第2話:ヤマトコインの噂
配信の幕開け
「こんばんは〜、“はごろもまごころ”だよ!」
まひろは、深緑色のスウェットにベージュのハーフパンツ。髪は少し寝癖が残って跳ねており、足元には色あせたスニーカー。子どもらしい無垢な瞳でカメラを見つめた。
「ねぇミウおねえちゃん……大和国って、すっごいお金持ちなんだって。ぼく、そんなにお金あったら何ができるんだろうって思っちゃった」
隣のミウは、モカのタートルニットに薄紫色のプリーツスカート。髪は耳の後ろでふんわり結ばれ、小さなイヤリングが光っている。
彼女は柔らかく首をかしげ、笑みを浮かべた。
「え〜♡ たしかにねぇ。お金がいっぱいあったら、土地だって、国だって買えちゃうのかも♡」
コメント欄が一気にざわつく。
「国を買えるの?」「そんなの本当にできるの?」「ヤマトコインって何?」
Zの仕掛け
暗い部屋で、**Z(ゼイド)**は緑のフーディにキャップ姿。
彼のモニターには、架空の通貨システム「YamatoCoin」がリアルに動いているかのような映像が表示されていた。
ブロックチェーン風の画面、取引所の数字が上下に点滅。
投資家向けに作られたフェイクの資料には「裏付け資産:大和国領土」と赤字で強調されている。
Zは口元を歪めて笑う。
「はごろも党の広告収入を“初期投資”に見せかければ十分だ。あとは勝手に投資家が群がる」
同時にBotがSNSに投稿を開始する。
「#ヤマトコイン爆上げ」
「#次世代通貨」
「#国を買える時代」
レイNewsの追撃
その夜、レイNewsに記事が並んだ。
「大和国、莫大な資産を持つと報道──通貨“ヤマトコイン”登場」
「経済専門家『領土買収も夢ではない』」
「投資家殺到、問い合わせ急増」
記事には「根拠は確認中」と小さく添えられていたが、読者はそこに目を留めない。
混乱と熱狂
翌日、金融掲示板や投資サロンは「ヤマトコイン」で埋め尽くされた。
「早く買わなきゃ損する」
「新しい国が通貨を出すなんて歴史的だ」
「領土を買えるなら、絶対に価値は上がる」
市民は次々に手持ちの資産を仮想口座に移し、ヤマトコインを買おうと殺到。
だが実際には、Zの作り出した“映像と数値”しか存在していなかった。
無垢とふんわり同意
その夜の配信。
まひろは深緑のスウェットの袖をぎゅっと握り、無垢な瞳で語った。
「ぼく……ただ“お金がいっぱいあったら何できるんだろう”って思っただけなのに、みんな本当にコインを買っちゃった」
ミウはふんわり笑みを浮かべ、イヤリングに触れながら語った。
「え〜♡ でも、それってすごくない?
“考えたこと”が現実になっちゃうなんて……やっぱり世界って面白いよねぇ♡」
コメント欄には「ありがとう」「ヤマトコイン買いました」「未来が動き出した」で埋まった。
結末
Zはモニターの取引画面を見つめ、にやりと笑った。
「通貨は存在しない。だが数字と噂があれば、国だって作れる」
画面の隅には次の計画が映っていた。
――「ヨーロッパ港湾都市、買収完了」
無垢な問いとふんわり同意、その裏で“ヤマトコイン”は世界を揺らし、領土さえ金で買えるという幻想を現実にしていった。