「おぉーっ!」
みんなが走り出す。一番後ろは青栁。先頭を俺が行く。スピードを緩め、ちろるが追いつけるくらいに下がる。
「青栁、敵の名前は?」
「ちろるって呼んでくださいっ!」
「ちろるさん、敵の名前はっ?」
「散祓(ばらばら(てきとー))っていうみたい!」
聞いたことあるようなないような?
「散祓なら知ってるよ!」
ルザクが声を上げた。
「ここら辺のヤンキーのリーダー的存在で、一言で言うと凄い奴ららしい!総勢約160人!」
「ほら、着いたから静かに!」
雨栗が仮面をつけながら宥める。雨栗は喧嘩をする時、ピエロの仮面をつける。理由を聞いたら、「なんかシリアルキラー感出るでしょ?」と言われた。要するに怖く見せるためだ。
「俺らの名前どうしようか」
「全員の色とか?ちろるさん数えて」
「赤、緑、水、青、桃?」
「僕、ちぴちゃんく!」
「ざっぴ、それ天才」
無駄話をしていると、後ろに気配。向かってきている。
「おらーっ!」
さっと避ける。空を切ったそいつのバットを雨栗が蹴落とし、ちろるがそいつに腹パンを食らわす。
「ぐっはぁっ」
情けない悲鳴をあげてそいつは倒れた。雑魚。
「雨栗とちろるさん、ナイス」
「仲間は助けねばだからね」
「雨栗さんかっこよぉ」
「ほら、きたよ!頑張って!」
ぴのさんに喝を入れられ、慌てて動き出す。
これから、“女王様”の逆襲が始まる。
米将軍さんによると、そいつらは噂してぴのの悪評を広めたのだから、ボスを脅してそんなこと無かったって噂させるというものだった。
「ダメだったら遠慮なく殴れ」との事なので、今までの鬱憤も込めて思い切り殴ろうと思う。手下共はみんなに任せ、走って奥へ向かう。途中で誰か捕まえて居場所を吐かせればいい。
途中、あの時の幹部がいた。こいつに吐かせる。
「ねえ、あなた幹部よね?」
「は?お前、あっ……」
前のことを唐突に思い出したのか、怯えている。
「幹部さん、あなたのリーダーの場所、教えて?」
「は、はいっ」
「嘘ついたら殺すからね」
「ひっ……」
低めに脅しながら進む。幹部さんははっきり覚えているらしく、ずっと顔面蒼白で冷や汗を流し、震えている。ちょっと可哀想だ。
「こ、こちら、です」
「あ、あと一つ。この中のあなたたちの部下を全員ここに。私の仲間もね。誰かわかる?」
「わ、わからないです」
「特徴だけ伝えておくわ。ーーーーピエロの仮面を着けた赤髪の人、パーカーを着た緑の髪の人、白に少し水色が入った髪の人、あと、私の彼氏。これらをここに集結させなさい」
「わ、わかりましだっ」
余程緊張していたのか声がうわずっている。
「さっさと行けっ」と急かすと、全力疾走で行ってしまった。ヤンキーなだけに速い。
「みんな、生きてるかな……」
「はぁ、はぁ、もう終わり?ってか早」
「統制力ないからすぐ終わったね」
ルザクと雨栗がぼやいている。俺とちろるさんでそこそこの数を片付けた。時間は10分くらいか。
さすがに可哀想だったので、端っこに寄せて寝かせておいてあげる。道の真ん中よりかはいいはずだ。すると、走ってるっぽい足音がした。
「誰?!」
「あっ、いらっしゃいましたか!」
聞き慣れない声。きっと初対面だ。振り返ると見慣れぬ男がいた。
「えっと、女王様から伝言でございます!」
桃栁からの伝言?怪しっ、となっている皆。
「なんか、集まってくれって…仰っていました!」
「ヤンキーって敬語使えるんだ」
そう。こいつ、さっきからずっと敬語。しかもだいぶ丁寧な。ーーーーと、集まってくれ?
「わかった、行く」
ちろるは即答。俺らさんちゃんく組は困惑。
「いや、青栁さん、さすがに怪しくない?」
「そうだよ、もっと警戒心持って?」
雨栗と俺で止めるが、ルザクは行く気でいるらしい。
「なんかあったらこいつ殺そ?」
「「「そうだね」」」
「ひっ」
「さっ、行きましょっか☆」
笑みを向けながらその人の肩に手を置き、進ませた。
「あなた誰ですか?どこで何してる人?」
「こ、ここの幹部をさせて頂いてます!紗内夜礼人(さないや れいと)…と申します!」
「ご丁寧にどうも。で、どこ行くの?」
「ここを曲がった突き当たりです。女王様にお待ち頂いてます」
言われた通りに曲がると、大きな扉の前で体育座りしている桃栁をみつけた。
「お〜い!ぴの〜っ!」
「あ、みんな!ご苦労さま!ありがとね!」
桃栁がみんなを労わってくれる。空気が和んだ。
「この扉の奥からうめき声とか泣き声が聞こえるの!怪しくない!?」
「それはすごく怪しいな」
桃栁の言葉に相槌を打つちろる。
「開けよっか」
雨栗が扉を押す。ぎいっと音を立ててそこがあいた。
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