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──その日の夕食後。
リビングのソファで寛いでいた私は、すぐ隣に座っているお兄ちゃんにチラリと視線を移した。
「ねぇ、お兄ちゃん。お兄ちゃんて……どんな女の子が好きなの?」
「……は?」
その唐突な質問に、怪訝そうな顔を見せるお兄ちゃん。
「なんで?」
「えっ? べ、別に!? 何となく……、気になっただけ」
「へー」
慌てた私を怪しく思ったのか、瞳を細めたお兄ちゃんがチラリと私を流し見る。
(うっ……。明らかに怪しまれてる。ど、どうしよう……)
いきなり窮地に追い込まれてしまった私。
(……あっ!)
「そっ、そういえば! イヴの日、お兄ちゃん何処に行ってたの!?」
前から気になっていた事を質問してみると、なんとかその場を誤魔化そうとしてみる。
「……何処だっていいだろ」
「良くないよっ! 私にはデート禁止したくせに!」
「結局俺に黙ってデートしてただろ」
ギロリと睨まれ、何も反論できない。
(はい、仰る通りです……。あの時のお兄ちゃんは猛烈に恐ろしかったのを……今でもハッキリと覚えています)
それを思い出した私は、口元をピクリと引きつらせると、お兄ちゃんの視線に耐えかねて顔を背けた。
(私はただ……っ、彩奈の為にお兄ちゃんの好みを聞き出そうとしただけなのに……)
気付けば、お兄ちゃんにお説教されているみたいな状況に陥ってしまった。
(一体、何故……?)
これでは、とても彩奈に協力なんてできそうにもない。自分の不甲斐なさにキュッと唇を噛んで俯く。
すると、そんな私を見たお兄ちゃんが小さく溜息を吐いた。
「……別に、誰かとデートしてたとかじゃないから」
「……えっ?」
その言葉に勢いよく顔を上げると、隣にいるお兄ちゃんに視線を向けてみる。テレビ画面を見つめたまま、それでも私に向けて語り続けるお兄ちゃん。
「クラスの奴らに呼び出されただけ。でも、思い出したくないから話したくなかったんだよ」
「そう、なんだ……」
あの日を思い出しているのか、ウンザリとしたように大きく溜息を吐いたお兄ちゃん。
(一体、何があったんだろう……)
気にはなるものの、隣で疲れきった顔を見せているお兄ちゃんを見て、何だか気の毒になってくる。
当初の目的であった、好みのタイプは聞き出せてはいないものの、イヴに誰かとデートしていた訳ではないと知ってホッとする。
「お兄ちゃんて……今、彼女いないの?」
これだけは、念の為に確認しておかなければならない。彩奈がお兄ちゃんからフリーだと聞いたのは、どうやら秋頃の話らしい。
(もしかしたら……今は彼女がいるかもしれないし)
そんな不安があった私は、コクリと小さく唾を飲み込むとお兄ちゃんの返事を待った。
「夏頃からずっといないよ」
「……! そうなんだっ! 良かったね!」
お兄ちゃんの言葉を聞いて、私は思わずパッと笑顔を咲かせた。
(良かったね、彩奈っ! お兄ちゃん彼女いないってよ!)
嬉しそうにニコニコと微笑む私を見て、不審そうに瞳を細めたお兄ちゃん。
「何が良かったんだよ?」
「……ぅえっ!? あっ、いやー……だって、大変でしょ? 彼女がいると色々と!」
思わずお兄ちゃんの前で『良かった』なんて本音を零してしまった私は、アハハと笑ってなんとかその場を誤魔化してみる。
「彼女がいなくたって毎日大変だよ」
そう言って、小さく溜息を吐いたお兄ちゃん。
(……?)
「花音の面倒を見るので手一杯なんだよ、俺は。彼女なんて作ってる暇ないだろ」
「……えっ?」
(わっ……、私? 私のせいでお兄ちゃんは彼女を作らないの? それじゃあ、彩奈は……? 彩奈の気持ちはどうなるの!?)
お兄ちゃんの言葉に、ショックで固まってしまった私。
(まさか、協力するどころか私が彩奈の邪魔になっちゃうなんて……っ)
応援するなんて言っておきながら、まさか自分が足を引っ張る事になるとは思ってもいなかった。
お兄ちゃんに告白すると言っていた時の、照れながらも幸せそうに微笑んでいた彩奈。そんな姿が脳裏に思い浮かぶ。
(私は……、そんな彩奈の足を引っ張ってしまうの? そんなの絶対に嫌……っ!)
そう思った私は、もの凄い勢いでお兄ちゃんの腕にしがみ付くと、お兄ちゃんの服をギュッと掴んだ。
「そんなの嫌っ!! 絶対にダメッッ!!」
突然の大声に、驚きを隠せないお兄ちゃん。
「ヤダッ!! ……お兄ちゃんっ! 彼女作ってよぉーっ!!」
ユサユサと身体を揺すりながら必死に懇願すると、そんな私の姿にギョッとした顔を見せるお兄ちゃん。
「……突然なんなんだよ」
「やだやだやだーっ!!」
(彩奈は私の親友なんだから……っ! 絶対に足なんて引っ張りたくないよ! ……絶対に嫌っ!!)
「なんで泣くんだよ……」
ついに泣き出してしまった私を見て、お兄ちゃんは困惑しながらも優しく私の頭をポンポンと撫でてくれる。
(お願いだから……っ、彩奈を傷付けないで。私の大切な友達なの。お願い……、お兄ちゃんっ)
結局、無力な私は心の中でただそう祈る事しかできないのだ。
「一体どうしたんだよ、花音」
お兄ちゃんの腕の中で、ギュッと服を掴んだままグズグズと泣き続ける私。
そんな私に困惑し続けるお兄ちゃんは、一度小さく溜息を吐くと、私が泣き止むまでずっと優しく頭を撫でてくれた。