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 これはまだ、響が小学四年生だった頃のお話。




🐥⸒⸒🍄🍼🐥⸒⸒🍄🍼🐥⸒⸒🍄🍼🐥⸒⸒🍄🍼🐥⸒⸒🍄🍼






 小さな寝息を立てながら、気持ち良さそうにスヤスヤと眠っている花音。

 そんな姿を見つめながら、優しく髪を撫でると小さく微笑む。



「あら? 花音寝ちゃったのねぇ」


「うん」



 俺の膝の上でスヤスヤと眠っている花音を見て、クスリと小さな声を漏らした花音のお母さん。



「ごめんねぇ、重たいでしょ? 今退かすわね」


「ううん、平気」



 申し訳なさそうな顔をするおばさんに向けてニッコリと微笑むと、俺はその視線を再び花音へと戻した。

 少しだけ丸くなって眠っている小さな花音は、何だかとっても可愛いくて……。その姿を見ているだけで、自然と顔がニヤケてしまう。



「響……。お前、凄く気持ち悪い」



 少しだけ引きつった顔をしながら、そんな事を言った翔。



(気持ち悪い? ただ膝枕してあげてるだけなのに。……あっ。そっか! 翔も膝枕がしたいんだ! 翔は花音のお兄ちゃんだから、ヤキモチ妬いちゃったのかな?)



 普段から花音の面倒見がいいことを思い出すと、その妹思いな発言にクスリと小さく笑い声を漏らす。



「大丈夫だよ? 順番こね」


「……何の話しだよ」



 ニッコリと笑顔を向ければ、そんな俺を見た翔は更に顔を引きつらせた。



(翔ったらあんなに照れちゃって……)



 何だかそんな翔が面白くて、クスリと小さく笑い声を漏らす。

 一人照れている翔をそのままに、再び膝へと視線を戻すと、未だ膝の上でスヤスヤと眠っている花音を視界に捉えて、俺は満足気にニッコリと微笑んだ。



「なんだかひぃくん、今日は凄くご機嫌ねぇ。何か良い事でもあったの?」



 幸せそうにニコニコと微笑む俺を見たおばさんは、そう言うと小さく首を傾げた。



「うんっ! さっきね、花音が俺の事好きって言ってくれたんだー!」


「まぁ……っ! 良かったわねぇ、ひぃくん」



 満面の笑みでそう答えると、とても優しく微笑んでくれるおばさん。



「じゃあ、将来は結婚かしらねぇ」



 そう言って嬉しそうに微笑むおばさんは、「楽しみだわ〜」と言いながら花音の頭を優しく撫でる。



「嘘つくなよな、響。アイスとお前、どっちが好きか聞いたらどっちもって答えただけだろ、バカ」



 俺達の会話を聞いていた翔が、呆れたような顔をしながらそんな事を言ってくる。



「花音はアイスが好きだから、それと同じって事は好きって事なんだよ? 翔」



 つい先程、嬉しそうにアイスを食べていた花音の姿を思い浮かべてニッコリと微笑む。



「あっそ。お前はアイスと同じなわけね」



 呆れた顔をして俺を見ている翔は、そう言うと小さく溜息を吐いた。



「ねぇねぇ! 花音はどれぐらいアイスが好きかなー? ……いっぱい?」


「そうねぇ。いっぱぁ〜い、好きだと思うわよ?」


「それってどれくらい?」


「んー……。両手で地球を一周するぐらい、かな?」



 そう言ってニッコリと笑ったおばさん。



(地球一周……。花音の好きは地球一周しかしないの? 俺なら何周だってするのに……)



 それこそ、両腕でぐるぐるに包んで地球が見えなくなってしまうぐらいに。

 それぐらい、花音の事が大好きだ。



「俺は地球が見えなくなるぐらい好きなのに……」



 そう小さな声で呟きながら悲しい顔をさせると、それを見ていたおばさんは途端に焦り出し、その横にいる翔は「地球が見えなくなるって何だよ、それ」と呆れたような顔を見せる。



「だ、大丈夫よー? ひぃくん。花音にも同じぐらい好きになってもらえばいいのよ。……ね?」



 俯いてしまった俺の顔を覗き込みながら、困ったような笑みを浮かべるおばさん。



「……同じぐらい?」


「そう。同じぐらい」



 目の前でニッコリと優しく微笑むおばさんを見つめながら、どうすればそんな事ができるのかと思案する。



(花音は王子様が好きだから……)



 きっと、王子様みたいになればいっぱい好きになってくれるはず。頭が良くて運動神経だって良い、強くて優しい男になればいいんだ。

 外人にはなれないから、とりあえずそこは髪を染めて何とかするしかない。



(……うんっ! 王子様みたいになればいいんだ! それで一生、花音を守ってあげればいいんだっ!)



 そこまで考えると、沈んでいた気持ちがパァーッと明るくなる。



「うんっ! 同じぐらい好きになってもらえるように頑張る! いっぱい、い〜っぱい、大好きになってくれたら花音と結婚できるかな!?」


「そうね。いっぱい大好きになったら結婚できるわね」



 興奮気味に話す俺を見てクスッと笑ったおばさんは、そう答えると優しく俺の頭を撫でてくれる。

 そんな光景を冷めた瞳で見ている翔を他所に、すっかりとご機嫌になった俺。未だスヤスヤと眠る可愛い花音を見て、ニッコリと微笑んだ俺は花音の頭を優しく撫でた。



(俺は花音の為なら何にだってなるよ)





 ずっと君の側で君を守ってあげる。

 だから、早く俺と同じぐらい大好きになってね。





 俺の可愛い可愛い、小さなお姫様。









─完─





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