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「有夏……」
幾ヶ瀬の囁きに、有夏が唇を動かした。
微かに漏れる声は吐息と喘ぎのみ。
真っ赤に染まった耳朶に、幾ヶ瀬は顔を寄せる。
舌先で耳裏をなぞると、白い背中がピクリと硬直した。
「有夏、そんなに締めたら俺……動かせないよ?」
「うぅ……ん、ヤだっ。ちゃんと……しろ」
「うん? ちゃんとしろって何? どうして欲しいの? 言って」
「くっ、分かってんだろ……うあっ」
「分かんないなぁ。こんなとこに指挿れられて、他にどうしてほしいの?」
「あぁ……んっ! もっと……して」
意地悪な口調にものの見事に感じさせられてしまったか、有夏の眼に涙が溢れる。
幾ヶ瀬の部屋の狭いベッド。
下着を膝までずらされて尻を突き出すような格好で、有夏はうつぶせに倒れている。
Tシャツは着ているが、胸のあたりまで捲れ上がっていた。
紅潮した頬を見られまいと顔をシーツに埋めている様を、ベッドの端に腰かけた幾ヶ瀬が見下ろす。
眼鏡の奥の目がいやらしく笑っているのは、昨日、一昨日と焦らしたかいがあったものだと満足しているのかもしれない。
GM屋敷とまで評される自室が久しぶりに片付いたというのに、有夏が当然のようにこちらに居るのも、奥の疼きを幾ヶ瀬に鎮めてほしいからに違いない。
2人揃っての夕食後。
案の定、有夏は甘えて身体をすり寄せてきた。
「有夏、かわいい……」
中指を咥え込んでは「もっと」とよがる恋人に、幾ヶ瀬は愛し気に目を細めた。
「ああ、そうだ。ちゃんとアレ、隣りのクソビッチに渡しといたよ。掃除の手伝いした報酬だって言って。あんな雌豚に、有夏がわざわざ施しをくれてやることないのに」
「ふぁ……?」
今する話かよ──有夏の不満気な呻きがそう語っている。
だがベッドでは素直な彼のこと。
小さく息をつくと、おしりをもぞもぞ動かした。
「手伝ってくれたから、一応。クソビッチにも、たまには甘いものでも食わせてやろうかと思って。姉ちゃんのお土産でアレいっぱいあるし」
「ああ……貧しいからね、クソビッチ。久しぶりにモヤシと段ボール以外のものを口にできて、有夏を神のように崇めているだろうね」
「神か……」
有夏、満更でもないという表情である。
「うーん、それにしてもアレ、全部お姉さんのお土産なの? 冷蔵保存の物をあんなに……。冷蔵庫を占領されちゃったから、夕食の残り物の鍋が入んなくなっちゃったよ」
何なの、アレ。シュークリーム?
言葉とともに、奥まで入っていた指がゆっくりと引き抜かれる。
「んっ……」
第一関節のあたりで動きを止めると、有夏も身体の力を抜いた。
「知らねぇの? ペコちゃんのほっぺ。百華姉が不二家でバイトしてて、期限切れたやつ時々もらってくんだよ。隣りのクソビッチにあげる分は、潰れたやつばっか選んで……」
「有夏の食すもの、期限切ればかりなんじゃ……」
「だいじょぶだって。幾ヶ瀬も食べ」
「そりゃ食べるけど。シュークリームみたいなもんでしょ?」
「だからぁ、シューじゃなくてペコちゃんのほっぺだって! 有夏、アレ好き。生地がぶ厚くてふわふわで……」
「ペコと俺、どっちが……」
「お前は……」
有夏は完全に脱力したようだ。
「ペコちゃんに妬くんじゃねぇよ。気持ち悪ぃな」
幾ヶ瀬の左手に僅かに力が込められる。
「そりゃ妬くよ!」
「んあっ!」
中指と人差し指が一気に第二関節まで挿し込まれた。
内部で指が動く気配。