テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ラブコメ
こげ丸
梨本和広
ジリリリリリリ! 目覚まし時計の電子音がけたたましく響く。
モゾモゾと、布団に潜ったまま手探りでそれを探す。
しかし、それは見つからない。
というか俺、目覚ましセットしたっけ?
ぼんやりとした意識を窓に向ける。
カーテンの隙間から、差し込める陽はまだ登っていないのか、真っ暗だ。
スマホで時間を確認する。
「うーん……」
午前5時を指していた。
一年中桜が咲き乱れるので、感覚は狂うが今はまだ12月。
この時期の時間帯はまだ太陽は登っていない。
「お姉ちゃん起きて!」
窓を挟んだお隣の家からは、蕾さんの声が聞こえてくる。
どうやら美咲先生を起こしているようだ。
「あと30分!?ご飯冷めちゃうよ!」
こんな時間なのにもう朝ごはんの準備してるのかぁ、偉いなぁ。
姉妹以前に母親みたいだ。
「守くーん!ごめんね!これから起こること覚悟して!」
シャー!向こうのカーテンが開かれる声がした。
次の瞬間に昨日から「明日になればわかる」の意味を理解した。
「死にたいやつは死ねぇ!生きたいやつは生きろぉ!
生と死は当然の権利だぁぁぁぁ!
生きてきた意味は死ぬ間際に考えろ!
うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
大音量でデスメタルのシャウトが轟いた。
「ぎゃあああああああ!」
思わず耳を塞ぐ。
だが手で抑えただけでは、このシャウトは防ぎきれない。
「ウッヒョオオオオオオオ!!!やっぱりアガるぅぅぅぅぅ!」
美咲先生のテンション高い叫びがこだました。
「はいはい!わかったからまずは、洗顔!そしてご飯食べて!」
「はーい!」
もしかして、毎日この調子なのか?
「守くーん」
「はーい……」
蕾さんの呼ぶ声でカーテンを開ける。
空はまだ闇が支配していた。
街灯がかろうじて光を放っていた。
向かいの蕾さんは朝早いだろうに、黒煙色の髪は寝癖ひとつない。
まだまだ眠い……。
目頭を擦る。
「ごめんね、起こしちゃって」
「もしかして、毎日この調子ですか?」
申し訳なさそうに、両手のひらをパンと合わせる。
「ごめんね、あんな姉で」
「いや、苦労してますね……」
「あはは……」
乾いた笑み。
ガチャ。
不意に俺の部屋のドアが開いた。
「蕾さーん、朝ごはん……」
眠そうな桜花姉。
栗色のくせっ毛がいつもより跳ねてるように感じられた。
服装は水色と白のチェック柄のパジャマだ。
それだけ告げて窓へと向かっていく。
「うん、用意出来てるよ。守君の分もあるよ?」
上目遣いで問いかけてくる。
「いや、流石にご馳走になるには……」
「まもりん甘えときな。条件なの、毎朝こんな調子で起こされるから、お詫びとして朝食あたしの分も用意してって」
寝ぼけているのか、ボソボソと呟くように告げる。
「そういう事。今日になったら理解できる。わかったでしょ?」
「そういうことなら、いただきます」
ギシ。
屋根を伝って蕾さんの部屋へと上がる。
昨日は拒否られたのに、今回はすんなり入れて貰えた。
彼女の部屋は、水色、ピンク、オレンジ色と色様々なカラーボックスが所狭しと設置されていて、その中には、熊やうさぎのぬいぐるみ。
さらには「霊力魔法少女ヒナコ」のフィギュア。
「甘い蜜にはご注意を」という実写映画化もされた人気作品の主人公、レイサのフィギュア。
この部屋から蕾さんはアニオタだとわかる。
