テラーノベル
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『――ごめんね。私はもう、駄目らしいや。』
瞬間、頭にそんな声が響いた。ぼんやりとしていたけど、姿も見えた気がした。長い髪で、体の一部ゝが黒くなっていて、その部分が僅かに崩れていた。
私はそんな人は知らない…なのに、どこか懐かしさを感じる。心が温かくなる様な…そんな気がした。本当なら、こうなったら私は焦って慌てる筈なのに。
「…桜閣様?」
そんな桔音の声で、意識がはっと現実に引き戻される。
まだ多少の困惑はありつつも、こうしてては何も始まらない。そうだ、私はこうはしていられなかったんだ。
「…何でもないよ、ちょっと考え事をしてただけ。それよりも、今日は何の仕事なの?」
いきなり話を逸らした私に対して、少し複雑な表情をしつつも、桔音が持っていた鞄から一枚の紙を取り出す。その紙をじーっと見つめながら、 私に向かって話し始めた。
「今日の依頼は一件だけです。どうやら私怨を持つ方に対する報復がしたいそうですが…まぁ、見た感じだと、大体はいつもと同じ様にすれば大丈夫そうですよ。」
心底呆れた顔で「全く…理解が出来ませんね。」と独り言を言いつつ、鞄に再度紙をしまうと、その場でさっと立ち上がった。
「…そんな訳で、桜閣様。残り30分で支度を終わらせて下さいね。」
それだけを言うと、すたこらさっさと部屋から出て行ってしまう桔音。
「えっ…ちょっと!待ってってば~!!」
そう言いつつも、急いで支度を終わらせて、桔音に追いつこうとする私なのでした。
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