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#幽霊
凛道桜嵐 新
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#日常
がくじゅつてき・あかげ
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わーい
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千歳(朝霧の忌み子のすがた)は遅く起きて作り置きのご飯を爆食し、俺はおばあちゃんとリモート面会していた。現在夏のコロナ流行中とのことで、家族でも直接面会をさせてもらえないのだ。
おばあちゃんは相変わらず血色のいい顔で、にこにこしていた。
「おはようねえ、豊ちゃん元気? 毎日とっても暑いみたいだけど」
「元気元気。だいたいエアコンつけて家にいるし」
俺は大嘘を付いた。暑いとかエアコンとかの騒ぎではないのだ、もう。
「今日は千歳さんいないの?」
「あ、いるんだけど、昨日仕事ですごく疲れて寝ちゃって、夕飯食べはぐれて、今その分取り返すみたいに食べてるから……」
食卓の方を見たが、千歳はご飯を頬張ってもぐもぐしながら、無理! とでも言うように首を横に振った。
「ちょっと今は無理だって。千歳、疲れて寝たあとものすごく食べなくちゃいけないんだ、ごめんね」
「ううん、豊ちゃんと仲良くしてるならいいのよお」
それからなんてことない近況報告をし、面会時間が迫ったあたりで、俺はおばあちゃんに聞いた。
「おばあちゃん、栗田さんとだいたいいつも一緒にいるんだよね? 栗田さんとも話せないかな?」
栗田さん。おばあちゃんの彼氏。おばあちゃんが、生活上の手続きをいろいろ頼ってる人。
「あ、うん、隣にいるわよお。変わるわね」
栗田さんの顔が写り、「おはよう」と言ってくれたので、俺は本当になんでもないように栗田さんに言った。
「おはようございます。あの、いつも祖母のことをありがとうございます。私は祖母の近くにはいられないので、何か会った時、いつも祖母の近くにいる栗田さんを頼らせていただけたら嬉しいです」
「うん、何でもやるつもりだけど、どうしたんだい?」
「いえ、特に何かあったわけではないんですが、一度こういうことをちゃんとお願いしておきたかっただけです」
俺はまた大嘘を付いた。俺が逝ったあと、おばあちゃんの支えになってくれる人は、栗田さんくらいしかいないのだ……。
「祖母のこと、よろしくお願いいたします」
「うん、任されたよ」
栗田さんはドンと胸を叩いた。
そしてリモート面会が終わり、しばらくして千歳はご飯を食べ終わった。
『あー、人心地ついた! ちょっと休んだら昼飯作るか!』
「大丈夫? 疲れてない?」
ぶっ倒れ寝するくらい疲れてたのに、食べたあといきなり働いて平気なの?
そう思ったが、千歳は全然平気そうな顔だった。
『家事くらいならぜんぜん大丈夫だ。お前は仕事してろ』
まあ、おばあちゃんとの面会時間があったので、取り返すために面会時間前後で仕事を頑張らなきゃいけない。俺は今日中に仕上げたい構成案作りに着手し、千歳はお昼ごはんを作ってくれた。
お昼を一緒に食べて、食器を洗ってまた仕事していたら、玄関のチャイムが鳴った。千歳がインターホンに出た。
『あ、水香さんか? うん、念込めた術式今渡す』
ああ、佐和水香さん、もう霊力の回収に来たのか。
千歳は術式入りの封筒を持って、いそいそと玄関に出た。裏の事情を知っている者として、俺が挨拶なしは悪い気がしたので、俺も仕事の手を止めて玄関までついて行った。
佐和さんは相変わらず無表情で、でも俺はそれがありがたかった。
「お早くにありがとうございます。大変助かります」
佐和さんは千歳から封筒を受け取って、千歳に頭を下げた。
『全然!』
俺は、裏の意味を込めて佐和さんに頭を下げた。
「いつも千歳のことありがとうございます、何かあったらまた相談させてください」
「いえ、千歳さんのご協力をいただいてずいぶん助かっておりますので」
佐和さんは帰っていき、俺は仕事、千歳は家事に戻ったが、しばらくしてまたチャイムの音がした。
『誰だろ?』
「いつもそんな来ないよね?」
俺と千歳は顔を見合わせたが、千歳がまたインターホンに出てくれた。
『あ、水香さん!? どうしたんだ? あ、うん、とりあえず開けるな』
また佐和さん?
玄関を開けると、さっきと同じ姿の佐和さんが立っていた。
「いきなりで申し訳ありませんが、あと二回、同じことをお願いできませんか?」
佐和さんの手には、封筒が二枚あった。
『二回!?』
千歳は飛び上がった。
『いや、そんな、今日明日じゃ無理だ! 一週間くらいよく食ってよく寝てさあ、そうしないと同じのは無理だ』
あ、やっぱ一晩で元通りは無理なのか。
佐和さんは無表情に言った。
「では、術式だけ二枚お渡ししますので、二週間後によろしくお願いいたします」
え、もしかして、千歳から連続で霊力搾り取ってやっと1/4なのか?
千歳は『一週間ごとなら』と封筒を受け取ったが、佐和さんが帰って玄関を閉めたあと、しおしおした顔で俺を見た。
『ワシも仕事大変だからなんかかまえよお、ほめろよお』
そりゃそうなるわな。
「すごくえらいよ! たくさん仕事頼まれるくらい信頼されててすごい! 人助けになる仕事たくさんえらい!」
千歳は少し表情を和らげたが、まだ足りないみたいに言った。
『そんなにえらいなら頭なでろ』
「えっ、触っていいの?」
女の子の頭触るのって、髪型崩れるから嫌がられるって聞いた覚えが。
しかし、千歳はその辺は気にしてないみたいだった。
『いっぱいなでてくれなきゃ嫌だ!』
「じゃ、じゃあ」
むくれる千歳の頭を、髪の流れを乱さないようにそっとなでる。千歳の長い髪はなめらかでやわらかで、触れる度にサラサラした感じも伝わってきて。俺は、好きな子の髪の毛に触れるなんて初めてだったので、ドキドキが抑えられなかった。
いや、千歳の髪しっぽには毎晩触ってるんだけど、あれはウレタン感触だし! マジの髪の毛触るのは初めてなんだよ!
千歳は目をつぶって、なでられをしばらく堪能していた。
『うん、まあそんくらいで勘弁してやろう』
「う、うん」
俺は何となく、今千歳の髪に触れた自分の手を見た。……好きな人の髪に触れるって、こんなにいいものなんだな。
『お前も、仕事どうだ?』
「んー、ノルマは果たしてるけど、最後まで気は抜けないな」
『ふーん、まあがんばれ』
千歳に触れられるの、すごく嬉しい。本当は、もっとこういうことがしたい。
でも、こんなことができる時間は、あと、もう少しだけかもしれない……。
コメント
1件
わあ、今回もじんわりしました……! おばあちゃんとのリモート面会の裏で、主人公が“大嘘”を重ねる切なさが胸に刺さりますね。それでも千歳が「ワシも仕事大変だからなんかかまえよお、ほめろよお」って甘えてくるギャップが愛おしすぎました。好きな子の髪に初めて触れるドキドキ感、すごく伝わってきましたよ。 最後の「こんなことができる時間は、あと、もう少しだけ」が、日常の温かさを一層引き立てていて、読後感が優しくて切ないです……。