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彩

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1 - たいがの音〈Blue×Pink〉

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2022年11月17日

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Side.青


「ほら、準備するよ」

ピアノの楽譜を見ている大我に声を掛ける。

自分には理解できないが、楽譜をまるで絵本のように読んでいる。どこが面白いのだろうか、と思うが。

「幼稚園」

イラストと平がなが書かれたカードを見せながら言う。

大我はつぶらな瞳で見返し、「…ようちえん」

そうだよ、と頭をなでる。

だが言葉とは裏腹に、くるりと背を向け大我が向かった先は、リビングの隅に置いてあるアップライトピアノだった。足台に乗り、椅子に座ろうとしている。

「まずはお着替え」

そっと抱き上げると、ソファーに座らせる。

パジャマから着替えさせるのだが、これが毎朝の難関。着替えのカードを見せると、案の定表情が変わった。

「やっ」

服を脱がせるまではいいものの、嫌がって着たがらない。

「これを着ないとダメなんだよ。…大我ぁ」

ソファーから降り、かけっこが始まる。こうなったら最終手段だ。

「大我、お着替えできたら朝ごはんにトマト食べよう」

そう言った途端に目をキラキラさせ、「トマト、トマト!」

このやり方だから、結局ほぼ毎朝トマトになってしまう。

もうちょっと待ってね、と素早く服を着せる。

そしてピアノ椅子に乗せた。待ち時間はこうしておくと自分で弾くからありがたい。

プレートにスティックパンと昨日のポテトサラダ、約束のトマトを載せて食卓に並べる。

ピアノからは、不思議な曲が流れてくる。楽譜を見て弾くときもあるが、即興がほとんど。

今日はスタッカートが多くて跳ねるようなメロディーだから、どこかワクワクしているのだろう。これも彼なりの感情表現の方法だ。

落ち着いたところで名前を呼び、ダイニングに座らせた。

「いただきます」

手を合わせて示すと、オウム返しで大我もまねる。「いただき、ます」

小さな口には少し大きいミニトマトを入れた頬が、もきゅもきゅと動く。リスみたいで愛らしいったらありゃしない、と思ってしまうのはたぶん俺だけだ。

ごちそうさまをして片付けを済ませると、あっという間に登園の時間。

「そろそろ行こうか」

お気に入りのピンク色のリュックを背負わせ、「今から幼稚園に行くよ」

柔らかな手を繋ぎ、家を出た。


続く

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