TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する


第二章:気にも留めなかった、その少年



「……また、あの人か」


山中での任務。結花は隊士たちが戦った後の現場整理に向かっていた。

死臭の残る風の中、いつも通り淡々と遺体の処理をしていると、また彼がいた。


――時透無一郎。


柱でありながら感情の読めないその少年の存在に、最初こそ驚いたものの、今ではよく任務先で顔を合わせるようになった。


とはいえ、彼に特別な感情を持ったことはなかった。

正直、「関わりたくない人」という印象だった。


冷たい、無表情、会話もほとんどない。

それに――あの目が嫌だった。まるで、全部見透かされているようで。


結花は刀も持たず、戦う力もない。ただの隠(かくし)。

隊士たちのような強さも、熱も、誇りも持ち合わせていない自分とは違う世界の存在。


だから、彼を見ても何も思わない。そう思っていた。





ある夜の任務先、偶然の遭遇



その日も、山間の村での後処理だった。だが、異変はすぐに起きた。

日没直前、まだ鬼の気配が残る村にひとり残っていた結花の背後に、ひたひたと足音が忍び寄る。


「……っ」


振り向いた瞬間、真っ赤な瞳と目が合った。

背筋を凍らせる鬼の気配。小柄だが爪が鋭く、跳躍力のあるタイプ――逃げ場はない。


結花は逃げる間もなく、鬼に押し倒され、腕に深い傷を負った。


(終わる……ここで、また――)


あの日と同じ絶望が、頭を過った。





――過去の回想:あの夜の惨劇



「ゆいか、早く逃げなさい!」


母の声。兄の叫び。父の剣戟。

全てが一瞬で鬼に引き裂かれた。目の前で家族が血に染まり、結花はただ床に膝をついて泣くだけだった。


「なぜ私だけ生きてるの……」


あの日から、感情を封じ、心を凍らせ、ただ「役目」を果たすだけの存在になった。


でも――その夜、今度こそ、命は尽きる。そう思った。





しかし、その瞬間



「……下がってて」


霞のように音もなく、誰かが間に入った。

薄い隊服の裾が、夕日で柔らかく揺れる。


――時透無一郎。


「君、また無茶してるね」


無表情のまま、無一郎は日輪刀を抜いた。結花の目の前で、鬼の爪を一太刀で断ち切り、体を滑らせるようにして斬撃を放つ。


刹那。鬼の体が宙に跳ね、音もなく崩れた。


「ケガしてる。動かないで」


静かに、そう言った彼が、結花の腕に自分の羽織をかける。


(あったかい……)


それだけで、張りつめていた心の糸が、一瞬緩んだ。


「なんで……助けてくれたの」


思わず漏れた言葉に、彼は小さく首を傾ける。


「……困ってる人を放っておけないから。理由はそれで十分でしょ?」


結花は何も言えなかった。ただ、心の中に何か小さなものが芽吹いた気がした。


霞のように淡い感情。けれど確かにそこにあった。





その夜



夜明け前、治療のために本部に戻された結花は、ぼんやりと窓の外を見ていた。


今まで彼のことなど気にも留めなかった。関係のない人だと思っていた。


でも――


「私……あの人のこと、知りたいかもしれない」


そう口にしたとき、胸が少しだけ熱くなった。


霞と白梅 ―時透無一郎と隠・結花の物語―

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

9

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