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日本は今日も、誰とも目を合わせないように教室へ入った。
国際学園カンヒュ。そこでは世界の「顔」が並んでいる。アメリカ、中国、フランス、ドイツ、韓国…どの生徒も自己主張が強く、まるで政治の縮図のような教室。
けれど日本は、できるだけ目立たないように、静かに席についた。
「……今日の議題、なんだっけ?」
前の席でアメリカが大きな声で笑う。声が教室に響いても、日本はノートの隅に文字を書き写すフリをするだけ。
周囲の会話は、耳に入っていても、入ってこない。
無視されてるわけじゃない。けれど、話しかけてもらえるわけでもない。
そんな「空気の壁」が、ここにはある。
それでも、家に帰れば――。
玄関の扉を開けると、すぐに香ばしい匂いが鼻をついた。
「帰ったぞ」と小さく呟くと、リビングからすぐに足音が近づいてくる。
「おかえり、日本!」
空だった。フライトジャケット姿の彼が、笑顔で日本に抱きつく。
「今日もがんばったね~えらいえらい」
「……やめてよ」
そう言いながらも、ふっと日本の顔は緩んでいた。
この家には、誰も日本を無視しない人がいる。それだけで、少し救われる。
「晩ごはん、海がつくってるよ。陸はまだ帰ってないけど」
空が日本の上着を脱がせながら、くっついたまま離れようとしない。
少し迷惑そうな顔をしながらも、日本は何も言わない。
むしろ――こうしていてほしいと思ってしまう自分が、こわい。
夕食の時間、海がいつものように丁寧に並べた料理の皿を見て、日本は思う。
(この時間が、ずっと続けばいいのに)
家族としての“温かさ”に守られながら、胸のどこかがじんわりと痛む。
それは依存のはじまり――いや、もう、はじまっているのかもしれなかった。
nextハート…3