テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
絶対辰哉
300
840
「なぁなぁ、この後皆オフやろ?どっか呑み行かへん?」
動画の撮影が終わって、カメラの回っていないスタジオに俺の声が響く。声をかけたのは、ふっかさんとさっくん、それに舘さん。せっかくタイミングが合ったと思ったのに返ってきたのは申し訳なさそうな声ばかりだった。
「ごめん康二、俺先約があるんだよね。」
「俺は明日の収録が早いから、ごめんっ!」
「じゃあ舘さんは、…あ、そっか明日は…。」
「うん、ごめん。朝から生放送あるんだ。」
眉をハの字に下げて謝る舘さんを見て、胸の奥がキュッとなる。後の予定を考えているからこその断りだと解ってるのに顔に出てしまう。
「おん…そっかぁ…そうやんなぁ…。」
しゅんとした俺を見て、真っ先にフォローしてくれたのは年長者もといドラマ班の2人だった。
「「ごめんって康二ー!」」
ふっかさんが優しく頭をぽんぽんと叩いてくれて、さっくんが後ろからぎゅーっと抱き着いてくる。
その賑やしいスキンシップの中、舘さんが一瞬だけ手を伸ばしかけて、直ぐにそれを握り込んで申し訳なさそうな笑みで誤魔化したのを、俺は見逃さなかった。
そこからの舘さんは、目まぐるしいほどに忙しそうだった。
他のメンバーの代打で急に仕事が入ったり、番宣や告知の番組に引っ張りだこだったり。スケジュール表を見る度に埋まっていく舘さんの名前。
(これ、もう暫く会われへんやつや…。)
そう思うと、どんどん気持ちが沈んでいってしまった。
そんなある日の夜、仕事終わりに一人で部屋にいるとスマホが震えた。画面に表示された【宮舘涼太】の文字に、跳ね起きるようにして通話ボタンを押す。
『もしもし、康二? 今、大丈夫?』
耳に飛び込んできたのは、少し疲れている筈なのに優しくて甘い舘さんの声。
「舘さん!うん、全然大丈夫やで。今仕事終わったん?」
『うん、さっき楽屋出たところ。…康二の元気な声が聞きたくなっちゃって。』
「なっ…急に何言うてんの。なんか恥ずかしいやん…。」
急に放たれた言葉に心臓がバクバク鳴り出す。そんな中で、俺は彼ご所望の明るい声を張り上げた。
「舘さん最近めっちゃ忙しそうやなぁ!俺録画して全部チェックしてんねん。」
『ふふっ、ありがとう。…でも、全然予定合わせられなくてごめんね。康二、もうすぐ誕生日なのに。』
「あ、いやいや!全然気にしてへんよ?仕事は大事やし、いつでも待っとるから。ぼちぼちにな!」
本当は《寂しい》って、《会いたい》って、子供みたいに駄々を捏ねてしまいたかった。でも、寝る間も惜しんで頑張っている舘さんに、これ以上の負担をかけたくない。
『…そっか。康二は強いね。』
スピーカーの向こうで、舘さんが少し寂しそうに息を漏らした気がした。
(強ないよ。強がっとるだけや。)
その声音に、ぶわっと込み上げてきた涙をしっかりと目を閉じて堪える。
『マネージャーさんの車がもうすぐ来るから、切るね。また連絡する。おやすみ、康二。…愛してるよ。』
「うん、おやすみ。俺も愛してんで。無理したらあかんよ!」
『分かった。じゃあね。』
通話が切れた画面からそのままメンバー共有のスケジュールアプリを開くと、さっきまでは空欄だった俺の誕生日当日の欄に、新しく舘さんの仕事の予定が書き込まれていた。
「やっぱり…。」
誰も居ない部屋。気丈に振る舞った反動がドッと押し寄せて、液晶の光を見つめながら静かにポロポロと涙が溢れてしまっていた。
そして迎えた、俺の誕生日当日。
カメラの前では世界で一番幸せな男の顔をして、満面の笑みでライブ配信をした。沢山のファンの皆を始め、さっくんやめめ、時間の合うメンバーが次々とコメントをくれてめっちゃ嬉しかった。けど、心のどこかでずっと待っていた舘さんからのコメントは…最後まで載ることはなかった。
配信が無事に終わって、そのままマネージャーさんとこれからの流れを話していた時、
「向井さんすみません、ちょっとお手洗い行ってきますね。」
と部屋を出て行ってしまった。
パタン、とドアが閉まった瞬間、張っていた糸が切れて、カメラの前では見せられない素の顔がポロリと溢れ出す。
(あーぁ、やっぱ寂しいなぁ…。)
その時、勢いよくドアが開いた。トイレはここから少し距離がある筈なのに。
「?どしたん、忘れもん?…、!」
「康二!」
スマホを片手に、少し息を切らせて入ってきたのは、俺が一番会いたくて、でも一番諦めていた人だった。
「え?…あれ、仕事、」
頭が真っ白になって、上手く言葉が出てこない。混乱する俺を舘さんは何も言わず、力強くぎゅっと抱き締めてくれた。彼の匂いと体温が、一気に俺を包み込む。
「元々入ってたんだけど、やっぱり今日は一緒に居たくて…グループの告知だし、マネージャーさんに無理言ってふっかに代わってもらってたんだよ。」
耳元で聞こえるその声に、更に頭が混乱する。
「何で、なんで…っ?」
まだ収録していない仕事とはいえ、急に出演を辞めるなんてリスクが大き過ぎる。楽しみにしているファンの皆のこともあるし、今後オファーに支障が出てしまう可能性だってあるのに。俺なんかの為に、そこまで、
色んな感情が一気に込み上げてきて、視界が涙でボヤボヤになって…大粒の涙が止まらなくなった。
「寂しくさせて、沢山我慢させてごめんね…大事な人の誕生日なのに、おめでとうって1番に言えなくて…本当にごめん。」
「っ舘ぇ…!!」
優しく切なそうに紡がれる言葉が嬉しくて、愛おしくて、俺は舘さんの背中に必死にしがみついた。彼は俺のこめかみにそっとキスを落として、温かな手で優しく髪を撫でてくれる。
「今日はこのまま、一緒に居よう。…おめでとう、康二。」
張り詰めていた寂しさが、舘さんの体温でじんわりと溶けていく。
「うん…!おおきに、舘…ほんま大好き…!」
そうして俺達はどちらからともなく、互いの存在を確かめ合うように唇を寄せた。
コメント
4件
コメント失礼します。 ❤️を気遣う🧡とそれを包み込む❤️の愛がたまらないです😭 素敵なお話をありがとうございます😊