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愛の充電器がほしい

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愛の充電器がほしい

18 - 第18話 レストランにて

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2025年01月22日

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デスクの上にハンドクリームをバックから出して、カサカサの手に塗りつけた。

アロマの香りがするハンドクリームは心がほんわかした。


マグカップに入れたブラックコーヒーを飲んでは、パソコンに向き合った。

マウスを動かしては仕事に集中した。


デスクがならぶフロアでは、あちこちで電話が鳴っていた。

美羽は、作業に取り掛かろうとしたら、部長に声をかけられた。


「朝井、ちょっと来てくれる?」


美羽は部長のデスクの前に立った。


「はい。何ですか?」


「作業取り掛かろうとしてたのに、悪いね……」


「いえ、大丈夫ですよ」


「社員の中で噂になってると思うけど、ウチの会社、そろそろ業績が危なくて……。急で悪いんだけど、今月末まででって話だ。まぁ、朝井のスキルなら独立してもやっていけそうだけどな」


「ちょ、ちょっと待ってください。どういうことですか?」


「だから、倒産するの。出版業界も厳しいんだよ。書店は次々閉店するし、AI機能も発達してきてるから、お金払ってわざわざ頼むことも少なくなってるのよ。こればかりはどんなに営業かけても儲からない訳よね。不景気だから、いくらでもコスト削減。広告の仕事も減るわけよ……。個人で仕事した方が儲かると思うよ。今、あるでしょう。アプリ……【ココダケ】だかなんだか」


「え……そんな。お給料いただいてるのに来月から無しですか?」


「いつまでもこの会社にいてもお金は貰えないよ? 辞めた方が健全だ。大丈夫、雇用保険あるから幾分持つだろう。朝井が望むなら、会社を紹介してもいいぞ? 俺は、個人の方をおすすめするけどな。もう会社は綱渡りだぞ」


「はぁ……。そうですか。わかりました。あとで、やり方教えてもらってもいいですか?」


「おう。ほとんどの社員は、個人でやるって人が多いみたいだからな。マニュアルは作っておいた。朝井のパソコンに送信するわ。合間に見ておいてくれ。んじゃ、仕事に戻っていいぞ」


「失礼します」


美羽はため息をついてはパソコン画面を見つめた。会社が潰れることにショックだった。しかも頼れる会社が無くなって、

個人でやらないといけなくなる。

部長から送られてきた資料をざっくり見ると給料計算のほかに税金の手続きもすべて自分ですると書いてあった。

インボイス制度が始まってさらに複雑になってる中で、個人でするにはかなり学ばないといけないなと感じた。

税理士にお願いすることもできると書いてあったが、知り合いに誰もいない

ため、探さないといけない。

この会社を辞めることでミッションはかなり増えると予測する。

縛られて億劫だと感じていた会社も個人に任せられるとこんなにも苦労することがあるんだと改めて、感謝しかない。


1日の仕事を終えて、会社を出ようとすると向かい側のカフェで待っていた拓海が出てきた。

こちらに向かって手を振ってくる。


「よっ! 久しぶり」


知らない人だと装って通り過ぎる美羽。


「ちょ、ちょ、ちょっと待てよ。連絡しなかったのは悪かったよ。仕事が立て込んでて、やっと終わったんだよ」


いつもの言い訳だ。別れる宣言をしたはずなのに懲りずに関わってくる。連絡もろくにしない。気まぐれの猫のように思い出した頃に現れる。


「ふーん」


「信じてない? ったく……。薄情な美羽だな。今日は、美羽と一緒にご飯行こうと思ってたのにさ」


「そうなの?」


そこまで嬉しくないが、珍しい態度にびっくりした。


「ほら、行こうぜ。予約してたから」


腕をつかまれては、商店街通りの方へと連れて行かれた。

帰ってもどうせ1人だし、まぁいいかと軽い気持ちで足が自然と動いていく。

半地下にある洋食レストランだった。


「ここ。きっと美味しいから。ネットで見たら、星が4つ付いてた」


拓海がレストラン予約して、連れてくるなんて付き合って初めてのことだった。どういう風の吹き回しなんだろう。

奥の柔らかいソファが置いてある席に案内された。テーブルの真ん中にはアロマキャンドルが灯されていた。

ジャケットを脱いでは、メニュー表を開いた。


「好きなの食べなよ。今日、奢るから」


「珍しい……。いつも会計それぞれなのに。何かあったの?」


「いいからいいから。ほら」


メニューを見ると、パスタの種類が豊富なこととピザの生地が厚めで窯焼きで出来立てが食べられると書いてある。

ペラペラめくるとお酒の種類も多いようだ。


「ねぇ、お酒も飲んでいいの?」


「ああ、いいさ。俺は……ハイボールにするから」


「カシスオレンジに、パスタはナスとトマトソースパスタでピザはマルゲリータでいいかな。拓海はどうするの?」


「食欲あるね。ちょっとメニュー見して」


拓海は、手を伸ばしてはメニューを見る。ふわっと嗅いだことのない香水が香った。こんなに香りとか気にする人だったかと颯太と錯覚する。よく見ると、拓海の髪の色がほんのり茶色になっていた。いつも床屋に行く人で、髪色なんて気にする人じゃなかった。何だろう、この違和感。


