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月曜日の朝。
瑠璃の心は秋の空のように高く澄んでいた。
バス停に向かう足取りも軽く、黒いパンプスの音がリズミカルにアスファルトを蹴り上げる。
信号のない横断歩道の白線を踏んで渡りながら、視界の端に石川県庁の斜め向かいにあるコンビニエンスストアの裏口が見えた。
今夜、瑠璃はこの駐車場に足を運ぶ。
青いジャストウエストのワンピース、脇紐を臍のあたりで緩く結ぶお気に入りの一着を、自室のハンガーに吊るしてきた。
(やったーーー、係長に会える!)
寿の予言は大当たりだった。
瑠璃は黒木の申し出を承諾することに決めた。
黒木は35歳。もしかしたら結婚を視野に入れているのかもしれない。
そう考えると少しだけ悩んだが、誠実そうな人柄、そして二年間も自分だけを想っていてくれたことが、瑠璃の背中を強く押した。
「良い男で上書きするのよ!」
もう後ろは振り返らない。
お調子者の草食動物と言われようとも、瑠璃の心の中は、フレームレスの眼鏡を外した黒木洋平で満たされていた。
(……あ、こっち見てる)
そして、ここ一週間、素知らぬふりをしていた黒木だったが、今夜ついに瑠璃に申し出た「あの言葉」の返答があると思うと、自然にその背中へと視線が向いてしまう。
もしかしたら返事どころか、瑠璃はあのコンビニエンスストアに現れないかもしれない。
一人で一時間、二時間と待ちぼうけを食らうかもしれないと思うと、気が気ではなかった。
(こっちを見ている……)
ただ、ここしばらくいつも視線を感じていた。
振り向くと、そこには瑠璃の背中があった。
もしかしたら瑠璃が自分のことを気にかけているのかもしれないと思うだけで、年甲斐もなく胸が高鳴った。
(瑠璃さんと付き合いたい。あの駐車場に来て欲しい)
黒木は書類に承認のハンコを捺しながら、何度も腕時計を確認した。
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