テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#恋愛
#長編
いつもは目覚ましの音と、お母さんの「朝よ!」というワンセットで起きていた。それが今は一変して「コケコッコーーーン」と、繰り返す朝鳴き鳥の鳴き声で目が覚める。
鶏そっくりなのに空を優雅に飛び、今日の天気を叫ぶ。たまにラッキーカラーめいた占いを言うらしい。
私の知っている頃は西の森フェアリーロズと呼ばれていたけれど、今は世界樹を中心にそびえ立つ西大陸を覆うほどの森となっていた。エルフの治めている世界樹都市カエルラ、貿易都市アルブム、温泉都市のリディスと大きく三つの都市が別れている。ルティの家があるのは温泉都市リディスだ。
そこでルティは森の声を聞いて、問題の解決と薬師として生計を立てている。都市から少し離れた一軒家で、どの家も木の中に家を建てていて、これがなんともファンタジーっぽくて好きだ。幹には苔が生えていて尚良い。
一日の仕事の始まりは、ルティを起こすことから始まる。実はルティは朝に弱く、いつもは昼前まで眠っていることが多いとか。食事を摂ってからは、森の散策と薬草採取、たまに相談事。夕方には買い物をして、夕食の後に薬の調合。依頼があるとまた変わってくるけれど、この生活を始めて一年で、だいたいのサークルは把握しつつあった。
「くう」
「くうん!」
可愛い四足獣のモフモフたちは早起きらしく、私の傍を歩き回っている。
今日もハーブの香りのする水で顔を洗い、動きやすいドレスに着替える。それから長い髪を一つに結ぶと一つ上の階にあるルティの部屋に向かう。
「ルティ」
ノックをするが、いつも返事はない。基本的に一緒に寝るのは、魔力制御ができない古満月の時期ぐらいで、それ以外は基本的に別々で眠っている。
これはルティが泣きながら言い出したことだ。ブリジットが夜の時間しか一緒に居られなかったことや、夜の営みに抵抗があると話したことで、それなら私が良いと言うまでは別々と言う話になったのだ。
一年間、お互いに話してそろそろ添い寝ぐらいなら大丈夫そうな気がする。
私の幼児姿は『私が怖い』という感情が強まると六歳に戻ってしまう。悪夢を見た後や雷などで、一時的な幼児化する傾向が分かったのは良かったと思う。
「ルティ、朝ですよ」
「……」
「入りますね」
そう言って部屋に入るとルティは、スヤスヤと眠っている。最初は起こさずにいたのだが、「それは困る」と言うことで毎日起こすのが私の日課となった。
天竜狐族は五感が強く、美味しい食事、良い香り、美しい景色、手触りの良い着心地などを重用する傾向にある。だから食事に使う素材は厳選されているし、ルティの部屋は落ち着く匂いで、ベッドのシーツや衣服も特別な布を使っていて、着心地がいい。
ベッドの布団はグリフォンの羽根を使っていて、とてもふわふわで軽い。
「ルティ、起きてください」
「んんー」
もぞもぞとしながらも寝返りを打つ。寝顔はあどけなくて幼く見える。それにしても角は危なくないように、睡眠用の布で巻いていた。不意に片方の折れている角を見てしまう。
ブリジットが死んでその後、なにがあってこうなったのか。時々、ふと思うけれど、思うだけだ。ルティが話すまで待つと決めたのだから。
「……シズク……」
「ルティ、起きまし──」
言い終える前にルティは私の手を引いて、抱きしめる。毎日寝ぼけて抱きつくのが、ルティの癖だ。
(寝起きがとんでもなく悪い。前世ではそんなことなかったはず!?)
尻尾も出ていて、モフモフが私の体に巻き付く。しかも実は九つの尻尾だったらしく、モフモフ感がすごい。控えめに言って最高。モフモフには罪はないわ。
「んー、シズクは温かいね」
「──って、なんで今日は上半身脱いでいるのですか!?」
「着替えようとして……脱いだ?」
「なんで疑問系!?」
目を開けていても頭は回っていないようで、甘えるように抱きしめて密着してくる。モフモフも素晴らしい手触り……ごほん。
「ちょ、ルティ! 私は抱き枕じゃないんですよ」
「シズクはどこも柔らかくて、良い匂いがする」
一年が経ってルティは、私にデレデレと甘えてくる。特に寝る前と食事と寝起きはすごい。それ以外は基本的に紳士で、溺愛もすごいし、何かと私に贈物をしようとする。
私が料理をすると知った途端、調理器具を私用と言って用意するし、エプロンを十着など贈ってきたのだ。
「シズク、愛している」
「人の話を聞いてください!」
「ぐう」
「寝たふりしないで!」
毎朝、寝起きが悪いルティと格闘するのだが、絶対にわざとだと思う。かといって放置しておくと、この世の終わりみたいな顔で「シズクが起こしてくれなかった」と半日ほど凹んで使い物にならないのだ。
ちなみにそうなると一日中、なにをするにしても「シズクが手伝ってくれないと無理」と言い出すので、お客さんも最近は「旦那の気分はシズク殿次第なんだ、頼むよ」と言われてしまう。解せない。
『《片翼》様のお役目ですぞ』
『その通り、《片翼》だからこそ、求愛行動は大事だ』
『《片翼》がすべきことなのです』
前世と同じような言い回しをされてもさほど傷つかないのは、たぶん私個人、雫として見てくれているからだろう。それに亜人族は心の底から《片翼》は良いものだと思っているし、伴侶を大事にという理解があるのが大きい。
彼らの認識では《片翼》とは、神々が選んだ特別な伴侶という。これはルティと一緒に買い物をするようになって、店の人たちに教えてもらった。
私が大人になったことは、『呪いが解けつつあるから』ということで話すを通すことにした。実際は呪いと言うよりも、私の精神状態に合わせているのだと思われる。
元の世界だったらそれだけでは説明ができないのだが、天竜狐族のルティがそう言うと「そう言った呪いがあるんだな」とアッサリと受け入れられた。もっとも実際にそう言った魔導具や呪い関係は実在するので、信じやすいのだと思う。
ルティは顔を洗って一階に降りてくると、真っ先に謝ってきた。
「シズク、いつも起こして貰ってすみません……。どうも朝は頭の働きが遅くて……」
「そう思うのなら、寝ぼけて毎回抱きつくのは止めて欲しいです」
「それを止めたら、毎日のなにを楽しめと?」
「そんなことを楽しみにしないでください!」
心の底から絶望しきった顔をするので、やっぱりわざとだというのが発覚した。もしかしたらルティ的には一緒に眠りたいことへのアピールなのかもしれない。
天竜狐族だけではなく人族以外は、添い寝をすることで安堵感が桁違いなんだとか。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!