テラーノベル
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その招待は、静かに届いた。
黒い封筒。
中にはカードが一枚。
「今度こそ、公平に」
――嘘だ。
チャンスはそれを見て、笑った。
「“公平”って言葉が一番似合わねえな」
場所は同じ。
あのカジノ。
だが、空気はまるで違った。
客はいない。
音楽も止まっている。
用意されているのは、ただ一つのテーブル。
その奥に――
マフィオソ。
「来たか」
「来いって言ったのはそっちだろ」
チャンスは椅子を引き、座る。
足を組む。
余裕の顔。
マフィオソは、じっと見ている。
観察するように。
「ルールは前回と同じ」
「イカサマ込み、だろ?」
一瞬の沈黙。
「……ああ」
隠さない。
チャンスが笑う。
「正直でいいじゃねえか」
ディーラーはいない。
カードはすでに配られている。
つまり――
場は“完成されている”
チャンスはカードに触れない。
「なあ」
「なんだ」
「お前、どこまで仕込んだ?」
マフィオソの目が、わずかに揺れる。
「……すべてだ」
照明。
椅子の高さ。
カードの配置。
空調。
視線誘導。
すべてが、“勝つため”に設計されている。
普通なら、ここで詰みだ。
だが――
チャンスは、カードに指をかける。
「いいね」
一枚、めくる。
マフィオソの呼吸が、ほんのわずかに止まる。
(来る)
だが――
チャンスは、カードを見ていない。
「お前さ」
そのまま、カードをテーブルに戻す。
「勝ちたいんじゃねえだろ」
空気が、凍る。
マフィオソの指が、わずかに動く。
「何を――」
「違うな」
チャンスが、ゆっくりと顔を上げる。
「“知りたい”んだろ」
沈黙。
それは、核心だった。
マフィオソの中で、何かが崩れる。
完璧だったはずの“仕組み”が、
音もなく軋む。
「……続けろ」
声が、低くなる。
チャンスは笑う。
「お前は全部コントロールしてるつもりで、」
「一番コントロールできてねえもんがある」
間。
「自分だ」
その瞬間、
マフィオソの中で“ズレ”が決定的になる。
カードをめくる。
本来なら、勝つはずの手。
完璧に仕込まれた勝利。
だが――
チャンスは、もう一枚めくる。
あり得ない配置。
成立しないはずの手。
「な……」
初めて、声が漏れる。
あり得ない。
すべて操作している。
それでも――
結果が、ねじ曲がる。
チャンスは、カードを揃える。
静かに。
確定した勝利。
「ほらな」
マフィオソは、動かない。
理解が、追いつかない。
「なんでだ」
その問いは、初めて“本音”だった。
チャンスは立ち上がる。
ゆっくりとテーブルに手をつく。
身を乗り出す。
距離が、近い。
「簡単だ」
低く、囁く。
「お前が全部決めたからだ」
マフィオソの目が、揺れる。
「決めすぎた時点で、」
「それは“ゲーム”じゃねえ」
一拍。
「ただの作業だ」
――だから負ける。
完全に、崩される。
マフィオソの世界が。
チャンスは背を向ける。
「もう一回やるか?」
返事はない。
ただ、震えるように呟く。
「……お前は、何なんだ」
チャンスは振り返らない。
「さあな」
歩き出す。
「だから面白いんだろ」
去っていく。
残されたマフィオソは、
カードを見つめたまま動かない。
完璧だったはずの世界。
だがそこに、
“理解できない存在”が入り込んだ。
そしてそれを、
排除する気は、もうなかった。
むしろ――
手に入れたいと思っている。
ゆゆゆゆ
ゆゆゆゆ
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