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950
#さのじん
自分夢の中
3,722
舜side
「マジカル・バディ」の本誌連載決定と、増刊号での読者アンケート第2位。
そのニュースは、瞬く間に世間……そして、俺たちの通う高校にも爆発的な勢いで広がっていた。
「ねえ見た!? 今週の増刊の『マジバディ』、マジで神クオリティなんだけど!」
「わかる! 女児向けかと思ったらストーリー熱すぎて一瞬でファンになった!」
朝の教室。あちこちから聞こえてくる自分たちの漫画の感想に、
俺――曽野舜太は、机に突っ伏したまま心臓をバクバクと高鳴らせていた。
めちゃくちゃ嬉しい。嬉しいけれど、生きた心地がしない。
なぜなら、俺たちの通う学校には、この騒ぎの中心人物がもう一人いるからだ。
「キャー! 柔太朗くん、おはよう!」
「今日もかっこいいね! 髪型変えた?」
教室のドアが開いた瞬間、黄色い悲鳴が響き渡る。
登校してきたのは、学校公認の超絶イケメン・山中柔太朗。
非公式のファンクラブまで存在する、文字通りの完璧王子様だ。
対する俺はといえば、ひたすら地味な男。
……と、本人は思っているのだが。
(……あ、曽野くん今日も髪ちょっとハネてて可愛い)
(絵描いてるときの真剣な横顔、マジでギャップ萌えだよね……)
実は、柔太朗の派手な人気に隠れて、クラスの女子たちから「陰の癒やし系」として凄じい裏人気を誇っていることに、俺自身は1ミリも気づいていなかった。
完全に柔太朗の引き立て役だと思い込んでいる俺に、当の王子様が歩み寄ってくる。
柔「……おはよう、舜太くん」
きらめくような笑顔。周囲の女子たちから小さな歓声が上がる。
舜「お、おう、柔太朗……おはよう」
柔「(ねえ、昨日送ったネームの修正、どうかな?)」
すれ違いざま、柔太朗が周囲に聞こえないほどの小声で耳元に囁いた。
それだけで心臓が跳ね上がる。そして、俺たちの間には、誰にも言えない秘密の約束がある。
『――俺たちの漫画で天下を獲ったら、その時は、付き合おう』
まだふたりで描き始めたばかりの頃、柔太朗が真剣な目を向けてプロポーズみたいに告げてきた言葉。
正直、最初は戸惑った。
というか、急にそんなこと言われてもなんか嫌だったし、男同士だし、何より完璧すぎる柔太朗と俺じゃ釣り合わなさすぎるって逃げ出したかった。
なのに、柔太朗の熱量に引っ張られて、一緒に必死で原稿に向き合っているうちに、いつの間にか俺の心の中も変わっていた。
嫌だったはずの約束が、今では俺を突き動かす一番の原動力になっている。
柔太朗と並び立ちたい。
看板作家をぶち抜いて、完璧な「天下」を獲らなきゃ、俺は柔太朗の隣に胸を張って立てないんだ。
だが、そんな決意を揺るがす大ピンチは、昼休みに突然やってきた。
購買でパンを買った帰り、女子たちがスマホを囲んで熱狂的に話し込んでいるのが目に入った。
「そういえばさ、マジバディの原作者と作画の先生って、現役の男子高校生コンビらしいよ!」
「えっ、マジ!? 出版社のインタビューに書いてあった!」
「しかも、作画の先生のサイン、この学校の美術部の備品に描いてあるイラストのタッチにそっくりじゃない……?」
ドクン、と心臓が嫌な音を立てた。
やばい。
俺、たまに部室のホワイトボードとかノートに落書きしてた。
絵のクセでバレるのって、一番致命的じゃん……!
