響のトレーナーは普通にデカすぎた。
これ1枚でもミニワンピとして着れるほど丈が長い。
袖に至っては、3回くらい折り返さないと手が出ない。
ハーフパンツも、すこぶるデカいけど、この際なんでもいいやとウエストの紐をギュウギュウに締めた。
髪を乾かしてリビングに戻ると…響がキッチンでコーヒーを飲みながら携帯をいじっていた。
「もう起きたの?お風呂、入らせてもらった。ありがとね」
ゆっくり顔を向けてきた響。
なんだか…難しい顔をしてる。
「…どうか…したの?」
聞いてみると、まさかの事実を告げられる。
「いま、連絡をもらった。…おじさんの会社、不渡りを出したそうだ」
「…ふ、不渡り?」
「あぁ…。経営にはずいぶん苦戦しているみたいだったけど、まさかこんなに早く…」
「…あのさぁ…響」
迷いつつ名前を呼んでみると「…あ?」と眉間にシワを寄せた怖い顔を向けてきた。
この顔に言うのは勇気いる…
「ふ、不渡りってなに?」
「は?お前本当に大学行ってるのか?」
呆れ返った顔でそういうわれるとホント…お恥ずかしい…。
「まぁ要するに…信用がなくなって、倒産の危機に陥いる可能性が出てきた、ということだ」
「え…?!…お父さん、仕事が無くなるってこと?そんな…弟の大学はどうなるの?この夏休み、どこにも遊びに行かないで予備校に通ってたのに…」
自分が働いて収入を得るまで、まだ半年もある。
その間、必死にバイトしても…生活の足しにはなるとしても…とても弟の受験費用まで賄えない。
「お母さんだって、これ以上無理ってほど働いてるんだよ?まずいよ。うち…どうなっちゃうの…」
不安が押し寄せて、冷静でいられない私に、響がとても冷静に言った。
「1つだけ、おじさんの会社を潰さない方法がある。琴音の家族が助かる方法が」
思わず響の切れ長二重をじっと覗き込んでしまう。
「…俺と、結婚前提に同居すること」
そうか…ここで、響の希望を聞けば…
「わかるだろ?俺は武者小路グループの跡取りだ。系列会社の取締役には必ず就任する。そして…グループの会長に一番近いのも…俺だ」
とんでもない大物が、幼なじみだったってことだ…。
そして何故か、私はその超大物に求められてる。
だったら…私の選択肢って…1つしかない。
でも…いいのかな。
「響、優菜ちゃん…覚えてる?」
「なんだよいきなり…」
私との同居をさっさとまとめたいらしい響。
話を変えられて、ちょっとイラついた様子。
「…よく川に遊びに行って、響の後をついてきた優菜ちゃん。確か同じ学校だったよね?」
「…あぁ。覚えてるも何も…今でも連絡来るから」
あぁ…やっぱり、そうなのか。
「…私、優菜ちゃんに、響と遊んじゃだめって言われてたんだよね」
「…はぁ?子供の頃の話だろ」
「ううん。うちが引っ越す直前にも…響と会わないで…って言われた」
響は、少し驚いたみたい。
「でも響には可愛がってもらったし、引っ越すこと伝えたかったから行ったんだけど…」
話を続けようとして…ちょっと、顔が赤くなる。
「あ、あの時、抱きしめられて…それを優菜ちゃん、見てたみたい。それで、引っ越した後にも連絡が来て…」
「…ちょっと待て。優菜は、お前の引越し先を知ってたのか?」
「うん、そう…だけど?」
ため息をついて…響はソファの背もたれに深く寄りかかった。
「…俺がどれだけ琴音を探したか…。優菜にも聞いた。その後も、お前の行方については事あるごとに聞いてたのに…あいつ隠してやがったのか…!」
空間を睨むような目つきの響…めっちゃ怖い…。
怖いけど…すごい事実も聞いた気がする。
「…響、そんなに探してたの?私のこと」
「当たり前だ。俺はお前のことがずっと好きだったんだよ。暇さえあれば探してた」
赤くなる必要もないほどきっぱり言うね…
「だからお前を帰さないんだよ。10年だぞ?やっと会えたお前を…逃がしてたまるかって話だ」
突然捕獲され…要塞に閉じ込められた意味が…わかりました…。
「それより、優菜に言われたことを気にして、俺と同居に踏み切れないって言ってるわけ?」
「…そ、それもあるけど、再会したばかりでいきなり同居とか結婚とか…おかしいよ」
しかもこんなイケメンに成長した響と、同居って。いろいろ心臓がもたない…。
響、うつむく私の顎をいきなり掬って自分に向かせた。
美しい顔が間近に迫る…
イケメン…って…思った以上に破壊力ヤバい…
「お前を探していたのは10年だけど、好きになったのは初めて会った時だ。ちびっこいお前が可愛くて心配で…気づくといつもお前を見てた。会えない時はお前のことを思ってた。そんな一途な俺だぞ?何を迷うことがある?」
そんなに前から思われていたことを知って、あまりにもストレートな告白に…さすがに赤くなる。
「カフェで見つけた時は心臓が止まるかと思った。1週間張り込んで、笑顔で働いてる姿を見て、間違いなく琴音だって確信してんのに…お前はまったく気付かないってどういうことだ?…あぁ?!」
…あれ、いつの間にか告白が説教に変わってる…。
「…優菜に言われたことはすぐに忘れろ。家のことも、俺がなんとかしてやるから、琴音は黙って俺に従え」
…出た!俺さま響の決まり文句…!
「…なんだよ?今すぐ『ハイ』って言わないと、シメ殺すぞ?こら…!」
笑いながら首を絞めてくるけど…人前でやったら確実に通報案件…!
コチョコチョくすぐられて…もうギブアップ…!
「…わかった!…わかったってば…!」
やっとやめてくれたけど…『でも…』と続ける私にまた怒りの視線…
「同居とか結婚とか…お母さんに聞いてみないとわかんない…」
…思いっきりコケられてしまった。
コメント
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俺様なのに一途な響....💖 もぅ~たまらーーん😍💕💕
俺さま響の決まり文句✨ 好きー*.(๓´͈꒳`͈๓).*ⳣ₹ⳣ₹♡