「決まった。俺ね、照り焼きチキンピザとボンゴレにするわ。他はいいの?」


「う、うん」


「なに、どうかした?」


「べ、別に。なんでもない」


「あ、そう。んじゃ、頼むよ?」


「うん」


お店の呼び出しボタンを押す。店員が近くに来ては、拓海はささっと注文を終える。最後に耳打ちで店員に話していた。

知り合いなのか。黒いエプロンをつけた男性店員は、ニコッと爽やかに厨房に行った。


「何、今の人、知り合い?」


「ううん。全然、今日が初対面だけど?」


拓海は水を飲んで、店の中を見渡した。ぼんやりと間接照明が光っている。

ステンドグラスの絵が壁に飾られている。

しばらく沈黙が続く。なんで一緒にいるんだろうとどこか落ち着かなかった。


「お待たせしました」


レストランの店員が大きな白い皿に生クリームのホールケーキと花火をつけて持ってきた。happy birthdayと書かれた文字があった。


「誕生日おめでとう」


美羽は、驚きを隠せずにいた。自分でさえ、自分の誕生日を忘れていたくらいだ。拓海は、バックの中からラッピングされた細長い箱を出しては、美羽に渡した。


「はい、これ。ネックレス欲しいかなと思って用意していた。そんなに高くないけど」


箱を開けると、蝶々のシルバーネックレスだった。

何だか簡単にお祝いしてもらうことにむずかゆくなった。


「つけるよ」


美羽の後ろに回っては、ネックスレスをつけてくれた。


「どうかな」


「うん、似合ってる」


「え、えー。何か怖い」


「なんで?」


「だってしばらく会ってないのに急に誕生日祝いとか頼んでないし。何か返さなきゃいけないかと……」


「何もいらないよ。別に」


「えー……」


「祝いたかっただけ。美羽の誕生日」


「嬉しいけど……」


「まあ、いいから。ご飯食べよう。お酒も飲むんでしょ」


そうこうしてるうちにパスタやピザ、お酒が運ばれてきた。


「ちょっと待って。ケーキも食べないと」


「食べていいよ。ゆっくり食べればいいさ」


他愛もない話で盛り上がりながら、舌鼓を打った。

レストランの外に出て、横に2人が並ぶと


「そういや、美羽、この間あった男の人いるだろ?」


「え、だれ?」


「夜中に警察来て止められたやつ」


「ああ、颯太さんのこと?」


「そう、その人と付き合うとか言っただろ。その人、辞めた方いいじゃないと思って。冗談で美羽が言ったんだと

思ってたからあまり気にしてはなかったけど……」


「ちょっと、待ってよ。私、冗談じゃないから。むしろ、私、拓海に別れるって何回も言ってたじゃない。なのに、今日だって……って結局ご飯もごちそうなってプレゼントもらってるけど……」


「は? 今更だよ。むしろ、今日会った時から言うべきだろ。なんで、のこのこ付いてくんだよ。え、まさか本気でその人と付き合ってんの?」


「……本気だよ。拓海とは、もう終わってるっておかしいなぁ、言ったはずなんだけど。でも、いいや、

彼氏じゃなくて友達ってことにするから」


拓海は、美羽の腕をつかんで同意を得ずに無理やりに口づけた。美羽は、どんとお腹を押す。


「やめてよ!!」


「俺、別れないから。別れた覚えないし。むしろ、一方的だろ。俺は認めない。そんな、子どもいるかもしれないやつと付き合うなよ。俺がいるだろ」


「え……」


「この間、その颯太ってやつとファミレスに小さなこどもと一緒に仲良さそうに食べてるの見たんだよ。

子どもがいるって美羽、不倫だぞ? 訴えられるぞ」


「颯太さんが? ……まあ子どもいても、私関係ないし。直接本人に聞いてるわけでもないから。拓海のことは信じない。むしろ、無理やりにしてくる拓海よりマシよ!」


美羽は首につけていたネックレスをブチっと外して投げつけた。


「こんなのいらない。物なんていらないわ。全然連絡もなしに他の女の人と会うやつなんて信用もならないわ!!」


「な、なんで、それを」


「図星なの?! 尚更、もう、関わらないで!! 放っておいてよ」


美羽は、落ちたバックを拾っては、走って去っていった。

少しでも揺らいだ自分の気持ちに腹が立った。

拓海は、落ちたネックレスを拾っては道端にあったゴミ箱に捨てた。

ついでにゴミ箱を思いっきり蹴った。揺れたが、倒れはしなかった。


「ちくしょー」


想いを込めて用意した食事やプレゼントもあの男の話をしただけで台無しになった。

拓海は、言わなきゃよかったと後悔した。繋ぎ止めようと思った発言がさらに離れていく要因を作ってしまった。

紙タバコに火をつけては、天を仰いだ。路地のゴミ箱付近にふらりと歩いてきた白と黒の模様の猫が足にくっついてきた。寂しいそうな鳴き声を発する。


「お前も1人か? 俺もだよ」


猫を高く抱っこしては温かさを感じた。

遠くで救急車のサイレンが鳴っていた。

夜空には満月が煌々と光っている。

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