焦って引き返そうとした瞬間、背後から声をかけられた。
「あ、曽野くん! ちょっとこれ見てよ、この漫画の絵、曽野くんの絵にめっちゃ――」
「うわ、やばい……!」
頭が真っ白になった。
完全に終わった。
そう絶望した瞬間、背後から伸びてきた強い腕に、ぐいっと身体を引き寄せられた。
柔「ちょっと舜太くん借りるね!」
現れたのは柔太朗だった。
彼は女子たちに完璧な営業スマイルを振りまきながら、俺の手を掴んで猛ダッシュした。
柔「舜太くん、こっち!」
舜「ちょ、柔太朗、どこ行くねん! 後ろから誰か追ってきてる!」
女子たちの足音が廊下に響く。
完全に怪しまれている。
どこか隠れる場所は
――そう思った瞬間、柔太朗が旧校舎の隅にある、使われていない大型の掃除用ロッカーの扉を勢いよく開けた。
柔「入って!」
舜「えっ、ふたりで!?」
躊躇する暇もなく、柔太朗に押し込まれるようにして俺たちは狭いロッカーに飛び込み、内側からカチリと扉を閉めた。
直後、ロッカーのすぐ外を「あれ? どっち行ったっけ?」と女子たちの声が通り過ぎていく。
(……やっば、近すぎる……!)
外の気配が遠ざかるのを待ちながら、俺は自分の心臓の音が外に漏れてるんじゃないかってくらい、激しくドクドクと脈打つのを感じていた。
ロッカーの中は、信じられないくらい狭い。
俺の胸に、柔太朗の硬い胸板がぴったりと密着している。
暗闇の中、わずかな隙間から差し込む光が、柔太朗の端正な顔立ちを怪しく照らしていた。
いつもいい匂いがする柔太朗の香水が、この密室のせいでダイレクトに鼻腔をくすぐって、脳が溶けそうになる。
柔「……ふぅ。危なかったね、舜太くん」
吐息が、俺の耳元に直接かかった。
ゾクッと身体が震える。
すぐ目の前にある柔太朗の瞳は、学校で見せる「王子様」のそれじゃなくて、俺だけに見せるギラギラとした野心、そして――少しだけの熱を帯びていた。
舜「み、密着しすぎやろ……っ、柔太朗、ちょっと離れて……」
柔「無理だよ、狭いもん。……それとも、嫌?」
悪戯っぽく微笑みながら、柔太朗がさらに一歩、身体を寄せてくる。
俺の背中がロッカーの壁にぶつかり、逃げ場がなくなる。柔太朗の長い指が、俺の制服の襟元にふわりと触れた。
柔「まだ天下を獲ってない。世界中に俺たちの面白さを知らしめて、完璧な1位を獲るまでは……ふたりの秘密。もちろん、その後の関係もね」
あんなに最初は嫌だった言葉。
なのに、今の俺の胸に湧き上がってきたのは、もどかしいほどの熱い闘志だった。
舜「っ……分かっとるわ!」
顔が熱くて爆発しそうだ。
でも、ここで弱気になったら柔太朗に負けた気がする。俺は柔太朗のネクタイをぎゅっと掴み返し、至近距離でその目を真っ直ぐに見つめた。
舜「誰がこんなところで諦めるか。2位スタート上等、学校の連中にも、あの看板作家にも、俺たちの本気を見せつけてやる。……だから、絶対に天下獲ってやるから、それまで待っとけよ」
俺の言葉に、柔太朗の瞳が驚いたように見開かれ、それから嬉しそうに、どこか妖しく綻んだ。
柔「うん。その意気だよ、俺の最高の相棒。……早く俺のものになってね」
ロッカーの中の狭い世界で、ふたりの距離が、物理的にも気持ち的にも、これ以上ないほどに重なり合っていた。
バレそうな危機のドキドキと、胸の奥の甘すぎる熱。
俺の耳は一日中真っ赤だった。
fin
コメント
1件
読み終わりました……! もう、ロッカーの中の距離感がヤバすぎて、読んでるこっちまでドキドキしちゃいました💦 柔太朗の「まだ天下獲ってない」の言葉、あの約束が今はもう舜にとって大事な原動力になってて、切なくて、でもすごく熱い……。学校にバレそうになるハラハラも、ふたりだけの秘密の重さも全部好きです。この先の「天下獲る」瞬間、絶対見たいです🥀🌙