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「三日ぶりですかね、エトワール様」
そういって、微笑んだブライトの顔は相変わらず美しく宗教画のようで私は思わず惚れてしまった。
しかし、何故彼がここにいるのか、いつからここにいたのか……全く気配に気づかなかった。
ブライトは軽く神官に挨拶をし、私と向き合った。
「な、何でアンタがここに?」
私がブライトを指さすと、彼は心外だなと肩をすぼめた。
ああ、えっと確か神官と仲が良くて……魔道騎士団の統率者で……だっけ。と回らぬ思考でブライトがここに現われた理由をあれこれと考え始めた。
そんな私を見兼ねたように、神官は慌てて言った。
神官は、私とブライトを交互に見つめるとコホンと咳払いをして話し始めた。
「ブリリアント卿は、女神様のお告げを授かりに参られたのですよ」
「お告げを……ですか」
「お告げと言っても、たいしたものじゃありませんよ」
と、横からブライトは苦笑する。
「僕の家系は代々聖女様に関する伝説や資料をまとめ伝えるだけではなく、女神様のお告げを聞き帝国の魔道士達に教えを説いてきたんです。この帝国の魔道士が、平民が……皆、善の心を持つ人間であるようにと」
そう言って、ブライトは神官を見た。神官は静かにうなずいた。
宗教的な何からしく、それ以上ブライトは何も話さなかったが、兎に角ブリリアント家とこの神殿は深い繋がりがあるということらしい。
そのため、頻繁にブライトは神殿を訪れているようだった。
この庭、女神の庭園は選ばれたもの以外入ることは出来ず、神官や、聖女、ブリリアント家の血筋のもののみ入園を許可されているらしい。勿論、神官が許可した者や聖女、ブリリアント家の血筋の者が許せば入れるのだとか。
「それで、その混沌……とは何なのですか? 女神と対になるとはいってたけど、人ならざるもの? 負の感情……って?」
私の問いにブライトは優しく微笑み答えてくれた。
女神は、人を慈しみ愛している。言わば、善の感情。この世の善を司るもの。
女神が存在しているからこそ、人は優しさや温かさを感じ、それを人に与えられるのだと。その善の感情があるからこそ光魔法の魔道士は魔法を使えるのだとか。
しかし、混沌は違うのだという。混沌とは、実体を持たず、女神のように天界に住まうわけでもない。
人の負の感情や欲望、恨み辛み妬み嫉み……そういったものを糧とし、負の連鎖を作る歯車のようなもの。実体がないだけに討伐や封印等は不可能。
人の心に出来た影を大きく広げ、人間不信や狂乱状態にさせる、言わば醜い感情の増幅装置。
それが、混沌なのだと。
女神と対をなすというのに、実体がなく封印討伐も出来ないとなると混沌とは名の通り恐ろしい人の手にはおえないものだと言うことが分かる。
その混沌とやらが災厄の引き金となるらしい。
何でも、混沌にも周期があり人の心に大きな影響を与える期間というものがあるのだそうだ。そこで、弱った心には影が差し疑心暗鬼を生じさせる。そうして、災厄を引き起こす……と言うことらしい。
「ですが、過去に女神様は混沌に実体を与え、聖女様のように人の姿にすることに成功したのです」
「えっ? それって、不味いんじゃないの?」
「いいえ、違います。人の姿にすることで、混沌を帝国の外に漏れさせない、三百年間封印できるようにしたのです」
と、ブライトは言った。
ブライトが言うには、ラスター帝国にはその混沌を逃さないための結界が女神や過去の聖女によって作られ強化されたのだとか。
混沌は、遠い昔世界全てを闇で覆ったという伝説もあるほどだから。女神よりも先に存在していたとか……
「じゃ、じゃあ……その混沌はこの国の何処かに?」
私が聞くと、ブライトは静かに頷いた。
「はい、三百年間封印された混沌は自然と消滅し、また人としての生を受けこの世に産み落とされます。分かっているのは、この帝国の何処か……と言うことだけで、誰に転生したのかは分からない状態なのです。人であることは確かなのですが……そのタイミングも分からず」
「……じゃ、じゃあ早く見つけないと」
と、私は慌てた。だって、いつ現れるかも分からないのに…… そんな私にブライトは微笑んだ。
まるで、大丈夫ですよと言われているような気がした。
そして、ブライトは私に向き直り、口を開いた。それはとても優しい声で、思わずどきりとしてしまう。
「災厄が訪れる前には必ず見つけ出すので。エトワール様の手は患わせませんよ」
と言って、私の手をそっと握ってくれた。
その言葉とその行動に何故か安心する自分がいて、不思議だった。