とぼとぼと歩きながらそれらを見やる。
「失望した?」
「なんでです?」
「アニメのフィギュア飾ってるから」
「いや、むしろ同じ趣味持ってて親近感湧きました」
ぎぃ。
廊下へ出る。
「え!?守君もアニメ好きなの!?」
「アニメ以外にもゲームもラノベも好きですよ」
「ほんと!?どんな作品好きなの!?」
声が弾む蕾さん。
「うーん、主にロボット作品が好きですけど、「甘蜜かんみつ」の原作は全巻揃えてますし、「ヒナコ」はブルーレイ全部もってます」
「そうなの!?」
「はい」
トタトタトタと階段をおりる。
ガラッ。
居間の扉を開く。そこには既にご飯が用意されていた。
「おう、教え子、桜花ちゃん」
美咲先生が朝の挨拶を無視して、手にした箸と一緒に手を挙げて俺たちを迎える。
「まだ何も教わっていません」
紅色の髪にピンクのネグリジェに体を包み、もぐもぐと焼鮭を口へ運ぶ。
「はっはっは!冬休み終わったら覚えとけ!」
そういえば今年もあと数日か。
美咲先生の宣言を聞き流しつつ、そんなことを思う。
本日の朝食は、焼鮭に豆腐とワカメ、そしてネギの味噌汁。
ご飯の横には、パックの納豆の姿があった。
「「いただきまーす」」
俺と桜花姉は、揃って食事前の口上を述べる。
「おう、食え食え」
美咲先生が促す。
「お姉ちゃん、それ私のセリフ」
「はっはっは!細かいことは気にするな!」
「もう……」
大仰な美咲先生の態度に「はぁ」と彼女はため息をついた。
そんなこんなで午前10時前。
あの後、朝飯を頂いてから俺の部屋で蕾さんとオタクトークに花を咲かせていた。
桜花姉はリビングでテレビを見ていたようだ。
そして今、暖かな気候の元俺たち3人は島を歩いて病院へと向かっていた。
昨日、蕾さんが話していた友達のお見舞いだ。
「今日の占い結果どうだった?」
「うーん、かに座は良くも悪くもっていう無難な順位」
「いて座は?」
「うーん……」
蕾さんの問いに、桜花姉はこれを言っていいのかと悩むように唸る。
「教えてよー!」
「…………最下位だった………」
「えー!?不吉なこと起きなければ良いけど…………」
ちょっとショックとしょんぼりする蕾さん。
「しかも内容が、恋のライバル現る!だって」
「恋のライバル……」
後ろを歩いていた俺に蕾さんが視線を向ける。
振り向こときに黒煙色の髪がふわっとなびく。
「そんなわけないよねー」
「ねー!」
蕾さんは強がってるのか、ちょっとうわづいていた。
しかし桜花姉は気にしない。
「おとめ座は?」
「1位だった!」
「えー!?いいなぁ!」
「しかも運命の再会を果たす!だって」
「運命の再会」
再び蕾さんのが振り向く。
ちょっと不安気だ。
「まぁまず、まもりんのはずないよ。紫音しおんちゃんずっと入院してたんだし」
「だ、だよね……!」
桜花姉のフォロー。
「ところでさ」
占いの話に区切りがついたところで、俺は切り出した。
「昨日の喧嘩、2人は気にしてないのか?」
「喧嘩?」
「昨日の?」
2人は首を傾げる。
「ほら、鬼がどうこうっていう」
「あー、あれね」
「別にいつもの事だよ」
「「ねー」」
俺にとっては2人の仲が悪くなるんじゃないかと心配だったが、そうでもないらしい。
トットットと3人で歩く足音が響き、陽の光で作られた影たちは後ろに伸びている。
「けど、お互い謝ってないし、溝は埋まらないんじゃないか?」
「守君」
「はい」
「人間同士っていうのはね、100%歯車はガチっとハマらないの」
「はぁ……?」
歯車?なんの話だ?
