思い出したくない断片的な罪の記憶。今すぐにでもここから離れたいという衝動に駆られた。
しかし、それは許されない。早く終わらせて、息子に合わなければならない。日帝にあそこまで強く言っておいて自分が退くわけにはいかない。覚悟を決めて自分自身と向き合う。
「貴方達は何が目的ですか?」
ギラりと、鋭い目つきで彼を、大英帝国を睨みつけた。彼は全く臆すること無く、目を細めて、言葉をゆっくりと咀嚼して飲み込んだような間を空けてから返答をした。耳に残る、優しく残酷な気味の悪い声だった。
「それって、重要ですかね?…まあ、いいです。別に隠していた訳じゃないので。」
軽い調子に乗せられた一言一言がずしんと重くのしかかる、そんな感覚がした。
イギリスは不快感と戦いながらも、彼の言葉を一語一句聞き逃さぬように耳をすませた。
「貴方達を救うためですよ。歴史から逃げた貴方達が、真の意味で幸せになることは出来ない。記憶の蓋を開けに来たんです。そのために、私を殺してくださいな。」
「っ――!理解できない!」
感情に任せて言ったものの、嘘を吐いていないことは分かっていた。
イギリスは深呼吸をして剣を抜いた。銃で音が出るのは嫌だったからだ。
「そう言っておきながら、感情に素直ですね。私じゃないみたい。でも、殺すこと自体には全く何の躊躇いも無い。息子にバレることを警戒していますね?」
「言い残すことはそれだけで十分か?」
「勿論です。ありがとう。」
彼はほとんど音を立てず、美しく、まるで薔薇が散るかのように死んだ。
「クソ親父が、、なんでだよ…」
「あなたは選択を間違えた。」
「そういえば、出会いのきっかけになった場所も此処だったね。」
最後の声が頭にこびりついて離れない。
聞き覚えのある、いや、ありすぎる声だ。
「…フランス?」
余韻に浸る間もなく、銃声が響いた。嫌な予感がした。冷や汗がつたうのが分かる。
体というのは便利なものだ。何かを考える前に走り出していた。
速く、早く、息子の所へと行かないと。
危害は加えられてはいないだろうが、それ以上の疑念が心の奥底を支配していた。
私は息子と一緒に居る資格があるのか?
あの記憶が本当ならば、もし同じ記憶を見せられていたならば、私は受け入れて貰えるのか?
早くしないと手遅れになる。何故か訳もなくそう感じた。
自分の心臓の鼓動が頭に直接響くように感じ始めたら、やっと視線が息子を捉えた。
「アメリカ!!」
名前を呼んで、やっとアメリカはこちらに気がついた。
銃を持つ手は震えていて、いつも憎たらしい笑みを浮かべている口元は固く閉ざされ、音がしそうな程に歯が食いしばられている。顔は青ざめており、それとは対照的に真新しい鮮血の赤が服を汚く彩っている。サングラスの奥に隠れた碧色の瞳は大きく揺れ、こちらを凝視している。
何より目につくのは足元に転がった死体だった。アメリカに宛てられた写真の者に間違いない。
13植民地
記憶のピースが揃い始めている。
「親父、、? あ、これ、は、ちがくて、、」
「大丈夫です。怖がらないでください。怪我が無くて良かったです。」
イギリスは手を伸ばして、酷く怯えた様子のアメリカの頭を撫でた。
アメリカの呼吸はゆっくりと穏やかなものに戻っていき、目に光が宿った。アメリカは安心したように地面にへたりこみ、ホッと息をついた。
「良かった。…やっぱり、親父は親父だな。」
イギリスは安心など出来なかった。あそこまで追い詰められた様子のアメリカを見たことがない。とはいえ、ずっと此処で仲良く励まし合っている場合では無い。一刻も早く真実を、歴史を、明かさなければならない。
加えて、フランスのことが気がかりだった。
「…うん、もう大丈夫だ!行こうぜ!」
アメリカは笑顔を貼り付けて、イギリスの手を引いた。
未だに無数の声は頭から離れず反響していた。
「黒幕はあの2人だって言いたいのか?」
「そういうことだ。今頃他の連中も”声”を聞いているところだろう。」
「あの2人が黒幕だとして何が目的なんだ?」
ソ連とナチスが殺風景な部屋で言葉を交わす。国際連合と国際連盟が黒幕の可能性が高い。そんな状況下で今出来ることは少ない。
瞬間、後ろに気配を感じた。
「あーあ、バレちまったか」
コメント
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最後の人は誰だろう... 気になるぅぅぅッッ