ハハハ!」の文字が、まるで満開の桜のように咲き乱れている。
『ミャウ(相変わらず素直じゃない男ね)』
俺の膝の上で丸くなっていたシロが、呆れたように小さく鳴く。舞い散る桜吹雪の中、その神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――を優しく細めると、俺の顔を見て満足げに喉を鳴らした。
「……まぁ、理由はどうあれ。みんなで楽しく飯が食えたなら、それが一番だ」
俺は苦笑いしながら、シロの純白の頭を優しく撫で、再び千年桜を見上げた。
かつて、孤独の中で凍えそうになっていた元社畜の日常。
それが今や、一山まるごと買い上げた聖域で、もふもふ達に囲まれ、一千万人の愛すべき共犯者たちと、美しい春のひとときを共有している。
どれだけ環境が変わっても、世界がどれほど理不尽でも。
満開の千年桜の下で営まれる、この最高にバグっていて、世界一温かい俺たちのスローライフは、心地よい春の風と共に、これからもずっと、笑顔のまま続いていくのだった。
コメント
1件
うわあ、今回も最高でした…!一千万人が同時視聴してるオンラインお花見、しかももふもふ統合軍の完璧な連携で設営されたブルーシートのど真ん中からの配信って、もうそれだけで胸熱です。感動の地球規模平和を「ただのパケット通信と眼球の電気信号」って言い放つアキヤさんのブレなさに笑い転げました。小春ちゃんの空箱スマッシュも見事!世界中の涙を笑いに変えるあたり、この作品の優しいユーモアが詰まってますね。本当に、温かい気持ちになりました。