テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
襲撃
・・・・・・・・・・・
無一郎と茉鈴が鬼殺隊に入ってからおよそ3年の月日が経った。
無一郎は14歳に、茉鈴は16歳になった。
相変わらず、無一郎の記憶は失われたままだが、彼を助けた産屋敷夫婦、鎹鴉と霞柱専属の隠の名前は覚えていられるようになった。
この日、無一郎は新しい刀を打ってもらう為、刀鍛冶の里へ行っていた。2泊3日の里への滞在で戻ってくる予定だ。里へは場所が特定されないよう目隠しをして何人もの隠に背負われて行くので、案内役の隠が茉鈴の分も人数が増えないよう、彼女は霞柱邸に残って家事をしたり、蝶屋敷で療養中の隊士たちを相手に機能回復訓練に付き合ってやっていた。
事件は、無一郎が刀鍛冶の里に行って2日目の夜に起きた。
茉鈴はこの日、他の隠と5人体勢での勤務で、交代で霞柱邸の警護を行っていた。4人が屋敷を東西南北に分かれて見張り、1人が仮眠を取る仕組みだった。
草木も眠る丑三つ時。
仮眠中、ふっと目が覚めた茉鈴。時計を見るとまだ交代まで時間があったが、なぜか心臓が早鐘を打ち始めた。
何だろう……。“何か”来る…?
隠になる前に鬼と戦っていた頃のそれに近い感覚が蘇る。
そんなことを考えていると………。
「うわあああああ!!」
「何だお前は!!」
隠の仲間の声が響き、茉鈴は布団から飛び起きた。
そこに他の2人の声が加わる。
「どうしたんだ!?」
「うわあっ!鬼だ!!」
鬼!?
上着を脱いで仮眠を取っていた茉鈴は、シャツの上から上着を羽織ることも覆面をすることも忘れ、薙刀仕様の日輪刀を握り、表に飛び出した。
『皆さんどこですか!?』
「…ぐっ…!」
呻き声が聞こえてそちらを見ると、巨大な蛸の足のようなものに絞め上げられる仲間たち。
“霞の呼吸・弐ノ型 八重霞”
茉鈴の放った斬撃で蛸の足はバラバラに切り刻まれ、捕らえられていた仲間たちが開放された。
「うっ…げほげほっ」
「はあっ…はあっ…」
『皆さん怪我は!?』
「宝生さん…!助かりました…」
「なんとか大丈夫です…」
幸い4人とも軽症で済んだようだ。しかしほっとしたのも束の間。茉鈴は日輪刀を握り直して構える。
「ヒョッ」
裏返ったような高い声が聞こえた。
何こいつ…!
複数の人体を切り分け各部位を接いだような姿の鬼。傍らには壺。顔の、本来目がある筈の場所には2つの口。額と、口がある筈の場所には目玉。そして、その眼球には“上弦”、“伍”という字が刻まれていた。
「何だ何だ。柱の屋敷を見つけたから潰してやろうと思ったのに肝心の柱は不在だし。“カクシ”の連中は戦えないのではなかったのか?」
気味の悪い姿の鬼が声を発する。
初めて見る上弦の鬼。今まで対峙してきた鬼とは全く違う風格だ。そして鼻がもげそうな程の強い、魚の生臭い匂い。
『…私も隠だけど、元は鬼殺隊の剣士だ。お前の相手は私がする!』
「ヒョヒョッ♪威勢のいい小娘だ。いいだろう、遊んでやる」
うねうねと身体をくねらせながら挑発するように動く上弦の鬼。
「宝生さん!」
「1人でなんて無茶だ!」
「相手は上弦の鬼だぞ!」
「応援を呼んでくるから!どうか耐えてくれ!」
覆面をしていても青ざめているのが分かる仲間たち。
『お願いします!誰かが来てくれるまで頑張りますから!皆さんは安全なところにいてください!!』
仲間のほうを振り向きもせずに声を掛ける茉鈴。
「ご立派なことだな。小娘、今日がお前の命日だ!」
雲が流れ、闇に隠れていた茉鈴の姿が月明かりに照らされる。
「…ん?小娘、お前なかなかの器量よしじゃないか。気に入った。わたくしの作品にしてやろう!」
壺の鬼が血鬼術を放つ。
“血鬼術 千本針魚殺”
壺から出てきた金魚が無数の針を飛ばす。
“霞の呼吸・参ノ型 霞散の飛沫”
茉鈴も負けじと技を放ち、素速い回転で攻撃を弾く。
“霞の呼吸・肆の型 移流斬り”
「ヒョッ!危ない危ない」
茉鈴の攻撃をギリギリで躱した鬼が壺から別の壺へと移動する。
その後も茉鈴と壺の鬼とは技を出し、戦いが続く。
応援を呼びに行った隠はまだ戻らない。他の隠たちはその場に残り、固唾を飲んで2人の戦いを見守っている。
ああ…宝生さん…!
