テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
食事の時間になると、うるさく感じるほど賑やかなw国軍の食堂。
だが、その日の食堂は静まり返っていた。室内に響くのは、食器にぶつかるフォークやナイフの音のみ。
そのあまりに異様な光景に、食堂にいた多くの者は冷や汗を流していた。
___________________ただ1人を除いて。
gr「…………………エーミール」
金髪の大柄な男はしびれを切らしたように、不穏な空気を醸し出す男の名を呼ぶ。
em「…なんですか?」
それに対し返事をした男___エーミールは、不機嫌さを隠そうともせず、冷たい表情のまま男へと視線を向ける。
gr「その……なにか気に障るようなことでもあったのか?」
em「……いえ、大したことではありませんので」
エーミールは、緑のフードを深く被った男に視線を移し、お気になさらず、と続けた。
その声にビクリ、とフードの男の肩が跳ねる。
どうやら、エーミールと彼との間でなにかあったらしい。
em「…今日は食欲がありませんので、お先に失礼します」
エーミールはそう言って立ち上がる。まだ皿の上には半分ほど食事が残っていた。
あ、とフードの男が声を上げる。
zm「…え、えみさん……」
em「……⋯…何」
先程よりも冷たい声に、フードの男はぽつりと謝罪の言葉を漏らす。
zm「…ごめ、なさい………その…そんな大事なものやと、思わんくて………」
それを聞いたエーミールは目を細め、突き放すように言う。
em「何言ってるんですか?」
zm「ぇ…?」
em「…………」
エーミールは何も言わず、食堂を出ていく。フードの男は俯いて立ちすくんでいた。
sho「ぞ、ゾム……エミさんに何したん……………?」
ニット帽にかわいい豚のバッチをつけた小柄な男が、遠慮しがちに尋ねる。
ゾムと呼ばれたフードの男は、目に薄い膜を張りながら事の経緯を話はじめた。
俺…悪気なかってん。
仕方なかったっちゅうか…壊すつもり無かってん…
昨日の夜_________
em『えッなにうわぁぁぁぁぁぁぁぁ?!』
山積みの本を抱えたエーミールが、目の前に降ってきたおもちゃのG(大量)に驚いて叫び声を上げる。
エーミールが腰を抜かしているのを見たゾムは、満足そうに頷いていた。
zm『エミさんこれ引っかかるん5回目やでw』
em『ぞ、ゾムさん…ほんまにやめて……』
エーミールが大きくため息を吐くと、ゾムは「ごめんごめん」と軽く謝りながら本を拾い集め始めた。
em『ほんまやめてよぉ、俺そろそろ心臓止まって死ぬよ…』
zm『毎回引っかかる方が悪いんやって』
そんなことを話しながら本を集めていると、不意に窓の外から不自然な光が見えた。
zm『…ん?なに?』
ゾムがそう零すと、何が?とエーミールが聞き返す。どうやらエーミールには見えなかったらしい。
zm(なんやろ…街の方向じゃないし……軍の敷地内に来るようなやつなんて_____)
ハッとしたように、ゾムが光の見えた方を見る。光が見えた位置からここまで、大体1.2km…いや、1.5kmだろうか。
スナイパーライフルの射程範囲内だ。ならさっきの光は、まさか_______
zm『エミさん!!』
本を放り投げて、エーミールのもとへ駆け寄る。同時に、光の見えた方向から破裂音が響く。
エーミールに覆いかぶさるような形で、ゾムがエーミールを押し倒す。
ゾムたちの横を銃弾が通り抜けていく。
zm『エミさん大丈夫?!』
em『だ、いじょうぶ…ありがとう……?』
まだ状況を把握できていないエーミールが、困惑したような声で言う。
zm(…連続で撃って来ぉへん…移動したんか………?)
