テラーノベル
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前回長く書きすぎたことを後悔したので、ちょっと短めにします‼︎
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静かな室内に、紅茶の香りが満ちていた。
イワンが淹れたレディ・グレイ。 そこへ落とされたベリージャムが、ほんのり甘い香りを添えている。
カップを傾けた、その時だった。
「はぁ〜い!めちゃくちゃご機嫌よう!いやぁ、実に良い天気だねぇ今日は‼︎」
――ドンッ‼︎
扉が勢いよく開かれる。
いや、もはや“開けた”というより“破った”に近い。
「……ご機嫌よう、ゴーゴリさん。」
耳鳴りがする。
フェーニャは僅かに眉を寄せながらも、平然と挨拶を返した。
対する侵入者はというと、いつも通り無駄に元気だった。
「なんのご用件ですか?」
再び紅茶に口をつける。
優雅さを崩さないその姿に、ゴーゴリは楽しそうに身を乗り出した。
「もー、この前約束したでしょ?“なんでも一つ願いを叶えてくれる”って!だから逢引しに来たんだよ〜!」
どこからともなく薔薇を取り出し、ひらひらと散らす。
(そういえば……)
フェーニャは一瞬だけ思考を巡らせた。
(私の任務で口出ししてきたので、交換条件としてそんなことも話したような気がしますね……)
ほんの少しの沈黙の後。
「今日は生憎用事が……」
「もちろん変装していくよ!まぁ、君は女の子だからバレる可能性は少なそうだけど!」
被せるように遮られる。
フェーニャの眉間に、わずかに皺が寄った。
「……ですから少し用事がありますので、また別日に。」
「でも十分な時間が取れるの今日だけだし〜、その用事って何時まで?」
「午前中でしょうか。」
「じゃあその後逢引行こ!」
「逢引ではありませんが……。」
即座に否定する。
だがゴーゴリはまったく気にしていない様子だった。
フェーニャは小さく息を吐く。
(今日の用事……)
ポートマフィアの首領――森鴎外を襲撃する任務。
とはいえ殺す必要はない。 軽傷で十分。
必要なのは警官の服を二組。
(それさえ済めば……)
その後は特に支障はない。
ゴーゴリの“逢引”とやらも、致命的な妨げにはならないだろう。
(……まあ良いでしょう。)
ほんの一瞬だけ、兄の顔が脳裏をよぎる。
(兄さんは許してくれるかしらね?)
内心で報告だけ済ませる。
そして。
フェーニャはゆっくりと顔を上げ、ゴーゴリを見つめた。
「構いません……が、もう僕は出ないとなりませんので、失礼します。」
静かに立ち上がる。
マントが揺れる。
「あっ、ここで変装コーデ組んで待ってるからね〜」
「……はぁ」
小さくため息をつく。
(本当に帰る気がないのですね……)
諦めにも似た感情を胸に抱えながら、フェーニャは部屋を後にした。
背後では。
「さてさて〜!今日はどんなドス君にしようかな〜!」
楽しげな声と共に、衣装を引っ張り出す音が響いていた。
どうやら“逢引”は、既に始まっているらしい。
ーーーーー
夜の空気はわずかに湿り気を帯びていた。街灯の光がぼんやりと滲むその路地裏で、彼女は静かに受話器を置いた。
「あっ、あの、ひっ人が…!」
わざと震えた声。変声機を切り、本来の女の声で発したそれは、受話器の向こうに確かな緊張を走らせた。
『わかりました!今すぐ向かいます‼︎』
短い返答。――十分だ。
カチャリ、と音を立てて電話を切ると、彼女は何事もなかったかのように外へ出た。夜風が頬を撫でる。ほんの一瞬だけ、現実に引き戻されるような感覚。
(さて、ここからが本番ですね…)
帽子の位置を整え、視線を細める。すでに目星はつけてある。足取りは迷いなく、その場所へと向かった。
ほどなくして、目的の光景が視界に入る。
――だらしなく壁にもたれかかる警官。 ――飴を咥え、どこか気の抜けた様子の男。 ――そして、場違いなほど大声でCMソングを歌うもう一人。
(やはり、いましたね)
ここは“サボりの定番地”。警官たちの気の緩みが集まる場所。
彼女は自然な足取りで近づいた。
「失礼、そこのお兄さん…」
「ん?なんだ…ってうわ!!」
その瞬間。
プシュッ――
短く乾いた音とともに、男の意識は途切れた。続けざまにもう一人も同じ運命を辿る。
倒れ込む二つの影。
静寂。
(やはりここに目星を付けておいてよかったですね。)
感情のない、冷静な評価。
手際よく制服を回収する。サイズも問題ない。二人分――任務条件は満たされた。
(これで、警官の服を二組確保する任務は完了ですね)
ふと視線を落とす。
そこには、身ぐるみを剥がされ、無防備に横たわる男たちの姿。夜気に晒され、わずかに震えている。
ほんの一瞬。
思考が止まる。
「……」
ため息にも似た、微かな吐息。
「…毛布、掛けてあげますか。」
ーーーーー
鏡の中の自分を見て、思わず小さく息を吐いた。
「…仕方ありません」
警官の制服は明らかにサイズが合っていない。肩は落ち、袖は余り、全体的に不格好だ。 シークレットブーツで身長を誤魔化し、サラシで体のラインを潰しているとはいえ――根本は変えられない。
(まぁ、動ければ問題ありませんね)
淡々とそう結論づけると、彼女は鏡から視線を外した。
やがて辿り着いたのは、大路地と細い路地の境界。人の流れと影が入り混じる場所。 そこに、標的はいた。
(…あれが標的ですね?)
