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それは、ちょっとした事故だった。
舞台リハーサル中、機材トラブルでステージの照明が落ちかけた。

近くにいたのは、ジミンとミンジュ。


「あぶなっ──!」


咄嗟にジミンがミンジュを抱き寄せ、かばった。

その瞬間、ミンジュの首筋──普段は髪で覆われて見えない、うっすらと光る“バースマーク”が露わになる。


…SクラスSubの印。


一瞬、時間が止まった。


ジミンの目が、そこで留まる。


「…ミン、ジュ、?」


その声に、ミンジュは反射的に首元を手で隠し、ジミンを突き飛ばして距離を取った。


「見なかったことにして」


「まって、それって──」


「お願い。言わないで」


ジミンの目に困惑が滲む。すぐ隣では、テヒョンも視線を交わしていた。


「…いつから、隠してたの?」


「最初から。ここに来た日からずっと」


「なんで…?」


「あなたたちみたいな、強いDomたちと一緒に働くには、それしかなかったの。

バースを知られたら、誰かのものになるしかないって思ってた。自分の意思じゃない形で、つがいにされるのが怖かったの」


言葉の奥には、かつての経験が滲んでいた。


──かつて、望まないつがい化を迫られたことがあった。

階級だけを理由に、拒否権のない“関係”を押し付けられそうになった過去。


それ以来、ミンジュはSubである自分を封印した。


「俺たちは、そんなふうにしないよ」


ジミンが絞り出すように言った。


「わかってる。でも、私自身が…もう、誰にも見られたくなかった。Subとしてじゃなく、マネージャーとして見てほしかったから」


そのとき──


「……見たやつ、誰ですか?」


低く、鋭い声がスタジオに響いた。


ジョングクだった。

ドアの前で、そのすべてを聞いていたらしい。


「ジョングガッ──!」


「誰が見たんですか、ヌナの印」


彼の声に、スタジオの空気が変わる。

静かに、けれど抗えない支配力。SSクラスDomとしての“威圧”がじわじわと広がっていく。


「待って、やめて。ジミナは──」


「ヌナを傷つけたわけじゃないのはわかってます。ただ…、それを見たDomがここにいるなら、確認しないと気が済まないんです」


ジョングクが一歩、また一歩近づく。


「この状態…ダメですね。俺、もう我慢できないかもしれない。

ヌナの匂い、さっきからずっと強くて…本能が反応してる」


「ジョングガ…」


「つがいじゃないなら、このままでも大丈夫なはず。

でも俺、今、ヌナのこと、他の誰にも触れさせたくないって思ってる。これって、もう…」


「…つがい化の兆候」


ミンジュの喉から、かすれた声が漏れた。


静かに、しかし確かに──お互いのバースが共鳴を始めていた。


Subとしてのミンジュの中で、ジョングクの気配が“快”として入り込み始めている。

今なら、彼に触れられても体は拒絶しない。むしろ、求めてしまう。


「ヌナ、逃げないで。俺、本気です。

ヌナがつがいじゃなくても、ずっと守る。けど…つがいなら、もう離れられない」


ミンジュの瞳に、迷いと涙が浮かんでいた。


自分を見つけてくれたDom。

命令も、押しつけもない。本能を、理性で抑えながら、必死に言葉を選んでくれる存在。


「…私、怖い。でも…グガのこと、嫌じゃない」


その言葉に、彼の瞳がわずかに揺れた。


「なら…このまま、そばにいていいですか?」


「……うん。いて」


彼女がそう答えた瞬間、バースの波動が小さく震えた。


まだ正式な“つがい化”ではない。

でも、それは確実に──始まっていた。


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