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アイツが働き始めてから2ヶ月程経っただろうか。定期の情報収集の後、同業の周年祭に顔を出してみようかと近道として路地を歩いていると、今日はこの街に居るはずのない見慣れた姿が遠くに見えた。
物陰に隠れて確認したその姿は、いつだかに見かけた別人のようにアンニュイな雰囲気を纏っていて。
「アイツ…まさか、」
予想は案の定だった。
目の前を通りかかろうとする男の容姿を真っ先に見定める視線。彼からその男に声をかけ、立ち止まるとすぐに数回言葉を交わす。
以前と変わっていたのは、その間もチェックする──装飾品を見る目。
それは、かつて俺が彼やその友人にしたもので、且つ俺の知らぬ間に彼が独自で今の仕事を基に培ってしまったものだった。
男は誘いを承諾したようで彼の腰を引き寄せると、周りから隠すように金を財布から数枚出し、彼の尻ポケットに忍び込ませる。そのままホテル街に向かおうとした方向が、たまたま俺の立っているまさにそこであって。
姿を現した俺を視認すると同時に彼は立ち止まり、並列していた男との歩みを乱す。あからさまに泳ぎ出す瞳。俺はずっと、何も言わずにそれを見つめ続けていた。
「、……何で ここに、」
「お前こそ、ここで何してるの?」
状況が把握できていない男は、立ち尽くす彼の身体を肘で小突く。
「ちょっと。」
「あ、ごめん…行こか。すんませんお兄さん、そこ通ります。」
余所者のように振る舞い俺の横を抜けようと軌道を逸らす2人の前に、身体をスライドさせて立ちはだかった。
「おい。お前何なの?」
「ちょっと、ごめんね。」
突っかかってくる男に営業用の微笑みを浮かべ、黙らせるように人差し指を口元に当てる。そうして顔を俯かせて意味のない顔バレ逃れをする彼の目の前に立ち、声音鋭く声をかけた。
「幾ら貰った。」
「………。」
こちらを見るどころか、顔を逸らし頑として沈黙を貫く彼。この感じではどうしようもないと判断した俺は、忍ばされていた尻ポケットの金を引き抜いた。
「ちょっ…何すんねん、返せって!」
取り返すように伸ばされる両手を躱して確認したその数は3枚。それを男に突き返し、俺は自分の財布から同じ紙幣を2枚取り出して差し出した。
「お兄さんには悪いけど、こいつ俺の身内なの。これで他の人あたって?」
「はぁ?この子が俺に、」
「うん。だから、消えてくれる?」
先程の微笑みを失くし、言葉にしただけで謝罪の気持ちなんて勿論1ミリもなく、プレッシャーをかけながらそう告げると男はぐっと息を呑み、舌打ちを残して差し出した金を奪うように手に取り去っていった。
その背中を見る端でこそこそと俺の左横を通り過ぎようとする彼の右肩を掴み、再度俺の目の前へと立ち位置を戻す。俺の力加減に少しフラついた彼は、目を合わせることもなく首に手をあててそわそわと宥め行動を始めた。
「………。」
「…何してるの。」
再び問いかけても黙秘権を行使する彼。俺は煙草を取り出して火を点け、紫煙を吐きながら続けた。
「お前、仕事頑張ってたじゃん。それに沿った十分な給料貰ってるはずだけど。」
「何しようが俺の、…勝手やろ。人目つかへんとこでやってるやん。」
絞り出すようにそう口にするも、少し掠れた声は何かに耐えるように震えている。
確かに彼の言う通り、今回の目撃はたまたまとはいえ、この前のように大っぴらに行動をしているわけではなさそうだった。…それでも、だからと言ってそれで良いという訳がなく。
「界隈は違えど同じ街の店で働いてるじゃん。プレイヤーではなくとも接客はするんだから、後々はっきり顔も覚えられる。だから今はもうそういう訳にはいかないって…解らない?」
行動に対するリスクへの理解度を確かめると、ぐっと唇を噛んだ彼。暫く考える猶予を与えるように喫煙を続ける。吸い終わったそれを踏み消し、携帯灰皿に収めた頃、漸く彼は再度口を開いた。
「────かんの?」
「何?」
「負わされるストレスも、その発散も、望みの薄い出逢いも。…全部、我慢せなあかんの?」
つまり、仕事内容にも余裕ができたから、今度は金の為じゃなくて性欲のままにまた始めた、と。
(…とんだ身勝手だな。)
「お前ツラ良いんだから店でこっそり女の子引っかけてさ、」
「それはあかんって!…女性は無理や言うたやん。」
「だったらその辺のバーとか行けばいいんじゃないの?」
「稼ぎたい言うてんのに何で金使わなあかんの。」
そして妙に倹約家ときたもんだ。まあ、学費がどうのとか言っていたこともあり、節約するのはやむを得ないこと、か。
「それに、毎回立ってるだけで金貰えるならそっちでええやん。」
「…お前立ってたら百発百中なの?やっぱプレイヤーやったら?」
「やらん言うてるやろ!」
《話聞けて。》と彼は苛立ちの込められた溜息を吐いた。
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