遠くから、落ち着き払った声が聞こえる。
「ふむ。追いかけっこは得意という訳か。」
その声音には、余裕があった。 ――ポートマフィアの首領、森鴎外。
「まぁいい。いかな脚自慢であっても“夜”から永遠に逃げることはできない。」
車の扉が開きかけるのが見える。
「あぁ奴は、直次の殺しとする。そこを狙おう。」
(後もうすぐですね…)
すでに仕込みは終えている。 車には爆薬。起爆は――“牧師殿”。
一瞬だけ、胸の奥が軋んだ。
(…ごめんなさい)
正しさと罪悪感は、決して打ち消し合わない。
――バタンッ
扉が閉まる音。
そして次の瞬間。
ドンッッッッッ‼︎
爆音が夜を裂いた。 炎と黒煙が空へと立ち昇り、周囲の空気を一変させる。
ざわめき。悲鳴。興奮。 野次馬が一気に集まり、場は混沌へと変わる。
(よし…)
帽子を深く被り、髪を完全に隠す。 そのまま人波の中へと滑り込む。
「すごい野次馬だ。少し目立ちすぎたねぇ。」
あまりにも平然とした声。
視線を向けると、そこには――無傷の森鴎外。 隣には、不機嫌そうに頬を膨らませたエリス。
(……)
計算は、外れていない。 だが――結果は、想定より軽い。
「ッ何の騒ぎですか!車が爆発したとの通報が…」
警官としての声音で問いかける。
「いやぁ、お巡りさんご心配なく。うちの子が燃料タンクにオレンジジュースを混ぜただけです。」
「はぁ?」
あまりに荒唐無稽な言い訳。 それでも、彼は平然としている。
「車さんにも飲ませてあげたかったと…ねぇ?エリスちゃん?」
エリスは明らかに呆れた視線を向けていた。
「…はぁ、事故、ですか。ではお怪我はないのですね?」
「えぇ、この通りピンピンしてます。」
(擦り傷でも、してくれていたらよかったのに…)
ほんの僅かでも傷があれば―― “この手”を使う必要はなかった。
「それは困りましたねぇ…」
その一言と同時に。
“グサッ”
鈍い音が、やけに鮮明に響いた。
「⁈」
腹部から滲む赤黒い液体。 森鴎外の表情がわずかに歪む。
それでもなお、彼は手を伸ばした。 自分を刺した相手を確かめるために。
帽子が落ちる。
「お前は…!」
その言葉を最後まで聞くことなく、彼女は帽子を拾い上げた。
そして――走る。
人混みの中へ、溶けるように。
「…エリスちゃん!」
背後で異能力が発動する気配。 だが、それよりも早く距離を取る。
(あとは先ほど呼んだ救急車に任せましょう。)
任務は完了。 致命傷ではない。だが確実に“傷つけた”。
それでいい。
夜の喧騒の中、彼女の姿は消えていった。
その胸に残るのは、達成感ではなく―― 静かに沈む、消えない罪の重さだけだった。
ーーーーー
人気のない路地裏に戻ると、彼女は迷いなく物陰へと滑り込んだ。
周囲に人の気配がないことを確認し、素早く警官の制服を脱ぎ捨てる。
(……終わりましたね)
慣れた手つきで元の服に着替える。 体に馴染む感覚に、わずかに緊張がほどけた。
そして最後に――
「……帽子は……?」
箱を開けた瞬間、手が止まった。
そこにあるはずの、あのふわりとした感触がない。
(確かにここに入れたはずなのに…)
視線が鋭くなる。
「帽子は…」
「探し物はこれかい?」
背後からの声。
振り返った先にいたのは―― 軽薄な笑みを浮かべた男。
「貴方ですか…」
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今回はここまでです。次回続きから行きます。
双葉 莉音
161
#フョードル・ドストエフスキー(文豪ストレイドッグス)
旅人X
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コメント
3件
**リオン:** 第2話、読了しました!前回よりコンパクトながら、濃密なエピソードでしたね。 ゴーゴリさんの登場シーン、扉を「破った」という表現に思わず笑ってしまいました。あの奔放さとフェーニャの冷静な対応の対比が絶妙です。任務の手際の良さや、気絶した警官に毛布をかけようか迷う葛藤が、彼女の人間らしさを感じさせて良かった。 そしてラストの帽子を巡る伏線!「探し物はこれかい?」の軽薄な口調が妙に気になります。次回、続きが待ち遠しいです。