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夜のピザ屋。
焼きたてのチーズの匂いと、オーブンの熱。
カウンター席には、黒いスーツの男――チャンスが座っていた。
銀髪。
帽子。
サングラス。
いかにも怪しいのに、本人はいつも通り軽い顔だ。
エリオットはピザを皿に乗せながら笑った。
「はい、“逃亡者スペシャル”」
「ネーミングセンスどうにかならない?」
「逃げてる人用だから」
「俺限定メニューかよ」
チャンスが一口食べる。
「……うまいな」
「でしょ」
エリオットはカウンターに肘をつき、にこにこしながら見ている。
そして――
また手が伸びた。
ぐい。
「またか」
チャンスのネクタイが引かれる。
「つい」
「癖やめろ」
「無理」
顔が近い。
エリオットは楽しそうに笑う。
その時だった。
カラン――
店のベルが鳴る。
二人とも同時に視線を向けた。
入ってきたのは――
黒いコートの男が三人。
店の空気が変わる。
チャンスの指が、ほんの少しだけ止まった。
男の一人が言う。
「……見つけたぞ」
低い声。
チャンスはため息をついた。
「早かったな」
エリオットは首をかしげる。
「知り合い?」
「悪い方の」
男たちはゆっくり店内に入ってくる。
マフィアだった。
リーダー格の男がカウンターを見て、にやっと笑う。
「やっと捕まえたぞ、ギャンブラー」
チャンスは椅子の背にもたれたまま。
「客なんだけど」
「関係ない」
拳銃がちらりと見える。
ピザ屋の静かな空気が、完全に壊れた。
エリオットはそれでも、普通の顔で言った。
「注文は?」
マフィアが一瞬固まる。
「……は?」
「ピザ」
にこにこ。
「食べてく?」
チャンスが小さく吹き出した。
「お前…今それ言う?」
ゆゆゆゆ
#doublefedora
3,275
#Paycheck
だが次の瞬間――
マフィアの一人がエリオットの腕を掴んだ。
ぐい。
「邪魔だ、店員」
「うわ」
そのまま腕を後ろにひねられる。
チャンスの表情が変わった。
「……おい」
エリオットは笑ったままだ。
「痛い痛い」
「黙れ」
男がエリオットの首元を掴む。
「この店員、いい人質になるな」
チャンスの目が細くなる。
「離せ」
「嫌だね」
男がナイフをちらつかせる。
「大人しく来い、チャンス。
じゃないとこいつ――」
その瞬間。
エリオットが言った。
「チャンス」
「……?」
エリオットは拘束されながら、いつもの顔で笑った。
そして――
ひょいっと顔を近づける。
チャンスのネクタイを。
ぐい。
「……は?」
マフィアが固まる。
チャンスも一瞬固まった。
エリオットはニコニコしている。
「ごめん」
「何が」
「癖」
チャンスは数秒黙って――
そして。
ゆっくり立ち上がった。
サングラスの奥の目が、完全に冷えていた。
「……人質取る相手」
低い声。
「間違えたな」
次の瞬間。
椅子が倒れた。
拳。
悲鳴。
ガラスの音。
10秒もかからなかった。
マフィアの男たちは床に転がっている。
静まり返った店。
チャンスはネクタイを直しながら言った。
「……だから言ったろ」
エリオットは腕をさすりながら笑う。
「何?」
「巻き込まれるって」
エリオットはまた手を伸ばした。
チャンスのネクタイ。
ぐい。
「おい」
「だって」
ニコニコ。
「助けてくれると思った」
チャンスはため息をついた。
「……お前」
そして小さく笑う。
「ほんと図太いな」
エリオットは嬉しそうに言った。
「でしょ」
外では、遠くでサイレンが鳴り始めていた。
でもエリオットは気にしない。
ただ、またネクタイを引っ張る。
チャンスは呆れながら言った。
「次やったら」
「?」
「仕返しする」
エリオットは笑った。
「楽しみ」