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「あれ?トワイライトお出かけ?」
「はい。少し、ブライト様の元に」
「ブライトの……珍しいね。もしかして、好きになっちゃったり?」
「いいいい、いいえ!私は、お姉様一筋です!」
「慌てるところが、怪しいなあ~」
「本当です。信じて下さい!なんなら、今この場でキスだってします」
「え、あ、え……それは、大丈夫。分かった。うん、信じるから」
トワイライトの大胆すぎる行動に目を白黒させつつ、本当にキスをされそうになったので、彼女を抱き留めた後、大丈夫と、首を横に振った。まあ、トワイライトはブライトを単純に尊敬しているって感じに見えたし、兄と妹みたいな関係だと思っているので恋愛的な関係でないことは分かっていた。でも、そうだったら面白いか持って言う、私の妄想で、そんなことを言ったが、トワイライトがここまで真剣になるとは思わなかったのだ。
本当に可愛い妹だと、私はこの子を一生守りたいと思った。ふわふわとした蜂蜜色の髪からは、甘い匂いがして、とろけるほど柔らかかった。クリクリとした純白の瞳も美しい。仕草一つ、口調一つとっても誰にも負けない世界一可愛い妹だと思っている。そんな妹だからこそ、いい人を見つけて幸せになって欲し言って言う感情もあるし、でも、何処かに行ってしまうのも悲しいって言う感情もある。複雑だ。
そんなやりとりや、頭の中で妄想を繰り広げながら、トワイライトに視線を戻せば、矢っ張りいきたくないです。見たいな顔で私を見上げていた。
「いかないの?」
「矢っ張り、お姉様と一緒にいたいです」
「え~でも、ブライトと約束しているんじゃないの?」
「それでも!お姉様より優先させるべきものなんてありませんから」
それは、ブライトが可愛そうだと思ったけど、口にはしなかった。ブライトは相変わらず不憫である。弟子にこんなことを思われて、多方面から嫉妬の目を向けられて、父親を失って、弟を失って。どれだけ、不幸になれば良いか分からないぐらい、そんな星の下に生れた男だった。
「多分、私は今日ずっと聖女殿にいるから、用事が終わったら帰っておいで」
「帰ったら、甘えさせて下さい」
「甘えてくるのはいつもじゃん。はいはい、いってらっしゃい」
トワイライトは渋々といった感じで、聖女殿を出て行った。ブライトに魔法を教わりにいったのだ。それと、新たな魔法の研究を。
トワイライトには、一応ラヴァインの記憶が戻ったことを伝えたし、少し厄介なことになったとも伝えた。それを聞いて彼女は、時空を飛び越えることが出来るかも知れないと、興味深いことをいっていたが、それはあとから詳しく聞くとしよう。何でも、トワイライトは私が物心つく前に亡くなってしまって、それから此の世界の女神ではない存在に育てられて、此の世界に送られてきた人間だから、そういう可能性もなくはないといったのだ。彼女の言葉で一気に現実味が増してきて、私は、エトワールが二人いても可笑しくないのかも、と思うようになってきた。でも、同じ世界に二人もいるというのは危険な事らしくて、そのせいで私が体調を崩しているのではないかとも、トワイライトに指摘された。あり得る話である。
「聖女様出て行った?」
「私も聖女なんだけど?」
あー、ごめんごめん。と、頭をかきながら、物陰からラヴァインが現われた。トワイライトが出て行くのを見計らっていたらしい。相変わらず、こそこそやるなあと、呆れつつ、ラヴァインはこういう男だって流して、私は彼と向き合った。
彼は記憶が戻ったからといって、その瞳から光が消えることはなかったし、彼が私を裏切って敵に回ることもなかった。私との約束をしっかり守ってくれているのだ。理由は分からないけど。
「それで、何のよう?」
「用がないと喋りかけちゃダメなわけ?俺だって、他愛もない話をしたいんだけど?」
「アンタとする他愛もない話なんて無いわよ」
「ひっどいなあ~」
全く傷ついていないような顔で言うので、本気で言っていないとは分かったが、構って欲しいというオーラを流しているので、私は少しだけ相手をしようと思った。まだまだ、聞きたいことは一杯あったし、ラヴァインから聞かなければならないことは一杯あった。
「場所を変えよう」
「場所?まあ、玄関じゃあれだしね」
「アンタは、記憶戻っても変わらないのね」
何気ない一言だった、でも、それはラヴァインにとって嬉しい言葉だったようで、満面の笑みで「変わらないよ」と答えて、私の方にやってくる。距離が近いのだけは、嫌だけど、ラヴァインはこういう奴だ、ともう一度自分に言い聞かせて場所を変えて話すことにした。女神の庭園だったら、プライバシーは完全保護されるけど、闇魔法の者を女神の庭園に入れたらどうなるか分からないので、聖女殿の庭で、お茶を淹れて貰いながら彼の話を聞くことになった。
