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次の日、トリックスターを初めて儀式に出した。

が、結果は良好と言うわけではなかった。

生存者を一人も邪神に捧げることが出来なかったらしい。


「ぼ、僕頑張ったんだよ…!?」


息切れをしながら俺にそう言う。

なんだか、この霧の森に来たばかりのレイスと似ているなと少し思ってしまった俺であった。


「心配するな。誰だって最初はこうなる。次はちゃんと生存者を捧げろよ?」

「分かってるよ…シャワー浴びてくる」

「嗚呼」


さて…ここからは先輩の役目だな。

ビシバシ鍛えてやらねば。

俺の父親のように…。


「トラッパー!!」


ハッとして俯いていた身体を起こして声のする方まで歩いて行く。

トリックスターはまだシャワーを浴びているのか?

もう15分は経つぞ?

俺なんか5分で終わるのに…アイドルは色々と大変なんだな。


「なんだ?」

「シャンプー使いきっちゃったから、替えのボトル頂戴?」


少し開けられた扉から、湯気と共に空になったシャンプーのボトルが渡された。


「わ、分かった…」


何故俺はドキドキしているんだ?

男がシャワーを浴びているだけではないか。

目を合わせないように替えのボトルを持った手だけを扉の隙間に入れて、彼に渡す。


「ほ、ほら…」

「ふふっ、ありがとう。」


彼はそう言ってまた鼻歌交じりに長いシャワータイムが始まった。

さっさと部屋に戻ろうと思い、この場から離れようとした瞬間…


「ねぇ」


トリックスターに呼び止められた。


「な、なんだ?」


どうして俺の声はこんなに籠ってるんだ?

彼に話しかけられる度身体が硬直してしまう…。

なんなんだ?この感覚は…。


「そんなに緊張しなくてもいいじゃんwただ話しかけただけなのに」

「そ、そうか…で、なんだ話って?」

「ん~?君は紳士的だなぁと思ってね」


紳士的?

俺はそんなことをした覚えがないな…。

だって俺は、この手で何度も何度も生存者を邪神に捧げた殺人鬼なんだぞ?


「俺が紳士だなんてお前頭狂ってるのか?」

「狂ってなんか無いよ。て言うか気づいてない感じ?」

「そう…なるのか?」


自分ではよく分からないな…。


「あー、怖い怖い!そう言うタイプは一番モテるんだよね~!」

「なんなんだ?さっきから…やたらと煽ってくるが…」


結局は何が言いたい?と思うが、こういうコミュニケーションをとるのは久々だった俺は、

彼と話すのが少し楽しくなりそのまま彼の話を聞くことにした。


「普通はさ、僕みたいなアイドルがシャワーを浴びてるってだけで計画性も無しに襲いかかってくる奴らが大半なんだ。」

「お前身体を売ってたのか…?」

「そんな言い方しないで欲しいな。僕だってアイドルなんだよ?出演する映画やドラマの一つや二つで身体を合わせることなんて何度もあった。」


結局は身体を売ってるじゃないかと思ったが、彼にとってはこの行為はただの仕事だと思っているのをつくづく感じた。


「そうなんだな。」


「でも君は違う。僕に目を合わさずただお願いを聞いてくれた。なんだか新鮮だな、こういう気持ちは。」


彼にとっては襲われるのは当たり前だったんだな…。


「ただでさえ大柄で変なマスクも着けてる君にこんな一面があるなんて。」

「誉め言葉として捉えておこう」


少しでも同情した俺がバカだった。


「生意気なアイドルだな…」

「聞こえてるよ!!」

「ちっ…明日はみっちり鍛えてやるから覚悟しとけよ!」


そう言いながら自室に戻った俺だった。

ただの後輩のはずだった。【リクエスト】

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