テラーノベル
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今日のおやつは、ヨーグルトにドライフルーツのダイスカットを漬けたの。
『カルシウムも果物もとれて、あすけんにほめられるやつだ! うまいぞ!』
そう言って和泉に出してやって、二人で食べ始めたんだけど、和泉はひとくち食べて「おいしい」と言ってから、ふと遠い目をして呟いた。
「なんか、こんなにヨーグルトおいしく食べられる日が来ると思わなかったな……」
『ん? なんで?』
ワシはバクバクヨーグルトを食べながら聞いた。そんなに好みのヨーグルトだったのか? それとも、昔はヨーグルト嫌いだったとか?
「ああ、いや、楽しい話じゃないから……」
和泉は首を横に振ったけど、もうひとくち食べて、思い直したように言った。
「……ごめん、やっぱり聞いてもらってもいいかな。楽しい話じゃなくて悪いんだけど」
……これ、前に和泉が言ってた、嫌な話でも聞いてもらえると楽になるってやつかな?
『うん、いいぞ、何でも聞いてやる』
ワシが頷くと、和泉は話しだした。
「社会人になるまで、ヨーグルト苦手だっんだよね」
『そうなのか?』
「幼稚園の頃、5歳くらいかな。母親の手作りヨーグルトで盛大にお腹壊したことがあって、それ以来ずっとなんとなく苦手だったんだ」
え、こいつの母親、わりとアレな人っていうのはなんとなく聞いてたけど。
和泉はまたひとくちヨーグルトを食べて、話を続けた。
「まあ、母親はさ、アロマにハマる前から怪しい健康法に次々にハマる人でさ。生まれたての赤ちゃんの手を浸して作ったヨーグルトの種、なんてのを仕入れてきたことがあったわけ」
『赤ん坊の手? そんなんでヨーグルトできるのか?』
ワシは首を傾げた。和泉は微妙な笑いを浮かべた。
「乳酸菌がないとまでは言わないけどね、雑菌のほうがずっと多いと思うよ。実際、その種で作ったヨーグルト、ものすごい腐敗臭でさ。におい嗅いだだけで、これは食べ物じゃないと思った」
『え、でも、お前、それ食べたのか?』
話の流れからして、こいつそのヨーグルトで腹壊したんだよな?
「食べた。食べないと、母親がキレて泣いて暴れるから。豊ちゃんのためにやったのに! ってなるから」
そう言う和泉の顔は、とても硬かった。
「なんていうか、母親は、一事が万事そんな感じでね。おじいちゃんは、母親がやらかすたびにものすごく怒るんだけど、母親は人のためにやったのにって泣いて怒るし、父親は母親を「悪気はなかったんだ」っていつもかばうし。おばあちゃんはただひたすら怒鳴り合いを怖がって、俺の看病はしてくれたけど、母親を諌めるには迫力不足だったし」
ワシは、言葉が出なかった。こいつの母親、わざわざ傷んだもの作って、それを子供の為って言って実の子に食わせて、それでその子が体壊しても、何も反省しないのか?