きっとこの人は私を助けてくれる。そんな確信めいたものを感じるほどに。
「……ということは、私の出番はないってこと?」
もし、ブライトや他の人が混沌を見つけ処理してくれれば、聖女は何もしなくていいのでは? そう思って聞いてみると、ブライトは苦笑しながら首を横に振った。
確かに聖女の役目は混沌を討ち滅ぼすことにあるのだが、人の形を取っているなら、人間なら聖女じゃなくても倒せるのではないかという疑問が浮上する。
それに、聖女は封印しか出来ないのなら尚更、他の人が……そう思ってブライトを見ると、彼は思い詰めたような表情でこう呟いた。
ブライトが聖女様にしか頼めないことがあると言った意味が分かった。
「もし、我々が混沌の主を探し捉えたところで……仮に、その主を殺害したとします。すると、殺害したものに災いが降り注ぐのです」
死という災いが。
そう、ブライトは口にした。
混沌の主を殺害したものは、数日のうちに自殺、若しくは奇妙な死を遂げるというのだ。
また、混沌の主を殺したところで封印できるわけではないため、またすぐに転生しこの世に戻ってくる。その間、混沌が此の世界に存在する為人々の疑心暗鬼は強くなりよりいっそ混沌の力を強めるのだとか。
三百年の平穏。
それを成し遂げるには、聖女が混沌を封印しなければならないのだ。
「しかし、混沌は宿り主から一旦離れる必要があるのです。より醜い感情を持つ者に寄生し、災厄を引き起こす」
「……えっと、つまりその混沌が寄生する相手を見つける前に、見つけ封印する……と言うことですか?」
と、私が確認するように聞くとブライトは力強く肯定してくれた。
混沌がこの世界に産まれるのは、約一年程先だ。
(エトワールは、きっとその混沌の主に災厄を引き起こすための生け贄として選ばれたのね……)
徐々に分かってきた、本来のエトワールの末路。
エトワールは、本物の聖女、ヒロインが現われたことによりさらに心に影が出来そこを混沌の主につかれ、闇落ちし災厄を引き起こし、ラスボスとなった……
初めから悪い人なんていないんだ。
「それで、私は災厄が訪れるまで……混沌が見つかるまで何をすれば良いんですか!」
私は、やるしかないと覚悟を決め、ブライトに聞いた。
混沌を封印すること、それが使命であるならばやらねばならない。
私の死亡フラグ回避の為にも!
私の発言に目を丸くしたブライトは神官と顔を見合わせた。そして、二人は笑いながら私を見た。
(何なの!? 二人して目配せしてるけど!? 一体どうしたの!? 何か可笑しいことあった!?)
私が二人の様子に戸惑っていると、神官が口を開いた。
「聖女様は、まだ自分の魔法を制御出来ていないようですので、魔法の特訓をするのがいいでしょう」
と、苦笑する。
確かに、魔法を自由自在に操れるわけではない。魔力量はあるのだから、宝の持ち腐れ……それに、いざという時扱えなければ意味がない。
私は、その通りですね。と頷いた。
しかし、一人で練習しようにも魔法の正しい使い方や原理などまだしっかりと理解できていない。この間のようにイメージとずれたものが発動したりしたら……
ここは、誰かに教えて貰うしかない。そう、例えば……
神官に挨拶し、庭を出て行こうとしたブライトを私は呼び止めた。
「ブライトっ!」
私が呼ぶと、彼は振り向いて立ち止まった。
「私に、魔法の扱い方を教えてください!」
「……僕が、ですか?」
「はい!」
「ですが……エトワール様に教えられるほど……」
ブライトはそういって、口ごもった。
しかし、ブライトはヒロインストーリーで彼女の魔法の師匠だった。それに、帝国一の魔法を持つ家……魔法を教わるのにこれほどうってつけな人物はいないと、 私は、ブライトに歩み寄り彼の手を取った。
突然の行動に驚いたのか、ブライトは私の顔を見て固まった。
「本気ですか?」
「はい。私はまだまだ未熟で、災厄に立ち向かえるほど魔法を上手く扱えない……だから、私に、貴方の持っている知識全てを貸して欲しいの」
真剣にお願いすると、ブライトはますます困ったような表情を浮べた。
すると、神官がいいじゃないですか。と微笑みながら、ブライトに目配せした。
「ブリリアント卿なら、聖女様の魔法の師にぴったりでしょう」
「神官さんも、そう言っていることです……だから、お願いします!」
私が再度頭を下げると、ブライトは諦めたようにため息をつく。
「分かりました。僕が教えられることは全て、エトワール様に教えましょう」
「やった!」
それから、私の手を握り返した。ブライトの好感度はピコンと音を立てて上昇した。
こうして、私は魔法の先生もゲットしたのであった。
(あれ……? もしかして、攻略、してなくないか?)