強い…。上弦の鬼を相手に戦えているなんて……。時透様と同じ時期に柱就任の声が掛かっただけあるな。しかも使っているのは霞の呼吸だ……。
早く応援の隊士が来てくれれば! ただ隠れて見ているだけしかできないなんて情けない……!
何時間経っただろうか。戦闘はまだ続いている。
まずいな。この玉壺様が1人の小娘相手にここまで手を煩わされているとは……。もうすぐ朝日が登る。さっさと仕留めて帰らねば。どうしてもこの器量のいい小娘を作品にしたい。この美しい顔が恐怖と苦しみに歪む顔を想像するだけで胸が踊るぞ……!
『はぁっ、はぁっ…げほっ……』
元剣士と言えども、前線から退いて何年も経つ。呼吸を使っていても、この強さの鬼相手には体力がどんどん削られていく。時折、玉壺が気まぐれに身を潜めている隠のほうにも血鬼術を放つので、それを庇いながら戦う為、身体のあちこちにも大小様々な傷が。
「小娘。ひとつ提案がある」
『…提案ですって?』
「ヒョヒョッ。お前も鬼になるのだ。気付いたが、お前、稀血だな?この玉壺様には分かるぞ。濃くはないが、稀血特有の香りがする」
『自分が稀血かどうかなんて知らないわよ』
生理的に受け付けない気持ちの悪さに、茉鈴は嫌悪感を隠そうともせず玉壺を睨みつける。
「まずはこのわたくしがお前の四肢をもぎ、その血を啜り尽くす。死なない程度に味わったらお前を鬼にしてやる。そしてこの玉壺様と共に、永久に美しい作品を作るのだ」
玉壺が無数に生やした手に持つ壺に頬ずりしながら言う。
『ちょっとよく分からない。誰がそんな歪みまくった悪趣味な壺を作るもんか。下手くそ』
“下手くそ”
その言葉に、玉壺が突然青筋立てて怒鳴り散らした。
「下手くそだと!!わたくしの壺の!!どこが歪んでいると言うのだ!!! 」
『自分で分からないならどうしようもないわね。…もううるさい。さっさと頸を斬らせてよ』
「この愚かな小娘があああ!!この玉壺様を怒らせたな!?」
『ああうるさい……。ねえ知ってる?自分でも分かってることを指摘されると腹が立つんですって。下手くそなのも歪んでるのも自覚してたんじゃないの?』
玉壺が話し掛けたおかげで呼吸を整える時間ができた茉鈴。少しだけ余裕が生まれた。
「小娘……。お前には特別にこのわたくしの真の姿を見せてやる。お前で2人目だ。そして考え直せ。わたくしはお前の稀血を飲んで更なる強さを手に入れる。お前は鬼となり、永遠の時を生きることができる。わたくしの提案を飲めば、お互いに“うぃんうぃん”というわけなのだ」
喋っている途中で茉鈴が刃を振るう。
ベロン
玉壺が脱皮した。
『私には何のいいこともない。何がWin-Winだ。そんな提案に乗るわけないでしょうが』
「黙れ。この姿を見てもそう言えるか?わたくしが本気を出した時、生きていられた者はいない。この透き通るような鱗は金剛石よりも尚硬く強い。わたくしが壺の中で練り上げたこの完全なる美しき姿に平伏すがいい!」
“真の姿”を現した玉壺。魚の生臭い匂いが一層強く立ちこめた。
『うげ…気持ち悪……』
シャツの袖で鼻と口を覆う。
「貴様!気持ち悪いと言ったか!!この宝石よりも美しい姿をォ!!」
『だってほんとのことだし…』
“血鬼術 一万滑空粘魚”
大量の魚が茉鈴に襲いかかる。
“霞の呼吸・陸ノ型 月の霞消”
広範囲にわたる技で血鬼術の魚のたちを切り刻む。しかし、その体液は毒だったようで、身体のあちこちに浴びた上に、吸い込んでしまった。
『ゔっ…げほげほっ…』
吐血し、口の中に鉄の味が拡がる。毒があっという間に全身に回っていくのが分かる。
身体が痺れて動けない。手足に力が入らない。
まずい…!ほんとに死ぬかもしれない……。
「やっと大人しくなったな。小娘、覚悟!」
玉壺が“神の手”で茉鈴に殴りかかる。それをすんでのところで躱す茉鈴。
無一郎くん…………。
そうだ、まだ死ぬわけにはいかない。無一郎の屋敷と、一緒に働く仲間を守らなければ。無一郎が帰ってきたら、彼の大好きなふろふき大根を食べさせてやるのだ。嬉しそうにふろふき大根を頬張る幼馴染みの顔を見るのが自分の楽しみなのだから。
この小娘、まだ動けるか。まずいぞ。もうすぐ夜が明ける。
あと少しで夜明けだ……。身体の感覚がもう殆どないけど、今は私しか戦えない。早くやっつけなきゃ、この気色の悪い鬼を。
「小娘!これで終わりだ!お前を鬼にするのはやめにして、わたくしの作品にしてやる!!」
最後の力を振り絞り、玉壺の攻撃を躱す茉鈴。
玉壺の身体を足場にして、高く跳び上がる。
この一撃で決める!!