『……お前、苦労したんだな……』
ようやく絞り出せたのは、なんのひねりもない言葉だった。和泉は苦笑した。
「苦労、そうだな、多分苦労なんだよな。俺、母親にキレ泣きされるのも嫌だったし、おじいちゃんを怒鳴らせるのも嫌だったから、頑張って腐った手作りヨーグルト食べるようなこと、ずっと繰り返してた。母親のほうが明らかにおかしいって思ってたけど、母親にそれを言うともっと激高するから、言えなかった。母親の機嫌を取る方ばっかり気を使ってた」
『…………』
「父親が母親の味方してたのも、味方しなかったら母親がもっとぐちゃぐちゃになるってわかって、やってたんだと思うよ」
『……それで……お母さんの、エセ医学アロマの手伝いしてたのか、お前?』
確かこいつ、それで幼馴染の母親勧誘して、幼馴染に絶交されてた。
「一言で言えば、そう」
和泉は頷いた。またヨーグルトを口に運ぶ。
「おっくんの件で、俺はこりてさ。中学に上がってから、勉強が忙しいって言って、母親から逃げるようになった。勉強口実にしたら、母親はうるさく言わなかったから」
『そうか……』
「まあ、嘘にならないように、いい成績取らなきゃいけないのは大変だったけどさ。おかげでそこそこの学校入れたし、怪我の功名だね」
和泉はまたヨーグルトを食べた。
「で、手作りヨーグルトで盛大にお腹壊してから、俺できるだけヨーグルト食べてなかったんだけど。会社入りたての研修の時、何かの試供品でヨーグルトもらってね」
『まともなヨーグルトか?』
「まともなの。普通の食品メーカーの。食べてみたら普通においしかった」
『そっか、よかった』
ワシは、少しホッとした。和泉は、遠い目をした。
「でさ、そのヨーグルトがおいしいなと思った時……俺は、どんな事があっても、実家には戻りたくないなと思ったんだよね」
『……。そうか』
そんなに、こいつの実家辛かったのか。だからこいつ、体壊しても貧乏でも、実家に近寄らなかったのか。
「まあ、ヨーグルトにはそんな思い出がありまして。今まともでおいしいヨーグルトが食べられるのは、幸せだなって思う。いつもありがとう」
和泉は、ワシに笑いかけた。
こいつが、今は幸せだってことはわかった。わかったけど、ワシは、和泉がつらい思いをしてきたのを知って、胸が苦しくてつらかった。
どうすればいいんだろう、こういうの。話を聞いてやったら、和泉は楽になるのかな? なんとかして、和泉を楽にしてやれないかな?
……ああ、そうか、こいつがつらいと、ワシもつらいんだ。ワシ、こいつに、だいぶ入れ込んでるんだ。
『……まあ、お前が楽になるなら、いつでも話聞いてやるからさ。いくらでも話せ』
そんなつまんないことしか言えなかった。本当はなんでもしてやりたいのに。こいつが楽になるなら、本当になんだってしてやりたいのに。
和泉は柔らかく笑って、「本当にありがとう」と言った。
「おかげさまで、今はだいぶ楽にやれてるよ。まあ、たまにこんな話するかもしれないけど」
『そうか』
「まあ、なんというか、自分の中ではっきりするタイミングと言うか、そういうのがあるんだよね。自分でもタイミングよくわからなくて」
和泉は頭をかいた。
『だから、たまになのか?』
「そうだね。今、けっこう楽で、目の前のことにそんなに必死にならなくていいから、無意識でそういう事考える余裕があるんだろうな」
そっか……こいつは今、幸せで楽なのか……。
ワシは、ヨーグルトを頬張った。
『今、楽なら、楽しいこともたくさんしよう。明日の夏祭りとか』
本白神社の近くの公園の夏祭り、明日なんだ。
「あ、浴衣着るの?」
『うん、もう星野さんから借りてきてる。明日着ていく』
「そっか、絶対似合うよ」
和泉は楽しそうに笑った。
こいつがつらいとワシもつらいなら、こいつが楽しいとワシも楽しいと思う。だから、こいつが楽しく過ごせるようにがんばるのは……ワシが楽しく過ごせることにもなる、のかな?
コメント
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このエピソード、和泉の過去が重くて胸が締め付けられたよ…。母親の手作りヨーグルトで腹壊した話、あれ腐敗臭って時点でヤバいのに「食べないとキレて暴れる」って地獄すぎる。でも「今まともなヨーグルトが食べられるのが幸せ」って言える和泉の強さと、それで「こいつがつらいとワシもつらい」って気づくワシの関係性が、じんわり沁みた。夏祭り楽しんでほしい🔥
#幽霊
凛道桜嵐 新
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#日常
がくじゅつてき・あかげ
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わーい
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