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臣桜
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臣桜
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#女主人公
#シークレットベビー
朝永ゆうり
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「はぁー……、お腹一杯!」
部屋に戻った私は、ミニバーからジュースを出し、少し膨らんだお腹をさすってソファに座る。
「……本当か?」
尊さんも同様に飲み物を出し、少し疑わしそうに見てくる。
「こう……、物理で〝お腹一杯〟にする時と、高級な物をいただいて気持ちも満たされての〝お腹一杯〟は、質が違うんですよ……」
「そう言うと、余計にプロっぽいな」
「お腹一杯のプロってなんですか」
私はケラケラと笑い、ホテルオリジナルのジュースを飲む。
時計を見ると、そうのんびりしていられない。
「お腹がこなれたら、貸し切りのお風呂行って来ますね。お部屋にある温泉も立派だけど、他の皆さんが参加するなら、裸の付き合いをしたいです」
「ん、行ってこい」
「アイアイサー」
私は返事をしてジュースを飲み、少し脚をブラブラさせる。
そしてずっと気になっていた事を尋ねた。
「……プレゼント、渡せそうですか?」
「…………ん…………」
今回の旅行が百合さんの誕生日祝いも兼ねていると聞いて、尊さんは大地さん達と入念に打ち合わせをしていた。
尊さんは贈り物を持って来ただろうに、渡すタイミングを見失っている。
なんだか好きな人に誕生日プレゼントを渡せずにいる友人みたいに思えて、見ていてムズムズする。
「何とかする」
尊さんにポンポンと頭を撫でられ、私はグリグリと彼の肩に頭を押しつける。
「みんなで幸せになるんですよ。遠慮したら駄目ですからね」
すると彼はクスッと笑う。
「分かってるよ。サンキュ」
彼は水をグーッと飲んで、溜め息をついてから言う。
「みんなでの風呂が終わったタイミングで、渡せないか見計らってみる。旅行が終わって解散する時に渡すより、なんかこう……、非日常の空間で、俺だけじゃなくて母とあかりの事も思いだしてほしいから」
「うん、そうですね」
私は微笑み、彼と腕を組むとギューッと力を込める。
「ケアンズで見たコアラみたいだな」
「今なら無料で抱っこできますよ」
「ははっ、お得だな。どれ、来いよ」
尊さんが両手を広げたので、私は一度立ちあがってから、彼の膝の上にドスーン! と乗った。
「どすこーい!」
「やけに力を込めて座ってくるじゃねぇか」
彼はクスクス笑い、「よっ」と私を横抱きする。
「……疲れてないか?」
「んー……、正直に言うと疲れてますけど、楽しいです。それに、凄く大事な旅行をしてるなって思います。恵たちと行ったケアンズも、四人での絆が深まりましたし、今回は尊さんが速水家の皆さんと、もっと仲良くなっていくための行事」
それを聞き、尊さんは私の額に優しく唇を押しつける。
「人生、色んな出来事って、全部が準備万端の時に訪れてくれないです。『忙しいな。安みたいな』って思いながらもこなしていって、あとから振り向けばいい思い出になっている。きっとそれの繰り返しです」
「……だな。俺も『もっと休みてー』って思うけど、忙しいぐらいが丁度いいんだろうな。休みがあれば有効利用するけど、時間が余りすぎても俺の場合は余計な事を考えそうだ。……まだ憎しみから完全に解放はされてないから」
「うん。……いいんですよ。時間をかけていいんです」
私はキュッと尊さんを抱き締め、彼に頬ずりする。
みんな今回の旅行を楽しんでいるけれど、本当は〝色んな事〟をじっくり語りたいんじゃないかと感じている。
皆さん普段は多忙だから、理由がなければこうやって一緒に旅行をする事はないだろう。
孫世代もみんな大人だし、旅行となれば自分の家族、友達と行くほうが多いだろう。
でもあえてこうやって集まったのは、尊さんを招いて同じ体験をしたいという理由からだ。
さらにその奥にある、長年わだかまっていた感情を解き放ってほしいな、とも感じているけれど、物事にはタイミングがある。
けれどそれは私ではなく、尊さんと速水家の皆さんの意思で決めるべきなので、見守るしかできない。
コメント
1件
わあ、第869話、読ませていただきました……!「お腹一杯のプロ」って会話、思わずクスッとしてしまいました🤭 お互いに疲れているけど「楽しい」「大事な旅行」って言い合える尊さんとあかりさんの距離感が本当に温かくて、胸がぎゅっとなりました。プレゼント渡すタイミングを見計らう尊さんの優しさと、それを見守るあかりさんの「無料で抱っこしますよ」が可愛すぎます……。家族のわだかまりに触れつつ無理に踏み込まない、二人のバランスが素敵でした。