zm『手練れとんな…どこの観光客やろ……』
そこでふと、ゾムの視界に壊れた万年筆が目に入る。
たしか、エーミールが大切にしていた万年筆だ。胸ポケットから落ちて、何かの拍子に壊れてしまったのだろう。
zm『あ、エミさんごめn『なんで…?』
ゾムの言葉をエーミールが遮る。
em『なんで…庇ったん……?』
ゾムが困惑気味に答える。
zm『なんでって…俺が動かんだらエミさん撃たれてたやん!俺エミさんのこと好きやし…』
zm『あ、あと…作戦立案のエミさんが死んでもうたらアカンやろ?』
その言葉を聞いた瞬間、エーミールの顔がこわばる。
em『……前線ならたくさんいるから、自分はいいと?』
zm『えっ?ま、まあ…怪我してもシャオロンとかおるし……』
zm『それよりごめんエミさん!万年筆折れてしもたみたいやわ!!』
少し間を開けてエーミールが言う。
em『ゾムさん、自分が何したんか分かってるんですか』
zm『え?何が?万年筆…?そ、そんな大事なもんやったん?』
em『……………』
エーミールは一言も話さず本を拾い集め机に置くと、そのまま部屋を出ていってしまった。
観光客の報告ついでに、グルッペンに万年筆のこと聞いたら………
………その…事故で亡くなった生徒さんから貰ったものやったらしくて…
俺、そんな大事なもんやったなんて知らんくて…気に入っとんのかなぁって思とったぐらいで…
しどろもどろにそんなことを話すゾムに、メンバーは「ん?」というような視線を向けていた。
ut「…え、つまりゾムは……エミさんがキレとんのは、ゾムが万年筆を折ってしもたからや…って思っとんの……?」
zm「そうやけど…え、違うん…?」
そこでようやく合点がいった。ゾムは根本的な勘違いをしているのだ。
ut「……ゾム、もしエミさんがゾムのこと庇って死んだらどう思う?」
zm「っ!いやや……!!」
ut「そういいうことや」
え?、とゾムが呆けた声を上げる。
tn「やから、それエーミールも同じやっていうとんねん」
少しの沈黙があってから、ゾムは慌てたように食堂を出ていく。
zm「あ、ありがとう!ちょっと俺行ってくる!!」
tn「ゆっくり行かな転けんで!」
sho「…聞いてへんなw」
kn「いやあ、さっきのエミさん怖かったなぁ!!喋れへんかったわ……」
shp「エミさんキレるとああなるんすね…」
ut「………ちゃんと仲直りできるとええんやけど」
エミさん変なとこ頑固やからな、と青いスーツを着た男が続けた。
はあ、と息を吐いて椅子へ座る。手には先程淹れた珈琲が握られていた。
『作戦立案のエミさんが死んでもうたらアカンやろ?』
『まあ…怪我してもシャオロンとかおるし……』
彼の言葉を思い出し、より一層心が沈む。
どうしてあの人は自分を大切にしないんだろうか。
戦争のときも、彼は真っ先に敵の中へ突っ込んでいく。そのくせ注射が嫌いだ、点滴は嫌だと医務室に行こうとしない。
こっちがどれだけ心配しているのか、分かっていないのだ。
極めつけは今朝の謝罪。
確かに大切にしていた万年筆だが、結局は消耗品だ。時が来れば壊れていただろう。
一応部品は残してあるが、直せるだろうか……
…彼はいつになれば、自分が好かれていると自覚してくれるのだろうか。
珈琲を一口飲み、もう一度ため息を吐いて上を見上げる。といっても、室内なので天井しか_____
zm「あ」
いつの間にか、ダクトに緑色のフードを被った青年がぶら下がっている。
私と目が合うと、彼は気まずそうに目を逸らした。
em「ぞ、むさん…」
彼のことだ、きっともう一度謝りに来たのだろう。
⋯どうしてこの人はいつも上からくるのだろうか。もう慣れたけど……
zm「え、えっとな…エミさん、その…ご、ごめん……俺、ただ…エミさんに、死んでほしくなくて…」
先刻と謝っていることが違う。ようやく何に怒っているのか理解してくれたらしい。
em「…死んでほしくなければ、自分を犠牲にしていいんですか」
zm「で、でも当たらんかったし‥!」
em「当たらんかったって…あと3cm左にそれとったら当たっとったかもしれんねんで?!」
zm「そ…れは……」
em「なんでいつもゾムさんはそうなんですか!!」
なぜだろうか。歯止めが効かない。いつもはこんなに引きずったりしないのに。
em「俺は!怪我してでも…死んででも守ってくれなんて頼んでへん!!」
em「作戦立案?前線?知るか、関係あらへんわ!!」
em「もっと自分が大事に思われとることを自覚せぇ!!もっと…」
少しだけ目の前が霞んで見える。もう俺30超えてんのに…格好悪いなぁ、なんて思ったところで霞んだ視界は変わらなかった。
em「もっとッ…じぶんの、ッこと…だいじに、して…やぁ…ッ…⋯」
涙で滲んだ視界では、彼が今どんな顔をしているのかはわからない。
けれど…少しは、伝わったらしい。
zm「……ごめ、なさ………い…ッ…」
何かを堪えるように、絞り出された謝罪。
ようやく分かってくれた。
あなたは大事にされてるんですよ。
_________________私からも、皆からも。
ut「よかったぁ、仲直りできたみたいやわ」
shp「保護者面してドアの隙間から覗くの、悪趣味ですよ」
ci「お前今録画してるやん」
shp「覗いたらエミさんが泣いとったから、つい…」
tn「カスやなこいつ…はよ行くで」
スクロールお疲れ様でした!ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回はエミさんとゾムが喧嘩するお話を書いてみました。
なんだかんだでメンバー全員がお互いの保護者なんですよね…仲間想いというか…
最後雑になってしまいましたが、お許しください😭
エミさんの一人称は、基本「私」なんですけど…興奮しているときとか、忙しいとか…そんなときには「俺」を使っています。
next…かわいいもの好きな彼のお話
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!