「エトワール様本当に二人で大丈夫?」
「うん。大丈夫。心配してくれてありがとうね、リュシオル」
リュシオルにお茶を淹れて貰い、私はラヴァインと向き合った。リュシオルは、記憶が戻ったラヴァインは危険だと思ったのだろう。確かに、以前の彼が帰ってきたと思うと、危険だって思われても仕方ないかも知れない。でも、彼が危険じゃないって、私は言い切れる……不安がないわけじゃないけれど。
私は、リュシオルに下がって貰って、ラヴァインの方を見る。彼は、フッと余裕の笑みを顔に浮べていた。完全に記憶を取り戻した彼は、私のことも全部思い出しているだろうし、記憶を無くしていた期間も含めると、かなり長い付き合いになってしまうわけで。
(まあ、それは問題じゃないのよ……)
何も問題じゃない。問題はアルベドだ。そう思いながら、私は、お茶を一口啜る。少しの苦みが舌の上に広がった。コーヒーは飲めないけど、紅茶は飲める。貴族のお茶と言えば、紅茶だし、コーヒーはあまり流通していないのだ、此の世界では。
「飲まないの?」
「俺猫舌なの」
と、可愛らしい返答とは裏腹に、彼の顔に貼り付けられているそれは、不気味だった。
通常運転と言えば、通常運転である。
お茶が冷めてから飲んで美味しいのかと思ったが、猫舌なら仕方ないと、私はそのままお茶を啜った。それを、楽しそうに眺めるものだから、穴が空きそうだと、ラヴァインの方を見る。
「あまり見ないで」
「何で?可愛いじゃん」
「可愛くないし。飲みづらいの。アンタだって、見られながら飲むのいやでしょ?」
「俺は別にいいけど。ああ、でもエトワール限定ね」
「何それ」
心の中で言ったつもりだったが、口に出ていて、私は咳払いをして誤魔化した。
さて、こんなどうでもいい話は置いておいて、ラヴァインには聞きたいことがいくつかある。
「何度も確認するけど、記憶が戻ったって言うことで良いのよね」
「うん。戻ったよ。完全にぜーんぶ」
同じ言葉を並べながら、ラヴァインはにこりと笑う。その笑顔は、彼が記憶を失う前のものと酷似していて、本当に思いだしたんだって実感した。彼が記憶を取り戻したといったときは、そのまま気を失ってしまったから。再度確認できてよかったと思う。
「エトワールが何を聞きたいかは分かるよ。そのためにこうやって場所をもうけたんでしょ?」
「……そう。聞きたいこと、山ほどあるの」
「何から聞きたい?」
主導権があっちにあるような気がして、ムッとしたが、ここは耐えなければ、と自分に言い聞かせて口を開く。
「勿論、アンタとアルベドが私と別れた後の事よ。あのあと何があったの?何で、アルベドはああなっているの?」
質問は一つに絞れず、私は自分でも何を言っているのか分からなくなった。元々、記憶が戻ったらアルベドの事について聞こうというのは、最初から変わっていなかったため、記憶を取り戻してくれたことに関しては感謝もしているが、彼とて、記憶を取り戻したばかりで、まだ混乱しているところもあるんじゃないかと。
「ごめん……取り乱したかも」
「いいよ。聞きたいこと一杯あるだろうしね。俺も、話しておかないとって思って。でも、これだけは言える。何で兄さんがああなったかは知らないって。俺も、それだけが分かんないんだよ。何でああなったか。俺は、兄さんに負けて、流れ着いて記憶失ってたけど、兄さんが洗脳されているなんて思わなかった」
と、ラヴァインは少しくらい顔をしていった。彼は、アルベドを尊敬していた堕ちウカ、普通では考えられない感情を兄に向けていたわけで、尊敬する兄がああなってしまって、落ち込むのは分かる。私も、トワイライトが混沌の手に堕ちてしまったとき焦ったから。それと同じなのだろうと。
ラヴァインはゆっくりと呼吸を整えた後、目を開く。
「ヘウンデウン教の幹部だったとき……いたんだ。毒を使う魔道士が」
「毒を……それって、アルベドが使ってた毒のこと?」
コクリと頷くラヴァイン。
ラヴァインの表情を見ていると、その毒使いというのは幹部らしかった。
「幹部……だよね。そいつ」
「うん、そうだね。俺と、ブリリアント卿の父親と、それとそいつと……まあ、あんまり連携が出来ていないからまだいるかもだけど、あの毒から感じられた魔力はそいつのものだって、すぐ分かった。俺が記憶喪失になっているって事、知らなかったかも知れないし。鼻につく奴だったって事だけ、覚えてる」
そう言ったラヴァインの顔はかなり歪んで、その毒使いの男が嫌いだと言うことがひしひしと伝わってきた。