“霞の呼吸・壱ノ型 垂天遠霞”
ドッッ!!
「ぎゃあっ!?」
素速い突き技で、茉鈴の薙刀の刃が玉壺の頸から少し下を地面に串刺しにした。
そこへ、朝日が顔を出し、辺りを照らしていく。
まずいまずいまずいぞ!!運良く急所は免れたがこのまま地面に縫い留められては朝日に灼かれて死ぬ!!
玉壺は必死で身を捩り、肝心の頸が落ちない程度に身体を千切って逃げ出した。
「小娘!!この玉壺様をここまで手こずらせた貴様の顔、しかと覚えたぞ!!そのうち貴様も霞柱も屋敷の連中も皆殺しにしてくれるからな!!!」
捨て台詞を残して、玉壺はまだ陽光の届いていない暗闇へと消えていった。
『ゔっ………』
ドサッ
「ああっ、宝生さん!」
「しっかり!!」
身を潜めていた2人の隠が駆け寄り、茉鈴を抱き起こす。
ヒュッ……ヒュッ…
「呼吸音がおかしい!毒でやられたんだ!」
「ど…どうすれば…!!」
真っ青な顔をした茉鈴が、うっすらと目を開けて震える手でシャツの胸元辺りを指差す。
「え、何!?ポケット?」
「見てみよう!ちょっと触るよ!」
ポケットから出てきたのは、注射器のような道具。見覚えのある蝶のマークは、蟲柱が使っているものだ。
「!これはもしかして血清か!?」
「早く使わないと!」
血鬼術でボロボロになったシャツを捲ると、顔に似合わず6つに割れた腹筋が露わになった。そこに注射針を刺し、血清を押し込む。
ヒュッ…、ふ……はっ…はぁっ……
「呼吸が戻った!」
そこへ。
「茉鈴ちゃーーーん!!みんな!無事!?」
「遅くなってすまないな!…うお!?何だこれは!ボロボロじゃねえか!」
応援を呼びに行った隠2人に連れられて駆けつけたのは、恋柱の甘露寺蜜璃と音柱の宇髄天元だった。
近くに誰もおらず、かなり離れた地区を警備していた2人の柱 をやっとの思いで見つけ出し、戻って来たのだった。
鬼によって生み出された壺や魚は陽の光で消え去り、ズタズタのボロボロになった茉鈴と、それを泣きながら介抱している隠がその場に残されていた。
「きゃーーっ!茉鈴ちゃん!しっかり!!」
「本人が持っていた蟲柱様の血清を打って、ひとまず呼吸は元に戻ったのですが…!」
「他に怪我人は?」
「宝生さんが庇ってくれたので…私たちはほんの掠り傷程度で済みました……」
「そうか。なら早くこいつを胡蝶のとこに運ぶぞ。甘露寺、俺はこいつらから詳細を聞いて上に報告に行くから、お前は宝生を連れて蝶屋敷へ行ってくれ」
「分かりました!茉鈴ちゃん、ちょっと揺れるけど我慢してね!」
蜜璃が茉鈴を抱きかかえて立ち上がったその時、 茉鈴の髪から簪が抜け、カランと乾いた音を立てて地面に落ちた。
「あっ、いけない!」
天元がそれに気付き、拾った蜻蛉玉の簪を茉鈴のシャツのポケットに入れ込む。
そして、今度こそ蜜璃は蝶屋敷へと走った。
天元は残った隠2人から戦いの詳細を聞き、報告書にまとめていった。
続く
コメント
2件

続き待ってました!すごく面白かったです!次も待ってます!