テラーノベル
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【キャラクター詳細】
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【第1話】
────また別れたらしい
そんな代り映えのしない噂が、気怠い熱気のはらむ昼休みの教室を回っていた。
「一ノ瀬、今度は何日もった?」
「三週間くらいじゃね?」
「え、マジで?意外と続いたなー」
机に突っ伏したまま、耳障りな声をやり過ごす。
まぶたの裏に焼き付くような昼下がりの陽射しが鬱陶しい。
別に、俺から振ったわけじゃない。
ただ、向こうが勝手に“重くなった”だけだ。
画面を埋め尽くす通知の山。
『今日どこいるの?』
『誰といるの?』
『なんで返信くれないの?』
『毎晩寝落ちするルールじゃん』
『途中で切るとか有り得ない』
『ねえ』
『今何してるのわかんなくて不安だよ』
最初は物珍しさもあって可愛いと思えても、三日も経てばただの足枷に変わる。
付き合う前はみんな、判で押したように
「好きです」「ずっと憧れてました」なんて目をキラキラさせて寄ってくるくせに
いざ関係が始まった途端に勝手に理想を押し付け、勝手に依存して、勝手に傷ついて勝手に泣く。
くだらない。
だから最近は、最初から誰とも深く関わらないようにしていた。
俺の名前は一ノ瀬拓海。
自分で言うのもなんだが、鏡を見るたびに
この顔やルックスに自信を持たない方が無理があると自覚している。
だから、求められれば拒まない。
頼まれたらヤる。
でも、絶対に付き合わない。
その距離感が、一番互いにとってラクなはずだった。
「拓海、次どの女いくの?争奪戦始まってんぞ」
「知らね。興味ない」
「えー、勿体な。お前まじで選び放題なのに」
友人たちのどこか羨むような、けれどどこか他人事の冷やかしに
「だる」とだけ返して頬杖をつく。
視線を向けた窓の外では
近隣の女子校との合同文化祭を知らせる色鮮やかなポスターが、初夏の風にパタパタと激しく揺れていた。
その時だった。
「……ん?」
遮音性の低い古い校舎の廊下の向こうが、急に騒がしくなった。
下品な笑い声と、数人の男子生徒が群がって何かを執拗に囲んでいる気配が伝わってくる。
「ほらほら、“エロ男”逃げんなって! 似合ってんじゃん!」
「やば、宇佐美、顔真っ赤ww 写真撮ろーぜ、これ拡散確定な」
……宇佐美?
どこかで聞いたことのある響きに、思考がわずかに引っかかった。
確か、今年入ってきた一年生の中に、やたらと顔の可愛い奴がいると噂になっていた。
男のくせに、女子よりよっぽどお姫様みたいだ、と。
ほんの少しの興味本位。
ただの退屈しのぎのつもりで、俺は席を立ち、騒ぎの張本人たちが集まる廊下へと足を向けた。
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