「最高でも90%なの。必ずどこか噛み合いが悪い時があるの」
「はぁ……?」
「友達でも喧嘩は誰でもするでしょ?お互い謝っても謝らなくても元通り歯車が回れば、また問題なくその人とは付き合える。そういう人を真の友達だと思うの」
イマイチ理解が追いつかなくて、釈然としない。
「まもりん、つまりはね」
桜花姉が口を挟む。
「あたしは蕾さんのいい所を90%知ってる。逆に悪い所も10%知ってる。その10%を許せるか否かなんだよ」
「逆にいい所40%で悪い所60%だとすると、いい所はあるけど、悪い所が目立ってその人と付き合っているとモヤモヤする。そうすると人間関係上手くいかないの」
「人間関係を円滑に育むコツは、その悪い所を許せるかどうかなの。悪い所を許せない相手は申し訳ないけど、縁を切るのが1番ってこと」
うーむ、難しい話になったな。
「つまり、2人はお互いを許せる。だけど、許さない相手とはそれまでってこと?」
「端的に言えばそうだね。私達も動物で、人間という種なの。同じ種でも、趣味趣向、運動が得意、勉強が得意。個体ごとに様々な違いがあるでしょ?」
「そうだな」
桜花姉の問いに相槌をして蕾さんが続ける。
「つまりは、100%思考が合致する人はいない。その中で上手く付き合える相手を探すのが重要なの」
「ほぉ」
難しくて、理解が追いつかない。
「こんな話する間に着いちゃった」
桜花姉の言葉に俺は目の前の建物を見上げる。
鬼道島病院。灰色の建物で屋根にはソーラーパネルが設置されていた。
そう大きく記されていた。
「さ、入ろ!」
「おう」
桜花姉が入館を促す。
ウィーン。
自動ドアが開く。
「あら、桜花ちゃんと蕾ちゃん。いらっしゃい」
受付の看護師さんが2人を歓迎する。
そして俺の存在に気づくと、バッと身を乗り出した。
「あなたもしかして守君?」
「はい、そうですが、何故俺のことを?」
「なぜって水臭いわねぇ。突き指、捻挫その他もろもろの軽い怪我だけど、何度かお母さんと泣きながら受診しに来たでしょ?」
記憶を巡る。
あー、たしかにこの病院だったな。
思い出した。軽く怪我した時、母親がここに連れてきて先生に診てもらったっけ。
「その顔は思い出したね。紫音しおんちゃんも喜ぶわよ」
紫音ちゃん。その名前に微かだが記憶にある。確か……。
「まもりんと紫音ちゃん友達なの?」
「今記憶辿ってる」
「顔を見れば思い出すわ。きっと。思い出さなかったら、あんたのこと引っぱたくからね」
謎の脅し。
まぁ、その子に合えばわかるだろう。
多分。
「運命の再会を果たす。恋のライバル現る。そんなわけないよね」
蕾さんの不安げな言葉がチクリと疼いた。
ピンポーン。
エレベーターに上り、紫音ちゃんとやらの病棟に着く。
「朝露紫音あさつゆしおんさんと面会お願いいたします」
「はーい」
桜花姉が声をかけて、看護師さんが対応する。
「304号室へどうぞー」
「「「はーい」」」
俺たちの返事がシンクロした。
テクテクテク。
俺たちは桜花姉の隣に蕾さん。その後ろに俺というフォーメーションが完成していた。
薬品の香りが鼻を通る。
車椅子で移動のため看護師さんに押してもらう患者さん。
入院着に身を包み、早足で歩を進める男の子。
「お母さーん」
どうやら親がお見舞いに来ていたようだ。
そんな人たちを尻目に目的地の304号室に到着した。
「紫音ちゃーん、入るよー」
「どっぞー」
軽い返答が返ってきた。
ガチャ。
その病室は個室だった。
部屋の中心にベットが用意されており、背もたれが、70度くらい上がっていた。そこに1人の軽快そうな女性が横たわっていた。
桃色の髪に黄土色のキャスケットを被っている。髪はしばらく切っていないのだろう、長く伸びたそれはベットに木の根のように這っていた。
ぱっちりしたつり目で、髪が短ければ男と間違われそうな、中性的な顔立ち。
「お見舞いに来たよー」
「体調はどう?」
2人が思い思いに声をかける。
「いつもどおr……ゴホゴホッ」
咳き込んだ彼女。
「無茶しちゃダメだよ」
桜花姉は心配して駆け寄り、背中をさする
しかし、とうの本人は彼女ではなく、俺を捉えていた。
「紫色のコスモスが咲き乱れる畑で」
不意にその子が言葉を紡ぐ
「君の横顔に見惚れて」
俺は咄嗟に答えた
「「永遠の愛を誓う」」
思い出した。
俺この子知ってるー!
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!